偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

美内すずえ『人形の墓』

ガラスの仮面』で知られる美内すずえ先生の角川ホラー文庫から出てるホラー短編集ということで気になって買っちゃいました。
妻に勧められ続けている『ガラスの仮面』を今から全部読む気力はないので代わりに......。

なんかみんな目がキラキラしてたり、高見沢さんみたいな王子様が出てきたり、「いっけなーい遅刻遅刻〜」みたいなノリ(実際そんなセリフはないけど、ノリ)だったりという、読んだことないのに勝手にイメージしてた昔の少女漫画って感じがして「おぉ、これが......」となりました。
一方で、1話目は横溝正史風だったり4話目が江戸川乱歩風だったりと、ミステリー要素はないものの怪奇小説的な味わいも濃厚で、各話とも作り込まれた世界観にどっぷり浸かれてとても面白かったです。
どのお話も少女が主人公で、ピュアな子もいるけど醜い嫉妬心を隠し持っていたりする子もいたりして、煌めきと毒気を併せ持ったバラエティ豊かなキャラ造形が良かった。その点男キャラはみんな同じに見えてしまったけど......。
ホラーのくくりでありつつ結構ハッピーエンドな話も多いのはやや物足りないんですが、その点重すぎてどうしたって純粋なハッピーエンドにはなり得ない「孔雀色のカナリヤ」がやはり1番好きでした。

以下各話感想。



「黒百合の系図
山奥の村とか一族とか祟りじゃ〜とかが出てくる横溝風味のあるお話。
主人公の母親が突然不審死を遂げ、そこから祖先から続く呪われた家系の秘密に迫っていくというストーリー。本書の中でも長めの話でその分おどろおどろしい雰囲気も作り込まれていて好き。
真相にさほど意外性はないものの呪いの正体を探る謎解きっぽさも楽しいです。
そして、こんな呪われた話なのにオチがめちゃ少女漫画っぽくて笑った。



「泥棒シンデレラ」
幼い頃から他人のものを欲しがってしまう主人公がひょんなことから願いを叶える能力を手にしてしまい、同級生の少女たちの美貌や金や学力などを盗んでいくお話。
こういうパターンを繰り返していく話は好きなので面白かったんですが、このあらすじのわりに終わり方が甘すぎるのは好みじゃないかも。こういう話の主人公はもっと酷く破滅してほしい......。



「人形の墓」
主人公の名前がアナベルなんだけどジェームズ・ワンのせいでアナベルといえば人形のイメージがあって混同してしまった......。
というのはマジでどーでもいいんですけど、死んだ娘の代わりに人形を溺愛していたら......みたいな話で、人形のビジュだけでもう怖い。
これは切なさもあって良い塩梅のオチで良かった。



「孔雀色のカナリヤ」
惨めな日々を送る主人公が産まれた時に引き離された双子の妹が金持ちの家に引き取られて良い暮らしをしていることを知り、彼女と入れ替わることを画策する......という江戸川乱歩みたいなお話。
本書収録作の中でも主人公が明確に犯罪を犯すのは本作のみで、これまでにない悲壮さとスリルがあって、これが1番好きっす。
主人公が賢く悪いけどめちゃくちゃ同情できる部分もあってこんな不幸な生い立ちじゃなければさぞ素晴らしい人生を送っただろうと思うと応援したくなってしまうんですが、こういう話の常として破滅するだろうことは分かっているので読んでてとにかくつらかったですね。