偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

2019年に読んだ小説ベスト10(非ミステリ編)

はい、というわけで、ミステリ編に引き続きまして非ミステリ編です。

まぁミステリとはなんぞやという話にはなるんですが、そこはもう私の独断と偏見でジャッジしてるのでご了承下さい。
一応、多少ミステリ要素があってもそれが主眼ではないものはこちらに入れてます。


※こないだ見たイルミネション


では、以下がそのランキングですどうも。




10位 蠱(加門七海)

加門七海『蠱』読書感想文 - 偽物の映画館

とある大学で民族学を教える教授。彼の周りで起こった怪異を描いたホラー短編集。

都会の大学という身近な舞台から、香り高い民族学ホラーの世界へふわっと入り込んでいく様が素晴らしい。各話はかなり短く、細かいことをうだうだ描きすぎない最小限な文章なんですが、それでいて雰囲気はあって密度が高いです。
なんだけど、さらっと読める軽妙さもあり、なんとも......ちょうどいいとしか言いようがないっすね。
話の内容も、巫蠱の術、弥勒信仰、邪眼などなど、中二病罹患経験者なら涎を垂らして喜ぶようなものばかり。
読みやすくも濃厚なホラー短編集の傑作です。




9位 イヴの夜(小川勝己)

小川勝己『イヴの夜』読書感想文 - 偽物の映画館

人生で唯一できた恋人を殺された非モテ青年と、デリヘルに勤める女性の不器用な人生を描いた号泣必至の鬱屈ラブストーリー。

一応ミステリ作家枠の著者ですが、本作は殺人は起こるもののその謎解きが主眼ではない非ミステリ作品になります。
その分、小川勝己作品のもう一つの柱である童貞的情念の部分をストレートに味わうことができるのが魅力的。
ストレートに、とはいっても、ストーリーも心理描写もやはり捩くれまくりで、小川作品の鬱屈部分が好きなら必ずやぶっ刺さる傑作です。




8位 コンビニ人間(村田紗耶香)

30代半ばで就職も結婚もせずコンビニでアルバイトをしている女性を描いた芥川賞受賞作。

普段直木賞はともかく芥川賞取るような小説はあんま読まないんすけどやっぱ話題になってて気になったので。結果的にめちゃくちゃ面白かったんですが、感想を書くのが難しくて書いてなかったやーつです。
てわけで、うん、書くの難しいのでここでもあんま書けないですけど、まぁ面白かったんで結果です。
雑やな......。




7位 斜陽(太宰治)

これも書いてなかったわ......。
没落してゆく貴族の女性の独白体で語られる長編。

没落貴族経験のない私ですが、序盤の静かな退廃の雰囲気には切なさを掻き立てられましたし、中盤で挟まれる弟氏のあるある日記もエモかったです。
日は落ちる時に一番眩く輝く、そんな感じで、明るさの中に暗さが、暗さの中に明るさがあるような、リアルな人間感情を描き出した傑作です。




6位 蜘蛛の巣の中へ(トマス・H・クック)

トマス・H・クック『蜘蛛の巣のなかへ』読書感想文 - 偽物の映画館

余命短い父親を看取るために帰郷した主人公。弟はかつてこの町で事件を起こし、父も語ることのない過去を抱えていて......。

あまり思い出したくもなかった故郷は戻ってくるという導入が魅力的。
父の、弟の、主人公の過去に何があったのかがじわじわと明かされていく広い意味でのミステリーではありつつ、真相の意外性とかよりも過去やルーツと向き合うことを描いた人間ドラマとしての面が色濃いので「非ミステリ編」での選出にしました。
近年のクックらしい切なく悲しくやるせなくも、それだけに終わらない優しい視点も備えた傑作です。




5位 永遠の放課後(三田誠広)

三田誠広『永遠の放課後』読書感想文 - 偽物の映画館

親友の恋人に恋してしまった主人公が、ひょんなことからボーカルの死によって解散したバンドの再結成ライブに参加することになるっていう、恋と音楽と青春の物語。

3人ともが誠実な三角関係というのは誰が悪いわけでもないからこそ切ないものですが、本作では主人公たちをはじめ、彼の両親、そしてバンドのメンバーと、周りの大人たちも皆かつて三角関係の中にいた人ばかりというトリプル三角な構図が3倍切ない。
そして、中学生から大学生までのわりと長い期間における登場人物の変化もリアル。
音楽の描写も詳しくなくても分かる程度に細かくて美しい。
なにより、ラストがほんと絶妙な終わり方なんですよね!読後にタイトルを見返してまたエモが溢れてしまう傑作です。




4位 月と蟹(道尾秀介)

道尾秀介『月と蟹』読書感想文 - 偽物の映画館

道尾イヤーにつきこっちのランキングにも入れちゃいます。

海辺の町に住む小学5年生の主人公と親友、そして主人公が恋心を抱く少女の関係を描いた青春小説。

序盤は正直単調でやや退屈ながら、子供の頃に身に覚えのある出来事や感情を鮮やかに切り取る描写は見事。甘酸っぱく暖かなノスタルジーに包まれます。
......と思いきや、後半ではどんどん物語が闇のノスタルジーに支配されていき、つらみ成分増し増しになっていくのがエゲツい。
そして、インパクトのある結末がまた見事で、過程が良い上に終わりも良いからガチで全て良しな傑作です。




3位 ふたりの文化祭(藤野恵美)

藤野恵美『ふたりの文化祭』読書感想文 - 偽物の映画館

著者の『わたしの恋人』『ぼくの嘘』という長編2作に連なるシリーズ第3弾。

男女2人の高校生の視点を行き来しつつ主人公たちの周りの子たちにまで愛着が湧くように描く群像劇......というのがシリーズ共通の特徴です。
本書は3冊目ということもあり、これまでの作品のキャラたちのその後が描かれたりもして、通して読んできた読者にはそれだけでもうエモエモのエモエモのエモエモのエモですわ。3冊分で。
一方本書単体でも凸凹コンビが文化祭を通して少しずつ何かを学んで変わっていくという清々しくストレートな青春小説に仕上がっていて最高。
青春における恋や痛みや輝きをまるごとぎゅぎゅっと詰め込んだ素晴らしい3部作。通しで読んでいただきたい傑作たちです。




2位 フランケンシュタイン(メアリー・シェリー)

メアリー・シェリー『フランケンシュタイン』読書感想文 - 偽物の映画館

ツギハギの怪人が人間を喰らうスプラッタホラーだと思ってました。ごめんなさい。

怪物がキャラとしてあまりに有名になって一人歩きしている感がある古典名作ですが、今まで抱いていた世間一般的なイメージは全て誤りでした。

というわけで、フランケンシュタインという青年が科学への探究心から怪物を作り出してしまい、恐ろしい怪物を斃そうと奮闘するお話......とも読めますが......。
その一方で、望みもしないのに醜い姿に生み落とされ、外見の醜さから誰からも憎まれ、生みの親にさえ愛されない怪物の悲しみを描い小説でもあったんですねぇ。

彼らのどちらの立場に立っても読める物語には、生命を作り出すというSF要素、姿を見せない怪物の恐怖を描いたホラー/スリラーの要素、世界中を旅する冒険小説の要素といった多ジャンル盛り合わせの様相を見せつつ、雑にまとめると「人生の意味とは」「生命の価値とは」といった問いかけが内包されています。

恐ろしいのはこれが200年前に、ハタチそこそこの女性によって書かれているということ。そんだけ古いのに今読んでも新鮮な娯楽小説であり、未だに答えのない問いを投げかける文学作品でもあるんですな。どうしたって傑作と言う他ないよね。




1位 東京湾の向こうにある世界は、すべて造り物だと思う(中西鼎)

中西鼎『東京湾の向こうにある世界は、すべて造り物だと思う』読書感想文 - 偽物の映画館

数々の傑作を押し除けて一位に輝いたのがこの作品!もはや単純に好みどストライクです!

高校時代に殺された、軽音部の同級生の少女。
彼女の幽霊が、大人になった僕の前に現れる。

高校、軽音、初恋、幽霊、およそエモみのある全てのワードがぶち込まれているだけあってエモのオンパレードでした。
バンド名など実在の固有名詞をガンガン使ってくるあたりもエモい。知ってるバンドは少なかったものの、固有名詞を自分の青春の音楽に置き換えてエモりました。
ラノベっぽい、軽妙で自意識の塊のような内輪ネタの塊のような会話も、学生時代にしてたような気がしてきてノスタル死"ーに駆られます。
中盤までは、少女の死の謎をめぐるミステリーのような展開でありながら、クライマックスでは「青春の解決編」のような趣になるのがまたエモく、死に惹かれ、喪失を経験し、人生の意味を見失った青い頃を思い出し、叫びながら自転車で走り回らずにはいられないような圧倒的エモの大伽藍。
あえてエモエモ言いまくりましたがとにかく読んでる間中そういう強めの感情が枯れることない泉のように湧きまくりだった傑作です。






というわけで、非ミステリ編でした。
なんせ「ミステリじゃない」というだけの雑なくくりなので色んなジャンルごたまぜではありますが、やはり青春小説が多かったですね。こうやってどんどん青春ゾンビになって腐っていくのかと思うと悲しい気持ちになります。
来年も素晴らしい青春小説に出会ってエモ死にたいですね。
なお、今後できたら今年聴いたアルバムランキングと今年見た映画ランキングもやりたい。時間がねえけど!
んじゃ、ひとまずばいちゃ!