偽物の映画館

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白井智之『少女を殺す100の方法』感想

実は初読の白井先生。

少女を殺す100の方法 (光文社文庫)

少女を殺す100の方法 (光文社文庫)


誇張表現かと思いきや、本当に20人×5話で100人くらいの少女が死ぬというめちゃくちゃな一冊。
噂には聞いてたけど、エログロナンセンスを極めながらも切れ味鋭いロジックでミステリファンをしっかり快感絶頂させてくれる手腕はやっぱり只事ではなく、最近はこういう尖った作風に前ほど魅力を感じなくなってしまったものの他の作品も読んでみたくなるには十分の素敵な短編集でした。

前半の2話と、箸休め的な第3話をはさんでからの後半の2話とでガラッと余韻の質が変わり、信じられないことにこんだけ酷い内容なのに読後感はポジティブとさえ言えるものでエモかったです。

以下各話の感想。





「少女教室」

とある女子校のとあるクラスの生徒20人が殺されるお話。

本書のコンセプト自体が常軌を逸していることを思えば、本作のクラス(ほぼ)皆殺しという発端はわりとオーソドックスなもの。

ただ、内容はなかなか捻りが効いています。
かなり早い段階で事件の真相の大きな一つが明かされてしまい、かと思えば21人の容疑者を消去法していくガチガチのロジカル本格推理が始まるからキョトンとしちゃいます。
しかしこのロジックがほんとに話の内容とは正反対に王道どストレートでうんうんなるほどなるほどといちいち納得しながら読まされてしまいました。
かと思うと、ドロドロの人間ドラマが始まったり、名探偵が登場したりブラックユーモアテイストのオチが待っていたりと、色んな仕掛けや小ネタがてんこ盛り。
もちろん事件現場のスプラッタな残虐さも最高!

1話目にしてがっちりハートを掴まれてしまいました。





「少女ミキサー」

生きた少女が5人溜まると作動する"フードプロセッサ"に閉じ込められた少女たちのお話。

映画の『マーターズ』、乙一の短編『SEVEN ROOMS』とかを彷彿とさせるソリッドシチュエーションスリラー。
また、メインの謎は法月綸太郎の傑作『死刑囚パズル』を思わせます。
いずれにせよ、その辺の異様な作品群を意識していそうな、こちらも異様な一編。

主人公たちにあまり感情移入出来ないからスリラーとしてのハラハラ感は薄いですが、恐らくそれは作者も織り込み済みで、その分特殊設定でこそ活きる異様なトリックと切れ味の鋭いロジックこそが見所。
(ネタバレ→)犯人がぬけぬけと推理を披露するのが前話と被るところはご愛嬌。
ラストシーンのその先に、私は『マーターズ』の前半を視てしまうんですよね。





「『少女』殺人事件」

ミス研の先輩が書いた実名犯人当てに後輩が挑むお話。

エグい話が続いたので箸休め......みたいな感じの、ミステリのお約束をおちょくった遊び心ある一編。
とはいっても、昭和の探偵作家みたいな名前の先輩のキャラの濃さをはじめ、作中作のメチャクチャさ、うんこって言いたいだけのうんこ描写、あまりにも酷い(褒)犯人当ての解答などなど、こんだけ軽い話でもアクの強さは他のお話に引けを取らないあたりはさすがですね......。
このネタ、ミステリファンなら一度は考えたことくらいはありそうなものですが、かと言ってこれで一本書くのは相当なバカだと思いますよ。もちろん褒め言葉ですけど。
結果的に一編でまるっきりルールの違うゲームを2回遊べるような楽しさがあってお得感満載でした。





「少女ビデオ 公開版」

"クソオヤジ"から娘に向けてのビデオメッセージの体裁で語られる、"猿の肉"を食わされる少女のお話。

前話で箸休めしといてからの、本書でも1番エグいこの作品です。
商品として好事家に売られる少女たち。使い物にならなくなった少女を引き取り"猿の肉"を食わせることで生計を立てる主人公。彼の元にやってくる肛門から腸が飛び出た条治......。
描かれる全ての出来事がとにかくグロテスクで、耐性のなくはない私でもちょっと嫌な気分になるくらい。
しかし、思わぬ描写を伏線として駆使し、この異様な舞台設定だからこそなんとか説得力が保たれるあまりにもあり得ない"真相"の数々は圧巻。
そして、グロテスクを超えた先にある情愛が!汚れすぎていて逆に光を放っている様は平山夢明の作品なんかを思わせたりさえします。
なんにせよ、この異様な物語を、ミステリとしても面白くしながら描き切ってしまえるのは著者だけではないでしょうか。





「少女が町に降ってくる」

旧弊な村に住む叔母の家に居候することになった主人公だが、村には、年に一度大勢の少女が空から降ってくるという秘密があり......というお話。

意外にも超常現状的な設定は本書でも(作中作を除けば)このお話だけ。
墜落する少女というグロテスクにして幻想的な設定が、横溝正史風でありながらも全く違った異様さを醸し出してきます。
さらに地名や人名がふざけているようで、ちゃんと世界観としては統一されてる感じも上手いですね。
ミステリとしては、設定があまりにも入り組んでいるために真相とかどうでもよくなっちゃうところがなきにしもあらず。
とはいえ、この世界だからこその異様なトリックとロジックにはやはり驚かされるし、まさかそういう感じになるんだ......という映画みたいなラストシーンは印象的。
トリを飾るに相応しい力作です。