偽物の映画館

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浦賀和宏『堕ちた天使と金色の悪魔』読書感想文


純菜との和解を果たした剛士ではあったが、彼女との間にはまだ埋まらない溝があった。
そこに現れたドイツ人留学生のエル・ビアンノは、命の恩人の剛士にとても優しい。
2人の女の間で揺れ動く剛士は......。

堕ちた天使と金色の悪魔 (講談社ノベルス)

堕ちた天使と金色の悪魔 (講談社ノベルス)

卵の殻を破った雛
初めて見たのさ ワンダーランド

さて、出番のなかった前作での分を取り返すかのように今回は八木剛士の独白に満ち満ちた一冊となっております。

前半は、前作のアザーサイドみたいなもんで、純菜が目黒野郎と夜を共にしていた頃の剛士の生活が描かれます。
これが案外コミカルでくそ笑いました。
なんせ、学校襲撃事件を起こしてから別の意味で校内で孤立した剛士が海外のポルノ女優にハマってエロエロな妄想を繰り広げたり、かと思えば我流喧嘩殺法"ヤギ・カタ"を開発したりと、よくもまぁここまでと思うくらい陰キャ男子高校生の実態を活写しているんですから。笑いながらも我が身を思って痛々しい気持ちでいっぱいです。よくもこんなことを恥ずかしげもなく書けるもんだと、浦賀和宏の肝っ玉のデカさに改めて感嘆。

しかしながらそんな剛士の元にも、金色の天使エル・ビアンノが舞い降ります。
彼女がとにかく可愛い。
こんな俺(剛士に感情移入しすぎて自分と同一視してきてる私のことです)にも優しくしてくれる、日本人にはいない美しさと可憐さを持った、しかも巨乳の美少女それ即ち惚れるしかねえ!!
そんな感じでカナブーンみたいにゆらゆらゆらゆら綿毛みたいに揺れる剛士くんの新学校生活は意外にもこのシリーズでも随一の青春っぽさ。

そして、後半で彼に訪れる転機。
もはやミステリ要素はゼロだし(なんで前作だけちょっとミステリぽくなったんや?)、今回は派手なバトルもなく、剛士がうだうだ語るだけだけど、でもアレだけでもう十分。
あれだけで、エモみを感じてしまうのです僕ら。

......と思いきや、最後の最後に続きが気になる急展開を迎え、まさにto be continuedと言わんばかりの終わり方。
正直本書単体では内容があるのかないのかよく分かんないけど、シリーズ全体の起承転結の"転"にあたりそうな一冊です。