偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

2020年、私的アルバムランキング!!

はい、それでは今年もやってまいりました年末恒例のこのコーナー!

今年の新作アルバムの中からランキングを付けていきますが、なんせ今年は個人的に井上陽水にどハマりしつつユーミンRadioheadDavid Bowieなどをちょいちょい聴いてたので、あんま新譜聴けてないんすよね。忙しいし!

でもまぁなんとか十数枚は聴いたのでその中から作ります。毎年恒例の言い訳ですが、音楽シーンを総括したりとかは全く出来ない個人的備忘録のようなランキングですが、どれも好きな作品には違いないのでよかったら聴いてもらえると嬉しいです。

ではではまずは10位から!




10.Sebastian Maschat & Erlend Oye「Quarantine at El Ganzo」

Quarantine at El Ganzo

Quarantine at El Ganzo

  • 発売日: 2020/07/31
  • メディア: MP3 ダウンロード

フォークデュオKings Of Covinienceや、エレクトロポップバンドThe Whitest Boy Aliveで活躍し、近年はソロでの作品も多いアーランド・オイエ氏。

本作は、The Whitest Boy Aliveのドラマーとのコラボ作。2人がそれぞれに作曲、ボーカルを担当する曲が交互に収録されています。
詳しくは知らないんですけど、本作の成立の経緯が面白いんですよね。
The Whitest Boy Aliveでフェスに出演するためにメキシコに行ったらコロナの影響でフェスが中止になっちゃって、旅行の制限で2人だけがメキシコに滞在できたので、そこでそのままアルバム作っちゃった、みたいな感じらしいっす。

そんな経緯のためか、全体に非常にシンプルなバンドサウンドで、夏のリゾート地でホテルの部屋でごろごろしながら聴きたい感じです。2人のハモリの美しさはKoCを思わせるところもありつつ、もうちょい明るい印象の曲が並びます。
歌詞は日本語じゃないから聴き取れないですけど(馬鹿)、アルバムタイトルや曲名にもコロナ関連ワードが散りばめられていて、今年だからこそ出来たアルバムだと思います。
また、今年のこんな時だからこそ、こういう優しく温かい夏休み感の強いアルバムを聴きたいってのもありますね。2020ならではの名盤です。




9. ヨルシカ「盗作」

盗作(通常盤)

盗作(通常盤)

  • アーティスト:ヨルシカ
  • 発売日: 2020/07/29
  • メディア: CD

「へん、どうせピアノメインのボカロ上がりバンドやろ」なんて昨年あたりまではちょっと舐めてたヨルシカさんですが、井上陽水トリビュートの「Make-Up Shadow」がめちゃくちゃ良かったので新アルバムも聴いてみたらやはりめちゃくちゃ良かったです。その節は申し訳ありませんでした。

たしかにピアノメインのボカロっぽバンドではあったんですけど、ボカロ的わちゃわちゃ感と、最近流行りの歌謡曲感、井上陽水感的なものもがっつり取り入れられてて新しいような懐かしいような、昭和平成令和折衷みたいなサウンドが気持ちいいです。

また、「音楽を盗む男」を描いたコンセプトアルバムになっているのも、今のこのご時世にチャレンジングでカッコいいっす。
10曲+インタルード4曲で描かれる、切実で意味深な物語......。アルバムを一枚ガッツリ聴くことの楽しさ。

まだ足りない。全部足りない。何一つも満たされない

という表題曲のサビの歌詞に象徴されるように、物質的には満たされすぎた現代人の、それでも満たされないこの気持ちを歌ってくれつつ、終盤では夏の終わりに儚くも美しい思い出を重ねた抒情的な数曲で締めてくれるので後味はさっぱり。

懐かしくも新しく、重厚にして軽やかな名盤です。




8.The Strokes「The New Abnormal」

ザ・ニュー・アブノーマル (通常盤)

ザ・ニュー・アブノーマル (通常盤)

これはもう全然知らなかったバンドなんですけど、MTVかなんかで「Bad Decisions」のMVを観てビビッと来たので聴いてみました。

この、ビビッと来た瞬間に調べて聴けるのがストリーミングの恐ろしいところですね。どんどん気になる音楽が増えていく。

で、他の作品もバンドの来歴も知らないんですけど、このアルバムを聴いた分では、シンセポップとギターロックの共存という感じ。
ポップで踊れるんだけど、淡々としたクールさもあってメランコリックな気分の時にもわりと聴けちゃいます。

Bad Decisionsなんかはかなり王道のギターポップって感じっすけど、どっちかというとBrooklyn Bridge to ChorusとかAt the Doorみたいなイントロからしてシンセがバリバリな曲のが好きかもです。
なんせ例によって英語だと歌詞も聞き取れない、来歴も知らないなので何も書けないけど、クセになっちゃってちょいちょい聴き返してるし今後も時折思い出して聴くんだろうなと思わせる名盤です。




7.TTRRUUCES「TTRRUUCES」

Ttrruuces

Ttrruuces

  • アーティスト:Ttrruuces
  • 発売日: 2020/07/03
  • メディア: CD

英語の歌詞が聴き取れないだけでなく英語のツイートやインスタも読めないので、このバンドが何者なのかイマイチ分かってないんですけど、2019年にシングル「Sad Girl」でデビューしたニューカマーな2人組バンドみたいです。

ビートルズとかクイーンとかデヴィッドボウイあたりの影響がありそうなキャッチーだけどダークな世界観のロックサウンドがめちゃくちゃクセになるのと、映像とかにも世界観が作り込まれていてこだわりを感じるのと、アレンジの振り幅が多いのが素敵。


デビューシングルの「Sad Girl」はフィンガーノイズがクセになるアコースティックな曲かと思いきや後半割とガンガン盛り上がる展開で切なくも楽しい曲。


これまたクセになる曲。ふぉんふぉんっていう笛みたいな音(なんなのか分からんけど)と、シンプルなリズムと、キャッチーなメロディと、歌声がもう全部クセになる。
さらに摩訶不思議なPVも何度見ても楽しい。このビデオはもっとバズってもいいと思うんだけどなぁ。


これはタイトルの通りディスコ感全開の、体が強制的に踊らされてしまうようなナンバー。
チャカポコとかピューンとか目覚まし時計とかハンドクラップとか、賑やかな曲が多いこのバンドの中でも特に色んな音が詰め込まれた遊び心あふれる曲でヴァイヴスいと上りけりますよ。
これもビデオがまた過剰にレトロ趣味でいいんすよねえ。


これはたぶん自己紹介ソング的なセルフタイトル曲。
歌詞の内容は分かんないすけど、サビ?の「You're on a bad trip baby」というフレーズはこのバンドのキャッチコピーになってるから、やっぱり自己紹介ソングなんでしょう。
DUNEのパロディとかMTVとか、リアタイで知らないから逆に新鮮に感じられるPVがやっぱり良くって、このビデオももっとバズってもいいと思うんですけどねぇ。


そんな感じで、一貫した強い世界観をダークにポップに描きつつ色んな味が楽しめる、デビューアルバムにして圧の強すぎる名盤です。
順位はここですが、今年はこのバンドを1番紹介したかった!聴けばハマるんで聴いて!




6.The 1975「Notes On A Conditional Form」

Notes On A Conditional Form [Explicit]

Notes On A Conditional Form [Explicit]

  • 発売日: 2020/05/22
  • メディア: MP3 ダウンロード

なんか歌詞も聞き取れないくせにこれを挙げるのミーハーみたいで嫌なんですけど、今年何回も聴いたってことならこれだなぁと思って。

このバンド元から結構好きな曲もあって聴いてたんですけど(セックスとかチョコレートとかラブミーとかベタなのが好き)、本作はなんと22曲入りの超大作。

グレタさんのスピーチがオープニングで、からの今までにないパンクな「People」で頭を振りつつ心掴まれたと思いきやそっからは静かな曲が大半なんだけど、一曲ずつに個性がありすぎて通しで聴いてるとバラバラの音楽性をコラージュしたでっけえパッチワークを観てるような気分になります。

「Then Because She Goes」「Roadkill」の短くてシンプルで温かみのあるサウンドや、「Jesus Christ〜」のアコースティック感が好きだったりする一方、「Me & You〜」「The Birthday Party」といったベタにキャッチーなのもやっぱ好きだし、はたまた意外と「Shiny Collarbone」なんかも好きなんですよ。

どうやら歌詞もまた凄いらしいから教養がなくて英語わかんないことが悔やまれますが、音だけ聴いててもめちゃくちゃ楽しい名盤だと思います。




5.Mr.Children「SOUNDTRACKS」

SOUNDTRACKS 通常盤 (CD / 32Pブックレット)

SOUNDTRACKS 通常盤 (CD / 32Pブックレット)

  • アーティスト:Mr.Children
  • 発売日: 2020/12/02
  • メディア: CD

なんだかんだ上位は歌詞の分かるやつにしたいのでこっからは邦楽のコーナー()

ミスチルのこと私はほんとにリアルガチで嫌いだし、本作も今の時代にサブスクはともかく購買の配信リリースすらしないなんてまじ老害だよなクソがと思いながら、今やCD屋も減りに減ってしまったので車で20分かけて買いに行かされたくらいミスチルのこと嫌いなんですけど、本作もほんとクソでしたわ。最低駄作です。

散々待たせておいて10曲しか入ってないとこも嫌い。

一曲目から不穏な空気の中で急に下ネタ言い出しながらなんだかんだ前向きにまとめちゃう「DANCING SHOES」は嫌い。

「可能星」って造語が死ぬほどダサくて抑制された序盤からミスチルらしいエモさが爆発する「Brand new planet」も嫌い。

ありきたりなポップソングの「turn over?」も嫌い。

孫に話しかけるジジイみたいな優しすぎる歌声が気持ち悪くて感動の押し売りみたいなメロディのエモさとアウトロが無駄に長くてオシャレって言わせたいんだろうなってとこもダサい「君と重ねたモノローグ」はもちろん嫌い。

お前らこういう曲も聞きたいんだろっていうドヤ感が透けて見える切なく儚い終期ビートルズ感のあるような気がしなくもない無常感が苦しくなってきちゃう「losstime」も嫌いなんだからねっ!

からの、リートトラックですエモいだろ(ドヤ)ってまたドヤ感出してくる「Documentary film」の、イントロからすっと入る「今日は何もなかった」という歌詞に共感とか全く出来ないしメロディが良すぎて別にメロディが良けりゃいいってもんでもねえだろむかつくなぁって思うし大嫌いだわこの曲。


ドラえもんの主題歌でお馴染みの「Birthday」も、切ない前曲からB面に切り替わって心機一転みたいな感じで思わず腕を振り上げてしまいたくなる突き抜けた爽快感と力強さと背中を押してくれるような優しさがなんか売れようとしてる感じがして嫌い。

CMで今年1番たくさん聴いたんじゃないかって思う「others」は、CMにかかってた印象的なフレーズ「君の指に触れ 唇に触れ 時が止まった」からアツアツな純愛ソングかと思ってたらまさかの歌詞の内容に驚かされて、何が起こったの?は俺のセリフじゃいと言いたくなるし、イントロなんかモロにLet it beのパクリだし、こういう高くてエロい声出しとけばファンは喜ぶと思ってるんだけど俺はファンじゃねえお前なんか嫌いだ!

ミスチルっぽくないothersから急にミスチルらしさが横溢しすぎてもはやミスチルのパロディみたいにすら聴こえるクソポップソング「The song of praise」は普通に嫌い。

トリを飾る「memories」も歌い出しから鳥肌立つような猫撫で声が耳障りだし、最後は静かに終わっとけばなんか有終の美でしょみたいなとこも嫌い。

極め付けは歌詞カードの最後になんかポエムが載ってるのもダサくて嫌い。

ほんとに、ミスチルって大嫌いだなぁと改めて思わせてくれた駄盤です。

※この感想はフィクションです。実際の人物・団体・感情とは一切関係がありません




4.BaseBallBear「C3」

C3【deluxe edition】(CD+DVD)

C3【deluxe edition】(CD+DVD)

  • アーティスト:Base Ball Bear
  • 発売日: 2020/01/22
  • メディア: CD

4人バンド時代がChapter1、ギター湯浅の脱退を受けてサポートギターを入れて試行錯誤したChapter2、からの、3人バンドとして、3人だけの音で戦っていくことを決意したバンドの"Chapter3"の開幕を高らかに鳴らすのが本作「C3」。

死、She、See、詩などの「C」、視の時代を描いた「C2」に対して、今回は「3」という数字の方に重点を置きつつCシリーズとして原点回帰的意味付けをしてきた、成立経緯からしてファンにとってはエモすぎる1枚。
この人って、ほんとにこういう意味付けがお上手で......。

これまで頻繁にテーマにしてきた「夏」からの、本作では「秋」を描くことでバンドの成熟と新たな季節を表してるのとかも上手い"意味付け"で......。

それがはっきりと表れてるのが二曲目の「いまは僕の目を見て」

バンドの代表曲であり大人気曲であるPERFECT BLUE」のパラレルな続編のような歌詞で、「雨」「手紙」「煙」というキーワードを共有しながら、「君は翔んだ」「君の知らない季節」のパーフェクトブルーに対しての「君がいれば季節も越えられる」という歌詞がエモい以外のなんて言えばいいのか分かんねえ小出愛してるお前は天才だよゲロゲロ🤮!!!

秋の曲だと、「セプテンバー・ステップス」の、ベボベらしくもちょっと大人びた静かな切なさを感じさせるところも大好き。

一方、秋と並ぶもう一つのテーマがBaseBallBear
親交の深いRHYMESTERの影響を受けてそうな、バンドの来歴とスタンスをラップする「EIGHT BEAT詩」は小出くんの意味付け力の宝庫
ユーモアも織り交ぜながら自身の過去作品も引用しながら生々しく綴られる小さな叙事詩

同じくラップ曲でありつつこちらは抽象的な、それでいてやはりベボベの在り様を描いた「PARK」も良い。

EIGHT BEAT詩というフレーズをrepriseしながら「3」という数字を繰り返しながらメンバー全員がソロボーカルを取る「スリーピース宣言」のようなポラリスがまたエモいんすわ。この曲のせいでちょっとポリスまで聴いちゃったしロクサーヌ最高だわ。

そして、終盤では、ゆったりとしかし力強く、ちょっと大人になった僕たちのストレートなラブソング「cross words」。

締めの、単調な生活を"旅"と重ねた「風来」は、偶然ですが旅に出られなくなってしまった今この時に聴くとまた励まされる歌で......。

血の巡りを固めないためには 同じ姿勢でいないこと

という歌詞がコロナと関係なくたまたま書かれてるところに「小出持ってんなぁ」と思います。

んなわけで、2020年の新譜とは言いながらも、昨年に出たEP2枚の計8曲をベースにしているところでやや減点してしまいましたが、大好きなバンドの決意表明への思い入れでは1位でも全然いいくらいだし、なんだかんだ現在の状況とのシンクロニシティも感じられる名盤です。










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さて、第4位まで発表してきましたが、ベスト3に行く前に、アルバムじゃないけど今年ハマった曲をサラッと紹介していきます。

Therefore I Am / Billie Eilish

静かだけど不穏だけど踊れる曲。今やビリーアイリッシュ聞いてるだけでオシャレ?むしろミーハーで恥ずい?でも良いもんは良いんす。
やはり歌詞は分かんないけど消費社会を皮肉ってそうな印象のPVも素敵。たのしそう。


Marigolds / early eyes

シティポップとかにも通じるものを感じつつ異国情緒もあり、とにかく聴いてて気持ちよくて踊り出しちゃうような多幸感に溢れた曲。
このバンド、今最注目!この曲も入ったEPを出したんですけどそれがめちゃくちゃ良かったので今後に期待!


Torpi / Marco Castello

どこの誰なのか全く知らんけどこの曲の中毒性がヤバすぎて一時期一日中聴いてました。
曲を構成する全ての音が心地よく楽しくワクワクする。声もドンピシャ好み。とりあえず騙されたと思って聴いてみてほしい曲大賞。


kate's not here / girl in red

去年も紹介しましたが、今年また一段と躍進を遂げたこの人。
既にキテるけど、来年こそは爆発的に大ヒットするであろうと予言しときます。




というわけで、曲単位で今年良かったやつシリーズでした〜。

それでは、いよいよベスト3の発表です。どこどこどこどこ......。

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3.ゲスの極み乙女。「ストリーミング、CD、レコード」


ストリーミング、CD、レコード

ストリーミング、CD、レコード

  • 発売日: 2020/05/01
  • メディア: MP3 ダウンロード


年末恒例ですが、このアルバムランキングシリーズは川谷絵音氏と癒着していますので悪しからず。

今年はインディゴの新作が出なかったのでゲスを。
ちなみに来年はインディゴの新作が出るのでそれを一位にする!と今から宣言しておきます!(ゴミブログだなほんと)

さて、本作はまずタイトルが印象的。
ふざけているようでいて、ストリーミングが頭角を表しつつCDもまだ残っている一方レコードは独自のブームを生んでいる現代の混沌とした音楽事情をそのまま冠した意味深なタイトルです。

そんなある種皮肉めいたタイトルを体現するように、本作の"通常盤"はCDケースに歌詞カードだけ入ってCDは入っておらず、代わりにCDに似た形の"バームクーヘン"が付いてくるという、世界初の賞味期限付きアルバム。
音楽が凄い速さで消費されていく現代をユーモラスに皮肉るのはこのバンドにしか出来ない芸当。さすがです。


内容も、ちゃんとキャッチーでありながら、それぞれ全く違う個性を持っていて、でも全てな曲ってことだけ共通した、混沌としたアルバムです。


ゲスの近作を振り返ってみると、「両成敗」から「好きなら問わない」までの作品は、全てあの騒動を引きずったり、「あえて引きずらないように」しながら地続きになっていたような感があります。

一方本作では本当にそういうところから解放されて、全く違うバンドのデビュー作かってくらいガラッと雰囲気が変わっていて、正直初めて聴いた時はピンと来なかったし「なんか違う......」とさえ思いましたが、聴いてるうちにどんどんクセになって、今でもしょっちゅうふと口ずさんだりしてしまいます。

そうしてガラッと変貌した一方で「私以外も私」「キラーボールをもう一度」といった騒動以前の曲の続編みたいなのは入ってて、「4人で楽しくわちゃわちゃと変な曲をやる」っていう真に原点回帰的な作品だと言えるのかもしれません。

けどサウンド的には、4人組バンドとしてのフォーマットを無視するように、ギター全然弾かない代わりに管楽器弦楽器を外部から取り入れたり、バキバキに打ち込みを使ったり、ちゃんMARIがメインボーカルを務めたりといった取り組みも面白い。あとベースがめちゃフィーチャーされていてカッコ良すぎます。課長に惚れる。

歌詞もまた多彩。
ユーモアに徹した曲もあれば(まぁあんま笑えないけど。この人笑いのセンスがないことだけは玉に瑕だよね)、現代の閉塞感を捉えた詩もあり、かと思えばアダルトな雰囲気を纏った歌、ストレートに切ないラブソングに、「選択に疲れた30歳」のリアルをラップするラストの「マルカ」まで、乱反射しながら今の時代、今の自分、今のゲスの極み乙女。を描き出した万華鏡のような一枚。

ずっとファンでいるけど、これはもう自信を持って「このバンドのファンです!みんなも聴いて!」と叫べるような名盤です。

ちなみに余談ですがこないだの配信ライブ「ゲス乙女大集会」も、これまでのキャリアを総括しつつ、「このバンドのファンでいて良かった」と心底思わせてくれる素晴らしいライブでした(相変わらず笑いのセンスだけはなかったし大好きな曲をつまらないギャグパートに使われてキレたけど)。

ちなみにちなみに、本作からは何曲か公式の英詞カバーも出ているので、川谷絵音の声がどうしてもダメな方にはこれを聴いて欲しい......。




2.米津玄師「STRAY SHEEP」

STRAY SHEEP (通常盤) (特典なし)

STRAY SHEEP (通常盤) (特典なし)

  • アーティスト:米津玄師
  • 発売日: 2020/08/05
  • メディア: CD

なんかもうベタすぎて入れたくないけどしょうがないシリーズ。

今年を代表する一枚でありつつ、2018年の「Lemon」以降の、一気に国民的大スターになった米津玄師の集大成でもある大作です。

正直個人的には米津玄師は好きだけど苦手という感じで、彼のあまりの真摯さ、気高さになんか気後れしちゃうというか、自分なんかが彼の音楽に感動する資格はないと思っちゃうんですよね(その点川谷絵音はその辺の兄ちゃんだからな)。

おそらく彼が自分の軸をしっかり持っているからか、アルバムを通して聴いてもしっかりたまとまりを感じられるんですけど、その一方で15曲も入ってて印象がダブる曲がないという曲調色々贅沢アルバムでもあって、初めて聴いた時の一曲一曲再生する度に「お、こうきたか!」「まじかよかっけえw」と興奮させられる体験は忘れ難いものがあります(まぁ半分ほど既発曲ではあるんだけど)。

いまさら私なぞが彼の音楽性を云々したところでしょうがないので特に好きな曲に一言ずつコメントしていきたいと思います。

まず「Flamingo」は、シングルとしてリリースされて初めて聴いた時に「米津玄師始まったわ」と思いました()。
世界的なトレンドっぽいサウンドのイントロと演歌みたいなこぶしの効いた歌の違和感と、PVのダンスのインパクトがすげえ。

PLACEBOは米津と野田洋次郎のコラボならバラードだろうという謎の先入観をバッサリ切り捨てられたオシャレダンスチューン。
米津が歌う1番のヴァースと野田洋次郎が歌う2番のヴァースがメロディごとガラッと違うのがなんかエモい。
最後の方の2人の掛け合いも、RADのファンでもあるのでエモい。この2人が組んでるだけでエモい。そんな曲です。語彙。

「パプリカ」は、無邪気な子供たちが歌う原曲とガラッと雰囲気を変え、無邪気な子供だった頃を思い出す大人のノスタルジーが出てて、どちらも甲乙つけがたいですね。
洋楽っぽいリズムやサウンドに和のノスタルジーを持ち込んでいるあたりは「打上花火」や「海の幽霊」とも通じて、どれも大好きな曲です。

捻くれ者なので敢えてレモンや表題曲には触れず、馬と鹿も実はあんま好きじゃないので飛ばして、「Decollete」がエグくかっこいいんすよね。
ちょっとスカッとした余白の多い、それでいて色んな音がわちゃわちゃ入ったサウンドがクセになる。聴いたことないけどどこか懐かしさもある変な歌。好きです。偏愛。

「TEENAGE RIOT」はシングルで聴いた時にはフラミンゴのインパクトで霞んで普通の曲やなと思ってしまいましたが、改めて聴くと、そのシンプルさがこれだけ複雑な曲を聴いた後ではストレートに突き刺さってきてめちゃカッケェっす。

「海の幽霊」は米津玄師の中でも1番好きな曲。『海獣の子供』を映画館に見に行ったこともあって、映画のストーリーをなぞるような歌詞に、普段聴いてる時でも映画のテーマが重なってきて感動2倍。
シンプルなピアノの音と多重録音したようなボーカルからして命というテーマを切実に語る気満々で、トラップやディープな重低音に「俺って歌上手いんじゃね?」と気付いたような熱唱スタイルが重いテーマに説得力を持たせます。
今ここにいる私と、母なる海と、それよりもっと壮大な宇宙とがシンクロする荘厳な快楽があって。でも、聴き終わるとちょっと物足りないくらいで、長いようで短かった夏休みの終わりのような余韻に浸れます。名曲すぎる。

そして最後の「カナリヤ」は、こないだ彼女と一瞬別れて再結成した時に「あなたを振った後にカナリヤを聴いて切なくなった」と言われて以来、初めて聴いた時には「しんきくせーな」で終わってたのが嘘のように特別な歌になって、「海の幽霊」とこの曲への思い入れだけで2位に選んだまであります。
あなたじゃなくても良いという前提があってからの、あなたとならいいよ、っていう。ね。

そんなこんなで、米津そこまで好きじゃねえ説をぶっ飛ばしてまで良いと思える名盤です。




1.松任谷由実「深海の街」

深海の街(通常盤)(特典:ナシ)

深海の街(通常盤)(特典:ナシ)

はい、栄えある一位は、今年はもうこれっしょ。

コロナ禍によって音楽をやることの意味を見失いかけたユーミンが、それでも今の時代の空気をパッケージするのがポピュラー音楽家の使命だと奮起して作ったという、本人にとっても思い入れの強いであろうアルバムです。

アルバムタイトル曲自体は昨年の段階でシングルリリースされてはいたのですが、今このタイトルを見ると、このコロナ時代を象徴するワードに見えてしまうあたりは持ってるなぁと思います。

コロナ以前には次回作としてリゾート感のあるアルバムを構想していたらしいですが、それを打っちゃって制作した本作は、全体にシリアスで切実で、それでいて優しくて押し付けがましくなく元気が出る作品です。

歌声も、音楽番組とかで生で歌ってるのを見ると声出なくなってきてるなぁと思ってしまったりもしますが、音源で聴くと昔のちょっとアホっぽいくらいの歌い方から想像つかないほど落ち着いていて、声だけでもう深い説得力があって、老いることも悪くないと思います。

静かに、しかし切実に、壮大に、いや、荘厳とすら言える幕開けの「1920」から、リズムのノリは良くなりながらも同じ切実さで地続きに始まるノートルダムが早くも本作のハイライトの一つ。

重なる白骨を引き離すとき 砂になって崩れる
それは美しい愛の結末

という歌詞は、本気で泣きそうになっちゃうし今年の個人的No.1リリックです。

その壮大さからすると、やや俯瞰的な一人称でありつつもパーソナルな内容になって、でもやはり切実な空気感は引き継いでいる「離れる日が来るなんて」、そこからさらに個人的な視点に着地したような「雪の道しるべ」が第二のハイライトで、CMでもお馴染みのサビはメロディと歌声だけでも全身が比喩表現ではなく本当に震えてしまうくらいの感動があります。エモいなんて軽いものじゃなく、切なさであり美しさであり、でもそれだけじゃない何か大きな感情に満たされます。

ただ、個人的にここまでの4曲があまりにも好きすぎて、その後ちょっとテンションが落ちてしまうのがもったいないところ。
もちろん、シティポップとかR&Bとかラテンとか王道バラードとか色んな要素を詰め込みつつ一貫して体に深く響いてくるサウンドを維持していて聴いていて飽きることはないんですけど、前半が良すぎるためのギャップが......。

ただ、最後の一曲、表題曲でもある「深海の街」がめちゃくちゃ好きなので、「N」という文字の形のように上がって一旦ちょい下がって最後爆上がりで結果めちゃくちゃ好きっていう感じっす。はい。
深い低音を鳴らすベースと、泡とか砂っぽい隠し味の音と、サビで炸裂するジャコジャコしたギターが全部まさに深海というサウンドで、往年のシティポップを現代にアップデートしたような、今までやってきて今なおやってる熟練の松任谷ご夫妻だからこその説得力ある一曲になってます。

実はアルバム出ると発表される前から今年は井上陽水とかからの流れでユーミンの有名曲も結構聴いてハマっていたので、自分の中でもタイムリーでした。
なおかつ、コロナ時代の空気を鮮烈にそのまま真空パックした音楽でもあり、何よりあの年齢で未だにこれだけ単純に良い音楽を作ってしまうのかという畏怖に近いものも感じさせる、まさに今年を象徴する名盤です。

余談ですが今年聴いてたユーミンの有名曲の中では「リフレインが叫んでる」「Blizzard」が2強で好き。






はい、というわけで、今年の私的アルバムランキングでした!
今年もなんだかんだいい音楽との出会いが多かったなぁと。
来年の目標は洋楽の新作も色々聴きつつ、デヴィッド・ボウイレディオヘッドのアルバムをちゃんと聴きつつ、井上陽水を全曲聴くことです!多すぎて難しいかな。でも音楽を楽しむ姿勢だけはね、崩さずに踊り続けたい!ではみなさま良いお年を!ばいちゃ!