panpanyaさんの8冊目の作品集。
前回読んだ時から1年弱ぶりくらいに読みましたがやはりこのくらいのペースで読むとちょうどいい、たまに摂取して安心したくなる作家さん。
てか著者の初めて読んだ作品の感想を見返したらリーガルリリーのボーカルの人が読んでたから読んだって言ってて、ああそういえばそうだったなと辛い気持ちになりつつ、もはやそんなこと忘れてた自分にも驚く。
奇しくも(?)リーガルリリーのファンをやめてちょうど1年経つけど全然悲しみは癒えていないしむしろ悪い腐り方をしていて今後が心配である。
そんなことはどうでも良く、本書ももはや特に何をいうこともないいつものパンパン屋さん節が楽しめる一冊でした。
あと自分が下手な絵を描くようになったので絵のうまさを改めて突きつけられました。今まで単に緻密な背景と単純なキャラのギャップがいいと思ってましたが、背景も緻密であってもやはり現実の全てを写しとることは出来ず、そこには省略があることが分かりました。その省略の仕方を学べば活かせることもありそう。
まぁそんな感じ。内容はいつも通りのパンパン屋さん印のものなので全体として特に言うことはなく、いつも通り個別に各話の感想だけ書いていきます。
外れる季節
正月事納め
クリスマスにはじまり年賀状、正月セールと2話続きでおめでたいお話。
サンタやトナカイの現実に接して「な〜んか夢壊れるなあ...」という台詞があるが、むしろ夢やロマンを現実の生活感に落とし込むことで無味乾燥な現実に少しの夢が保たれるような作風が好きです。
リアルトナカイが次のページではデフォルメトナカイに変わってるとこが可愛すぎて好き。
無用のものを切り捨てられない甘さにもとても共感してしまう。
続・カステラ風蒸しケーキ物語
続続・カステラ風蒸しケーキ物語
『おむすびの転がる町』収録の「カステラ風蒸しケーキ物語」の続編たち。
カステラ風蒸しケーキが町から消えてしまったことで狂気の域まで行ってしまうんだけどこの著者が描くとさらっと淡々としてて普通のことに思えちゃうのがすごい。いや、ここまでやるのはだいぶクレイジーですよ......。このこだわりと静かな熱量がさすがです。
サイン
高速バス(私の場合は新幹線が多いけど)の車窓から見える家々にある生活に思いを馳せるのが人間誰しもすることなのか私や著者みたいにセンチメンタルで無駄なことが好きな人間しかしないことなのか分かりませんが、あの感覚を作品にしてくれるところが好きだし信頼できる。
魚社会
漁港を舞台に初っ端から「魚が獲れすぎること」の弊害が語られる大人の社会見学みたいなエピソードがとても良い。世の中ほんとうに知らないことばかりで、「大漁!すごい!」みたいにイメージだけで語ってしまうことを反省させられます。
それはさておき、魚の進化が不気味ながらも可愛すぎる笑。ブラック労働に関する寓話のようでもあり、ヒトでも魚でもないものたちへの愛着ある視点が素敵です。
自由
犬の紐がアリアドネの糸のように長く長く伸びているだけでなんの変哲もない町が異界になる痛快さ。風景への愛着に自分と近いものを感じるが故にそれをここまで表現できることに嫉妬すら覚えてしまう。
帳尻
たったこんだけの話を逆にどうやって思いつくのか知りたい。
鯛焼き遍歴
鯛焼きのデザインの地域差というニッチな題材選びからさすがで、鯛焼き描くの楽しそう〜と思う。少なくとも途中からは明らかに嘘なんだけど、最初ちょっとありそうに思えちゃうのが凄い。実際どうなんだろうな、、、。あと観光地とか名物とかじゃなく鯛焼きの地域差に旅情を感じる感性が好き。
普通
友達の家に行くと自分ちとは全然違う風習や文化があったりしてお茶の味とか使ってる石鹸とか家自体のつくりとか、そういうものに新鮮さを感じていた記憶がありますがデフォルメしつつもその感覚を蘇らせてくれる懐かしい気持ちになる話。オチもしょうもなくも面白い。
標
標識がじわじわとデカくなるというあり得へん話をなんかそれっぽく描くところが好き。ほんとそんだけの話なんだけど。
ラストシーンが映画『メッセージ』のメインビジュアルみたいでおもろい。
秘密
こないだ読んだ城昌幸の短編に同じように入口のわからない家の話があったのを思い出したが、日常と幻想の地続きさを魅力とするあたり似た作風な気がするし、影響を受けているのかもしれないと思うと面白いですね。
終わり方の絶妙な不穏さが夏っぽくて好き。
鯉の話
鯉釣りチャンピオンが釣った鯉のその後というこれまたニッチな目の付け所ですが、(良い意味で)そんだけかい!というしょーもなさがあってそもそも脱力系の話が多い中でもさらに脱力させられて楽しい。
はるかな旅
電線にモノレールを走らせるという、子供時代なら思いついたかもしれない発想を大の大人が真面目に描いているのが好き。広さと狭さを同時に感じられるところが良い。
「楽園」ご紹介漫画
panpanya作品掲載誌の『楽園』のご紹介なんだけど、もはやご紹介になってるのかどうかよく分からんくて笑った。まぁでもこの人にご紹介を頼んだらこうであってほしいというのが具現化されてて良いよね。この下品じゃないいかがわしさと言いますか。
偶
4コマ漫画のような......というよりは映画のフレームのような、かもしれませんが、縦4コマ×横2コマの直線的なコマ割りが珍しい、サイレント映画風のお話。
膨大な時間を駆け抜けてあまりに身近なところに落とすギャップが良い。ふつうは逆ですもんね。
続続続・カステラ風蒸しケーキ物語
続続続・カステラ風蒸しケーキ物語 補遺
続続続続・カステラ風蒸しケーキ物語
さらに続編です笑。
愛が強すぎて狂気すら感じられたさっきの2編から一転して、こちらでは希望が見える感動的な結末になっていて笑いました。カステラ風蒸しケーキから喪失と再会、そして生きていくことの本質に迫るメッセージが紡がれるなんて想像してなかったです笑。
ここまで手間暇惜しまずに何かを好きでいられることが羨ましい。
おみやげの心得
最後はちょっとだけ長めのやつ。
サービスエリアでお土産買おうとして、なんかこう、ありきたりなものしかない......みたいなあるあるのお悩みから、お土産探しを究めていった果てに......みたいなお決まりのパターンですが、改めて社会的な価値とは無縁のものをただ好奇心で追究していくことの面白さがダイレクトに伝わってきて、最終話としても良い余韻を残すお話でした。
