死んでからなんかもったいなくて一冊も読めてなかった浦賀先生ですが最近彼女に『透明人間』を読ませたらとても面白がりながら読んでくれたのでそれを見てたら自分も読みたくなっちゃって読みました。
未読7冊のうちの一つ。
本作は桑原銀次郎シリーズの第1作に当たります。
似たタイトルで似た表紙で同じ出版社から出てる同じシリーズとしか思えない『彼女は存在しない』は実は無関係だったりします(※後に「彼女は存在する」という短編で両者が繋げられてるらしいです。未読ですが)。
フリーライターである主人公の桑原銀次郎は、週刊誌からの依頼で元妻で内科医の聡美が起こしたとされる医療ミスについて調査することになる。
調査過程で死亡した女性・綿貫愛に不審を感じた銀次郎は、聡美に着せられた汚名を晴らすために彼女が死んだ原因を探っていくが......。
といった感じの医療ミステリ。
驚くべきことに......といってもあらすじから察してはいましたが、本作では人間を食べたり近親相姦したり首をちょんぎったりクローン人間が出てきたりは一切しないのであります。
そういう、読者を選ぶ危険な魅力は封印し、自分のカラーを出すよりもプロの作家として一般に受け入れられるミステリ小説を書くことに専念しました、みたいな感じなんですね。
で、ファンとしては当然そこに若干の物足りなさを感じなくはないのですが、しかしあれだけクセの強い作家なのにこういう誰もが楽しめるような分かりやすいエンタメ作品も器用に書けてしまうことに改めて浦賀和宏は天才やなぁと思いました。著者本人が生きてたらこういうこと言っとけばリツイートしてくれたんですけど......。
そして、クセがなく読みやすいとは言いながらも、元妻への未練と仕事との間でうだうだと鬱屈する主人公の銀次郎の姿には安藤直樹や八木剛士の面影もちらりと垣間見ますし、聡美という女にこっちが勝手にむかついちゃう感じも純菜ちゃんのこととかを思い出してしまったりします......ああ、俺の純菜......。
冒頭の医学の講義だけは正直ややだるいし、中盤も地味な調査パートが続くのですが、それでも退屈する瞬間がほとんどなく一気に読めちゃうリーダビリティは健在。
そして、かなり劇的な解決編(?)は地味な捜査パートとの対比もあってインパクト抜群。
ミステリとしてはシンプルな真相と複雑な細部にやられっばなしだし、物語としてはエモーションが溢れまくってしまうし、両方の意味でのカタルシスに浸ってしまいます。
終わり方も浦賀作品にしてはかなりさっぱりしてて、ほろ苦くも悪くない後味で読み終えることができました。
彼女は存在しないに便乗してる感じはどうかと思うけど、それ以外はめちゃくちゃ面白かったです!