偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

西澤保彦『黒の貴婦人』

最近また西澤保彦を読み出したので、昔読んだやつの当時の感想をブログの方に移植しておきます。



黒の貴婦人 (幻冬舎文庫)

黒の貴婦人 (幻冬舎文庫)


タックとタカチたちのシリーズの短編集。時系列はバラバラなので、よく言えばいろんな時期の彼らを読めるファンには嬉しい一冊。悪く言えばシリーズ物の割に統一感が薄い一冊。シリーズとしてはキャラクターの深部に迫る話も多くて良かったですが、ミステリとしては物足りなかったというのが正直なところです。
以下各話について。


「招かれざる死者」

アレマくんというクソ野郎のキャラ造形に笑いながらもどこか自分を見る部分もあってつらかったです。
ミステリとしてはネタはThe・ありがち、そこへ行き着くまでの論理も意外性はなく、動機もさすがにお粗末すぎ、総じて印象に残らなかったです。



「黒の貴婦人」

鯖寿司を喰らう美女という絶妙に間の抜けた魅力的な謎が解かれることで、タイトルの意味にまで話が転がって行くのがスリリングで楽しかったです。ただ、鯖寿司の謎の解決自体はちょっとあんまりなもので、「黒の貴婦人」のためのツナギ感が強い気が......。



「スプリット・イメージ」

本書で唯一、中編サイズの作品です。女の子4人組の旅行になぜか料理番としてタックが同行することになるお話。女子会の嫌な感じが見事に出ていて、登場人物全員良い意味で嫌いにさせてくれるのはさすがです。ただ、事件の真相はこれだけ引っ張っといたわりには大したことなかった気がします。偶発事が続いた成り行きの果てにああなった感じが個人的にはあまり好きじゃないですね。



「ジャケットの地図」

大企業の会長である老人が愛人とされる女性に「ジャケットの裏地に宝物の地図がある」と遺言を残しますが、女性がジャケットを調べても何もありません。そんなはずはないと、宝物探しに奮闘する女性を描いた風変わりな短編です。
まずは2人の関係が面白いところで、周りから見たら愛人だけど実は......というドラマだけで切なくなります。
ミステリとしては、宝物の地図を巡って亡くなった老人の真意を読み解くのがメインとなっていますが、どうもこれが難しいところで......。確かに説明されれば心情としては納得できます。が、ミステリのネタとして出されるとあまりに繊細微妙な心理なので、「あぁ~う~んなるほどそういうこともあるよね~~」くら いなゆったりとした納得感であって、「そうだったのか!」の爽快感が全くないんですよね。まぁとはいえ、風変わりなキャラと風変わりなストーリー展開は楽しく、本書で一番好きな短編ではあります。


「夜空の向こう側」

社会人のボンちゃんとウサちゃんが飲みながら昔の仲間のことをああだこうだ言うという、大人の青春溢れる会話は素敵です。ただ、事件の方は特に面白みもなく、これならいっそ2人の懐古トークだけ読みたかったです。