偽物の映画館

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浦賀和宏『上手なミステリの書き方教えます』読書感想文


松浦純菜への恋を募らせる八木剛士だったが、ある日純菜の目の前で下級生にイジられるという醜態を見せてしまう。更には最強のライバル・河野が純菜攻略に着手し......。

エロ萌え小説家の松本楽太郎は、キモオタ読者どもへの呪詛を吐く日々を送っていたが、ある日昏睡状態から目覚めた妹が何者かに殺害され......。

上手なミステリの書き方教えます (講談社ノベルス)

上手なミステリの書き方教えます (講談社ノベルス)

100%片思い
Baby I love you so 好き好きBaby

さて、何から話そうか......。
まぁ、なんつーか、一言で言えば怪作?問題作?という感じですね。

前の2作品が真っ当なミステリだったのに対し、本作はタイトルとは裏腹にミステリ要素がかなり減量されていて、剛士のドキ♡ドキ初飲酒!のコーナーと、エロ小説家がオタクをディスるコーナーが大半。そこに、それこそ頭の体操みたいな申し訳程度の密室トリックなんかは出てくるんですが......とにかく俺は何を読んだんだろうと思わされる異形の1冊です。もちろん、私はそういうの好きなんで非常に楽しめました。


まず剛士のパートでは、前作の新キャラ南部くんあたりが登場......するかと思いきやそんなことはなく、前作から引き継がれているのは剛士のパンツへの情熱だけ!
いかに純菜のパンツが欲しいかを延々と語る様はまさに童貞の脳内そのものであり、それをここまで剥き出しで(小説らしく加工せずに)出してくるあたり好きすぎます。なんかもう、小説というよりは剛士の裏アカのツイートを見てるような感覚で楽しめました。
からの、みんなで飲み会に行くというオタク高校生には超高いハードルに挑んだりと、陰キャからしてみればインディ・ジョーンズばりの大冒険を繰り広げるので笑いながら胸が痛みっぱなし。こんなに好きやのに、つれないな〜。なぁ〜。



一方、中盤で彗星の如く現れる松本楽太郎先生の語りもまた最高。
私は別段秋葉原の萌え萌えオタクに恨みはないのですが、彼が繰り広げる痛烈、いや壮絶なまでのオタクディスは内容に関わらずその熱量だけで読んでてエモい気分になってしまいました。
起きる事件の真相は著者の作風を考えれば全て分かってしまっ......たと思いきや、最後のアレにはやられました。私って素直で性格が良いので、こういうエグいことは思いつきもしなかったです。



本書の裏表紙のあらすじには「結末圧倒的感動必読」という素晴らしい惹句が付されていますが、まさにその通り、もう一度八木剛士パートに戻っての結末には泣かずにはいられませんでした。

そして、気づいたのです。
私もまた、純菜に恋してしまった、と。