偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

三津田信三『どこの家にも怖いものはいる』


タイトルの通り、家がテーマの怪談短編集であるのと同時に、それぞれの話の"ミッシングリンク"を探す長編ホラーミステリでもある贅沢な作品です。いつも通り、三津田さんご本人が登場し、編集者の青年と共に各話のつながりを探っていくという構成になっています。映画や小説談義が少ないのはやや物足りないですが、作中時間が『幽女の如き怨むもの』の執筆中ということで、『幽女』の裏話が盛りだくさんなのはファンにはとっても嬉しいところ。
それぞれの話も、「どこか似た話」というテーマの通り共通する部分は多いですが、それでも様々な面でバラエティに富んでいるのが素晴らしいです。そんな独立した短編としても面白い(=怖い)話たちの中にスルリと紛れ込ませた伏線が爆発するラストはと っても好みです。あくまで推論なのでこじつけめいた部分も多いのに、伏線の量で強い説得力を生み出しているのがさすが。ネタ自体もここでこうくるとは予想もしていなかったので驚かされました。反則スレスレのネタを屁理屈で捩じ伏せる力技......。
三津田さんの怪談短編集の中で全体の趣向性は一番強い、そしてもちろん個々の話も怖い、傑作と言っていいでしょう。以下各話についてちらほらと。




「向こうから来る 母親の日記」

現代が舞台、新居に越してきた普通の親子が主役で、子供のイマジナリーフレンドが主題のいかにもな家系ホラーです。視点人物である母親からはイマジナリーフレンドに接しているらしい娘の様子しか見られないという、直接見えない故に怖い状況設定が見事です。



「異次元屋敷 少年の語り」

一転して少し古い時代。少年が主人公で、刀城言耶風の山奥の村が舞台。こういう話を書かせたら三津田さんは凄いですね。こんな村に住んだことはないのに強烈なノスタルジーが漂ってきます。怪異に出会ってからの怖さもさすが。また、後に終章で語られる裏話まで含めて素晴らしい怪談になっていると思います。



「幽霊物件 学生の体験」

こちらは現代が舞台で怪異の正体がいまいちはっきりせず、それはそれでもちろん怖いのですが、派手めの「異次元屋敷」の次にくるとやや地味に感じられてしまいます。隣人が巨乳なのは良かったです。



「光子の家を訪れて 三女の原稿」

これはまた派手というかやりたい放題というか......
怪しい宗教を立ち上げた母親から弟を守るという魅力的な設定がまず良いですね。"光子の家"に貼られた"御言葉"が現実化するというのも面白く、家の中を進むごとに御言葉が現れて怪異が起こる様は、邪悪ではありながらアトラクションのような読み心地です。お風呂でのアレにはさすがに驚きましたが......。そしてラストの気持ち悪さも絶品ですね。



「或る狂女のこと 老人の記録」

市井の民俗学者である老人が収集した話ということで、これまでの4話の主観視点とは異なり外から見た語り口になっていますが、その距離感が不気味です。また、これまでの話と関連しそうな部分も多々出てきて、終章直前で謎を盛り上げてくれる一編でもあります。