偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

2020年に読んだ本ベスト10


はい、こんにちは。
こないだのアルバムランキングに引き続きまして今年読んだ本ランキングです。
今年は90冊ちょっと読みましたが、半分くらいは穂村弘浦賀和宏で、他の作家のはあんま読んでないので、例年みたいにベスト20じゃなくて、10でいきます。

今年はイルミネションも見に行けなかったので車に乗ったら3℃で驚いた時の写真を。
ゆうてる間に今や0ですからね。おそロシア



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ではさっそく10位から発表していきます。

ちなみに一言コメントも付けますが、ほとんどはブログに既に上げてる作品なのでそっちも読んでもらえると嬉しいです。




10.アレン・エスケンス『償いの雪が降る』

アレン・エスケンス『償いの雪が降る』読書感想文 - 偽物の映画館

アメリカの気鋭作家さんのデビュー作なんですが、ミステリとしてはやや物足りないものの青春小説としては絶品な青春ミステリです。




9.三山喬『ホームレス歌人のいた冬』

三山喬『ホームレス歌人のいた冬』読書感想文 - 偽物の映画館

かつて朝日新聞の歌壇を賑わせながら、短い投稿期間を経て蜃気楼のように消え去った"ホームレス歌人"のその後を追うルポ。
ノンフィクションなんだけど、謎めいた人物を追うミステリーとしても読めるし、ホームレス歌人の作品や生き様が素晴らしく、取材の過程で出会う人たちのドラマでもありながら著者自身の物語にもなっていく、小説のように読めちゃうルポルタージュです。おすすめです。




8.穂村弘『現実入門』

敬愛するエッセイストにして歌人(逆か)の穂村弘さんによる虚実入り乱れたエッセイ風の何か。
「極端に臆病で怠惰で好奇心がない性格」の穂村弘献血や占い、モデルルーム見学など、今までの人生で経験してこなかったことを一気にやっていく爆笑体験ルポエッセイ......なんだけど、最後まで読むと良質の幻想小説のような、それでいて極度の捻くれ者による恋愛小説のような、ヒジョーに不思議な読後感があり、本書を機に一気に穂村ファンになった記念の一冊として8位に入れておきます。他のエッセイもほとんど読んだけど全部面白いです。自虐をユーモアに包んで読者に「穂村は俺だ......!」とまで思わせるほどの共感を与えつつ、どこかで一線を引くように「俺は穂村にはなれない......」とも思わせるあたりの読み心地は太宰治に通ずるものがあります。ほむほむ大好き。




7.綿矢りさ勝手にふるえてろ

勝手にふるえてろ (文春文庫)

勝手にふるえてろ (文春文庫)

同じく太宰枠(なんだそれ)から、綿矢りさの代表作。
タイトルや、1行目のキャッチーさ、声に出して読みたくなるような軽やかで気持ち良い文章、やはり自虐的な内容を面白おかしく書くあたりが太宰感。
それでいて太宰ほどの悲劇性がなく、いい意味で軽くて、私にはより感情移入しやすかったです。とともに、女性主人公ならではの男には分からないネタの数々にも爆笑。
想像してたのの100億万倍エンタメ性高くて超面白かったです。




6.トマス・H・クック『緋色の記憶』

緋色の記憶 (文春文庫)

緋色の記憶 (文春文庫)

田舎村に赴任してきた美しい美術教師と、妻子ある男性教師の関係が引き起こした事件を、当時中学生だった"私"の回想で描き出した悲劇。

話の核心である"チャタム校事件"の全貌が最後まで語られないままに細緻な心理描写を重ねていくクックらしい重厚でやるせない人間ドラマ。
ミステリとしてはインパクトが弱いものの、そんなことはどうでもよくなるほどの強い印象が残りました。暗い物語を描くことで逆説的に光を描く、著者の代表作と呼ばれるに相応しい傑作。




5.小川勝己『まどろむベイビーキッス』

まどろむベイビーキッス (角川文庫)

まどろむベイビーキッス (角川文庫)

キャバクラ嬢の主人公。職場では醜い人間関係が展開され、唯一の癒しである自身のホームページでは掲示板を荒らされ......というところからはじまる、小川勝己らしいリビドーに満ちた幻想ミステリ。
先の読めないプログレな展開と、シンプルに切れ味鋭い真相、そしてエモさの三拍子揃った傑作。
個人サイトという題材は古く感じられますが、そこから描かれるテーマは普遍的なもので、特にSNS社会の現代にこそ読まれるべき作品だと思います。




4.葵遼太『処女のまま死ぬやつなんていない、みんな世の中にやられちまうからな』

恋人を病で失った"2度目の"高校3年生の主人公が、新しいクラスで出会ったギャル、オタク、吃音少女というはぐれ者たちとバンドを組むお話。

バンドを組むお話、特に少年少女がバンドを組むお話は大好きだし、不謹慎かも知れませんが死別モノも大好物。その点死別してからバンドを組む本作は好きの二乗でどハマりました。
バンドをやりながら前に進む話なので湿っぽくはなりすぎず、けれども確かに喪失の哀しみも描かれていて、読みやすくも心に残る作品。




3.松浦理英子『親指Pの修業時代』

親指Pの修業時代 上 (河出文庫)

親指Pの修業時代 上 (河出文庫)

親指Pの修業時代 下 (河出文庫)

親指Pの修業時代 下 (河出文庫)

ある朝目が覚めると足の親指がペニスになっていたーー。
女子大生の主人公の身に起こった出来事から、恋人との関係の変化や性の見世物集団での出来事を繊細に描いていく異色の物語。

......っていう発端こそ衝撃的なものの、内容はとても真摯な人間ドラマです。
描かれるセックスやジェンダーというものに関しての問いかけには、作中で明確な答えなどは出ません。しかし、だからこそ読後も考えさせられて長く余韻を残す名作です。




2.二階堂奥歯『八本脚の蝶』

八本脚の蝶 (河出文庫)

八本脚の蝶 (河出文庫)

25歳で自ら命を絶った編集者が、死までの2年間に綴ったブログを書籍化したもの。

とはいえ日記の大半は、稀代のビブリオマニアである彼女が様々なジャンルの本をはじめ、ぬいぐるみやファッションなど好きなものへの愛を語るもので、無邪気な少女の話を聞くようでありながら、私などは及びも付かぬ天才の脳内を覗くような、楽しくもスリリングな読み心地でした。
それだけに終盤彼女がどんどん死へと吸い寄せられていく様には泣きそうになったし、最後は泣きました。
それでも、不謹慎かも知れませんが彼女の勇気には憧れてしまう。私も彼女と同じ25歳から、彼女がならなかった26歳になる頃に読んだので一層思い入れの強い一冊となりました。




1.浦賀和宏『八木剛士・松浦純菜』シリーズ

今年の1月にこのシリーズを読み、年明け早々死にたくなりながら2月になってしまった。
その後、浦賀和宏は本当に死んじゃったし、私も本当に死にたいと思ったり、色々なことがあったけど、結局今年1年の私の気分を決定づけたのはこのシリーズなんですよね。
これを読んでいた頃にはまだマスクもしてなかったのかと思うとこの1年での世界の変わり方に改めて驚かされます。
浦賀和宏のご冥福なんて祈らねえ。俺を残して安藤直樹の結末も残して死にやがってクソが。と思う。