華文ミステリの新鋭による連作短編集。
日本での文庫としては初。
前から気になってたけど文庫派だからポケみすのは読まずに、この機会に初読みしてみました。
タイトルの通り、ミステリ好きの"文学少女"陸秋槎と天才数学少女の韓采盧の関係を描いた連作。
秋槎が描くものをはじめ、全話に作中作が挿入され、現実では現実でなんかしらの事件が起き、采盧による数学ペダントリーがミステリ論と接続され、高校生の主人公たちの成長をリアルに描いていく青春小説でもある......。
多重のレイヤー、様々な要素をぶっ込んだ労作にして野心作。
正直なところ詰め込みすぎていて一つ一つの要素にあまりインパクトがなかったりはするのですが、本書はむしろミステリ論として楽しむべき。
犯人当てや作中現実での事件そのものを楽しむというよりは、推理小説の自由を宣言し、推理小説の多様なあり方が示唆されるのにエモさを感じる作品なんですよね。
とは言っても、作中作は稚拙なところもあるだけに私みたいな推理苦手系ミステリファンでもかなり"真相"に近づけたりもして楽しかったです。
各話に一言ずつ触れておくと、第一話の「連続体仮説」はキャラと本書の目指す方向性を紹介する感じで、作中作を読み解くだけのお話。その分作中作の分量はガッツリめで、難易度はあまり高くないので着実に考えて解いていく楽しさを味わえました。そして最後のあの宣言が爽快!
「フェルマー最後の事件」ではフェルマーさんの人となりと、フェルマーの最終定理とを作中作の犯人当てに織り込むという離れ技が決まっていて、あまりに捻くれた設問と論理展開に痺れました。麻......や連......といった大物作家をディスってるのも笑う。
本書中でのマイフェイバリット短編です。
「不動点定理」は、逆に1番印象が薄かったです。
作中作があまりにもざっくりしているので、なんつーか、暖簾に腕押しみたいな感覚になってしまいます。
とは言っても、あのあまりにも捻くれた犯人特定のロジックは笑いました。そして、物語との絡め方も見事。
最後の「グランディ級数」は、作中作もガッツリで、作中現実の事件もついに殺人事件が起こっちゃって、最終話に見合ったボリューム感。
ここに来て、もうすぐ高校を卒業して大学へ入る時期の夏休み(日本人には不思議な感じですけど)が描かれててエモい。
自由すぎる作中作の趣向と、自由すぎる結末は、切ない話なのになんだか痛快な気分にさせてくれます。
これで終わり?と思ってしまうような、それでいてちゃんと終わってる終わり方が上手いっすね。