台風が来た1982年8月17日の夜、寂れた過疎村の首尾木村北西区でほとんどの住民が鎌で惨殺される事件が起こった。
生き残ったのは3人の中学生と、1人の教師だけ。
それから9年後、生存者の周囲で再び惨劇が起こり......。
- 作者:西澤 保彦
- 発売日: 2010/10/08
- メディア: 文庫
西澤保彦による文庫で上下巻の大長編。
一応、時代を跨いで繰り返される殺戮の真相を探る本格ミステリではあるのですが、ミステリとしての面白さ自体はそこまで。
しかしそんなこたぁどうでもよくなるくらい、お得意の鬱屈した性愛描写の凄まじさを楽しむ小説です。
母親への欲情やポルノグラフィティ、同性同士のセックス、はたまたインポテンツと、なんとなく著者らしい題材が扱われてはいるものの、いつものジェンダー論のうるささは希薄で、あくまでエンタメとして読めるのが良かったです。
第1部からしてもうテンションMAXで、中学生の少年の視点から、物語の核となる首尾木村殺戮事件が描かれます。
で、これがミステリのくせに殺人のエグさよりも、とにかく田舎のどろどろした性愛事情と童貞の熱すぎるリビドーの描写に注ぎ込まれるから読んでてムラムラしてきちゃいます。
他の西澤作品もそうですが、戯画化されているけど生々しい。現実にはなかなかないようなエロさなのに、なぜかリアリティだけはあるので、抜けます。はい。
第2部以降は時代が進み、田舎村の閉鎖されたおどろおどろしさは無くなりますが、代わりに(?)語り手の性欲が突然爆発するなど、暴走っぷりは変わらず維持され続けるので全編がエロい!
明かされる事件の真相は、なんつーかもうめちゃくちゃで、ツッコミどころも多いし放置されたままの謎も残るしとミステリとしてはいまいちですが、最後の最後に明かされるタイトルの意味にはうげぇ......と思いました。
ここまで読むと、チョーモンインシリーズの後期の作品にも通じるものが出てきますね。
そんな感じでミステリ的にはちょっと消化不良なものの、西澤さんらしい妄執絵巻としては圧巻の超大作でした。西澤ファンにだけオススメ。