偽物の映画館

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浦賀和宏『世界でいちばん醜い子供』読書感想文



"彼"との関係に亀裂が入った。苦悩を抱える松浦純菜は、ひょんなことから憧れのロックバンドのヴォーカルに見初められて......。


世界でいちばん醜い子供 (講談社ノベルス)

世界でいちばん醜い子供 (講談社ノベルス)

「あなたあたしの青春だった」
「どうもありがとう それより踊りましょう
想いは冷める 気にすることないよ 誰だって同じさ」


衝撃的な前作から、一旦おあずけとばかりに剛士パートから純菜パートへ移った本作。
ところどころで剛士の前作のその後についても語られるものの、思ったほど前作の余波がなさそうなところに剛士視点POVであった前作と客観的視点との視差を感じます。


それは置いといて、そんなわけで本作は初の純菜視点の物語。
これまで八木の視点で読んできたので意識してなかったですけど、そういえば純菜ちゃんってニートでしたね。
学校にも行かず働きもせずにせっせと色んな男にちょっかいかける彼女のクソビッチ私生活をがっつり楽しめました。
で、これまで八木視点で読んでたから「なんで純菜みたいな美少女が八木なんかに身体まで許す気になるのだろう、ご都合主義が過ぎる、浦賀和宏って童貞なのでは?」くらいまで思ってましたが、こうして彼女の八木への気持ちを読んでみると案外共感出来ちゃっていろいろと納得がいきました。
これまでは八木剛士に自分を投影しながら読んでいましたが、一方でもう半分は純菜のような気持ちもあったことは事実。これで2人のどちらにも感情を移入しきってしまったので、今後の作品はエモさ2倍で読めちゃうかと思います。


で、本書のメインは純菜とメグローズのフロントマン・カツヒコとのデートの場面。これがすこぶる良いんすわ。
最初は八木への後ろめたさがあった純菜でも、金の力の前では無力。あまりにも贅沢にあんなコトやこんなコトをヤりまくっているのを読んで羨ましくなるより他ないですね。私なんか100円のとこしか行ったことないのに......。

そして終盤では突然の事件に突然の推理に突然の解決と、今さらミステリに原点回帰し、突然とある意外な秘密も明かされます。
急にどうした!?とびびりますが、前作の終わり方が酷かった(褒めてます)だけに、良くも悪くも綺麗にまとまった感はありますね。

そして次作では今回ほとんど出番のなかった八木剛士のあれからが読めるのでしょうか。引き続き楽しみです。