偽物の映画館

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大槻ケンヂ『くるぐる使い』読書感想文

筋肉少女帯の歌手兼詩人の大槻ケンヂによるSFホラー短編集。

くるぐる使い (角川文庫)

くるぐる使い (角川文庫)

私は筋少についてはファンと呼べるほどには詳しくないものの、曲によってはかなり思い入れがあったりもします。
オーケンの書く歌詞が好きなので、本書も読んでて面白かったのですが、裏を返せば歌詞で満足してるので小説になるとちょっと冗長に感じてしまう部分もなきにしもあらず。
とはいえ、昔のロックや探偵小説にいかがわしいオカルトを混ぜ合わせてオゲレツだけど品のある独特の語り口で描かれる文章自体が面白く、読んでて飽きることはなかったですね。短いし。

あと、解説の綾辻先生が言うようにきちんと起承転結があってオチがある作り込まれたプロットなのは意外といえば意外ですが、しかし筋少の曲でもやはり綺麗にまとまった物語の形になっているものも多いので、やはりもともとお話を作るセンスもあるんだろうと思います。
「ミュージシャンが余技で書いた」というレベルは超えていながら、しかし専業作家には描けなさそうな、オーケンならではの個性的な作風で、でも先行作品へのオマージュも多くて、なんだかんだ面白かったです。

以下各話の感想。





「キラキラと輝くもの」

「UFOに攫われ、電波を受信する機械を埋め込まれた」と語り、次第に精神を病んでいく妹のお話。

私には女きょうだいがいないからだと思いますが、兄と妹の関係ってめちゃ憧れます。
妹がいたら絶対好きになっちゃう......なんてのは、いないからこそ言えることだとは思いますが......しかしお話の中でくらいは、そういうのもいいじゃないですか。ねぇ。
そんな感じで2人の近いような遠いような関係にどきどきしつつ、クライマックスのシーンは戦前の怪奇探偵小説に今風の萌えを加えたような美しい風景が楽しめました。

ただ、"解決編"があまりにも説明的で興醒め。あそこは主人公の独白くらいに抑えておけばよかったのに......と思います。





「くるぐる使い」

気が触れた代わりに特殊な能力を備えた少女たち、"くるぐる"。かつて、彼女らの力を見世物にする"くるぐる使い"をしていた老人は、当時の外道な行いを懺悔する......。

表題作で、マイフェイバリットでもある一編。
あとがきを読んで遅ればせながらフェリーニの『道』へのオマージュだと知りましたが、確かに言われてみれば似てますね。

「くるぐる」というネーミングをはじめ、くるぐる使いとしての主人公の語り口をついつい筋少の曲の語りの部分で脳内再生してしまったりと、オーケン語と呼ぶべき独特の言い回しが炸裂してて面白かったですね。
これが第5話までいくとちょっとクドい気もするけど、本作ではちょうどいい塩梅。
そしてヘンテコな言語感覚の中でコックリさんの場面で繰り返し叫ばれるシンプルな4文字の造語はシンプルなんだけど、それだけに強烈なインパクトとなって耳に残ります。

話の内容としてはすごく綺麗にまとまってて、ハチャメチャな文体とお行儀のよい起承転結のギャップに笑います。
......でも泣けるんだよなぁ。





「憑かれたな」

15歳の誕生日に悪魔に取り憑かれた少女。"オールジャンル・エクソシスト"の滝田一郎は、彼女の憑物を落とせるのか......?

著者は映画ではなく原作の方の『エクソシスト』が好きと言ってますが、私は映画しか見たことないので、あの映画の悪魔憑き少女のイメージで読んじゃいました。
とりあえず「オールジャンル・エクソシスト」という肩書が面白く、そんなニッチなお仕事を始めるに至る滝田さんのドラマと、憑物少女の母親のドラマとが絡み合うのが良いっすね。
そして、少女がいちいちオマンコオマンコ言うのになんか笑っちゃいます。
オチはかなり綺麗に決まってるけど、綺麗すぎて読めちゃうってのはありますね。とはいえなんともいえぬ余韻があります。





「春陽綺談」

タイトルから連想される通り、江戸川乱歩オマージュの一編。
「パノラマ島」を学校でいじめられてる根暗陰キャという現代的な題材に置き換えて再演してしまうアイデアが凄い。
そして、探偵役を務める滝田六助のキャラも良いですね。
「キラキラと輝くもの」では解説が野暮に感じましたが、本作では解説する探偵役が魅力的だから引っ掛かりなく読めました。
妹とのやりとりは痛いけど、そんな彼が少年を助けるために走る姿はカッコいい。筋少の曲を聴いて救われるのと同じような気持ちになります。





「のの子の復讐ジグジグ」

臨死体験をしたことでいじめられっ子から教祖へのし上がったのの子は世界に復讐する......。

色んな意味で凄絶な内容をコミカルに描いたギャップが非常に気持ち悪い一編。
最初の3ページでもう嫌になってきて、次の2ページでよく分からないけど引き込まれて......なかなかスピーディーな掴みからノンストップで読まされてしまう勢いがあります。
そして初期の筋少っぽいヘンテコ怪奇な死生観がそのままのの子の復讐になるのが面白く、切なく恐ろしくも痛快という、なんとも複雑な読後感が味わえます。
そして、よく分かんないけど「ジグジグ」という造語が実にこの読後感をよく表しています。