indigo la Endの、メジャーでは5枚目のアルバムです。
- アーティスト:indigo la End
- 発売日: 2019/10/09
- メディア: CD
- アーティスト:indigo la End
- 発売日: 2019/10/09
- メディア: CD
川谷絵音、どんどん仕事を増やしていってるのにインディゴのアルバムは毎年きっちり最高傑作を更新しながら出してくれるから愛さずにいられませんよね。
近年のインディゴのアルバムでは“命"というテーマが前面に押し出されている印象がありましたが、今作は『幸せが溢れたら』に原点回帰するように歌謡曲調の(失)恋の歌で揃えたコンセプトアルバムになっています。
とはいえ、もちろん原点にただ回帰するわけもなく、大幅に進化しちゃってまして......。
曲調的には、前作がかなり落ち着いていたのに対して今回はアップテンポな曲が多いです。でも、演奏はかなりオトナっぽいというか、なんか音楽的な説明はできないから抽象的ですけど、一言で言うとエロいっすよね。
で、歌詞は、「私小説」というイメージを体現するかのようにやけに文学的な語彙が多用されていてまた昭和ロマンな大人の恋の臭いがムンムンです。
とはいえどの曲もいつもの川谷絵音らしいイマドキの若者の拗れてエモ散らかした恋愛ソングなので、そこんとこのギャップも面白いですね。
あと、全曲が切なさや悲しさに満ちた恋の歌ではあるんですが、でもすんなり「失恋ゾングのアルバムです」とは括れないような多様さと複雑さがあるのも、シンプルな失恋アルバム『幸せが溢れたら』からの進化であり深化であるとも言えましょう。
また、命というテーマも、恋愛の歌の中にスッと挿入されることでドキッとしたりヒヤッとしたりさせられる、さりげなくも印象的な描かれ方がされてるんですね。
顕著なのは1曲目の「花傘」やラス前の「midnight indigo love story」。
歌詞カードを読んでいて、とあるフレーズが出てきた時に思わず二度見してしまうような鋭さです。
そして、全体の構成としては、前半5曲が歌謡曲テイストを押し出した曲、それ以降は前作にも見られた実験的・先鋭的なサウンドを追求した曲が集められていて、音の雰囲気で二部構成に分かれているようにも聴こえます。
こういう構成はインディゴのアルバムでも今までなかった気がするので新鮮。個人的には前半の歌謡コーナーが好きですが、後半もやっぱえげつねえし、まさに墓まで持っていけるアルバムですわ。
あと、ジャケ写もインパクト強く、なおかつ女の子という存在の素晴らしさが凝縮されていて素敵です。このアルバムは前作とは対照的に男目線の曲が多いので、なおさらジャケが可愛い女の子だとエモいですよね。
そんなわけで、本作は進化し続けるロックバンドindigo la Endの現時点で最高の名盤にして、作詞家・川谷絵音の最高の詩集でもあると言えます。傑作。最高。名盤。Yeah。
というわけで以下は各曲の話を。
1.花傘
最初のあの音のインパクト、そしてイントロの昭和な歌謡感と洗練されたバンドサウンド感の融合から引き込まれるというよりはなんかもうぶん殴られたみたいな......。カッコよさに脳が震えます。ぷるぷる。
仮タイトル?が「ユーミン」だったということで、ユーミンには詳しくないですが確かに踊れる歌謡曲ってイメージはあるかと。「埠頭を渡る風」とかみたいな雰囲気?
あと、スラップベース大好きマンとしては久しぶりにこんなに後鳥さんのスラップを聴けた気がして満足です。
そして、歌詞は本作の中でも特に文芸的といいますか、小難しい単語を多用していい意味で古臭く艶っぽい雰囲気が出てます。
特に、タイトルの花傘や幕電といった雨にまつわる言葉が多いのに加え、宵立ち、夜一夜といった夜の営みを感じさせる言葉も使われ、雨の夜にだけ寝る年上の女の人にいつの間にか恋してしまっていた......みたいなストーリーがぼやっと浮かびます。
しかし、終盤では
お墓参り行けなくてごめん
殺伐な雨が君を許さなかった日から
恋したんだよ
と、君が亡くなっているらしいことが明かされます。
そうするともう曲の冒頭から濃密に漂っていた切なさと憂いの真の意味が分かっちゃって、やるせなさにちょっと呆然として聴き終えてしまう......そんな今までの路線を踏襲しつつちょっと昭和感を増した名曲なんですね。はい。
また、個人的には
小雨のうちだったら 心拭くのもまだ簡単なのにできない
というのがわかりみ強くて唸りました。
また、この一文が最後の曲「結び様」にもかかってくるんですよね......。
ちなみに、冒頭の「曇りガラスで〜」のところなんかは「ルビーの指輪」を連想しました。たぶんユーミン聴いてるなら一緒に聴いてるだろうしこれもオマージュなはず!(雑)
2.心の実
読みは「このみ」。「の」を抜けば「しんじつ」でもあり、心の中で実となっている真実の愛といったようなダブルミーニングでしょう。
まず一言言わせて欲しいのが、MVいろんな意味で最高!!!。
ゲス不倫の第一人者である川谷絵音氏がタイプの違う2人の女性を連れて遊園地に行くというエグい映像が見れるだけで笑いましたが、何より他のメンバーが可愛すぎる。
えのぴょんがお姉ちゃんたちとイチャイチャしてる後ろで、彼ら三人も同じようにイチャイチャしてお弁当あーんってし合ったりしてる様子を見るだけで幸せが溢れます。私の幸せが溢れたので少しだけ許してあげます。
......とまぁ、そんなふうにMVでも2人の女性が出てくるように、この曲は恋人の「君」と、かつて好きだった(あるいはセフレとかかも知れないけど)「あなた」との間で揺れるゲスに切ない男心を描いた曲です。
まずサウンド的には、イントロのキーボードの音とギターのカッティング、スラップ多めのベースの音が印象的。
イントロやアウトロ、サビなんかは、ゲスの極み乙女の「オンナは変わる」っぽい印象もある、なかなかファンキーな曲ですね。
サビに入る時のドラムがたんたんたんたんって高まっていく感じもエモい。
ユーミンな前曲に続き、この曲は仮タイトル「山下達郎」とのことで、言われてみればそれこそカッティングやスラップなど達郎さんの曲にも通じるものがある気がします。まぁ音楽的に詳しいことは例によって分かんないけど。
歌詞に関しては、最後までひたすら「"君"を見なきゃいけないのに"あなた"を思い出してしまう」という、情けなくも共感しやすい歌詞が続きます。
なんせ、男の恋愛はバックナンバーですからね。10月号が出ても9月号の記事をたまに読み返してしまったりするもんなんすよ......。
あと、たぶん呼び方のイメージだとあなたは年上で君は同いか年下な感じがしますね。その辺で比べてしまうというのもまた非常に分かるのでつらい......。
それこそ、「ズルい」し「罪」なのは分かってても、心の中のことだけは意思で変えれるものじゃないっすからねぇ......。
なんて思ってると、(MVのその箇所では川谷絵音がカメラのこちら側を見ながら)「たまにはこんな歌詞もいいでしょ?」なんて急にメタフィクションをキメてきやがるから驚きます。正直最初は「お、おう、せやな」と思いましたけどね......。
ちなみにアルバム後半ではさらに「歌詞/リリック」というワードが歌詞の中に頻出するメタなアルバムでもあるので、2曲目の時点でこの歌詞が出てくるのが、ある種そこへの伏線のようにもなってるのかな、と思います。
3.はにかんでしまった夏
全体の印象としては疾走感のある王道ロックチューンですが、イントロのindigoらしい歌うようなギターから一旦R&BっぽさすらあるAメロを経由してからだんだんスピードを上げてサビで全力疾走!みたいな緩急の激しい凝った構成がオシャレです。
サビのメロディはわりと単調なんですけど、その感じが真っ直ぐ駆け抜けるようなイメージを出してて良いですね。そして、サビでも地声が続くだけに最後の「あ〜ああ〜〜!」のエモさが際立ちます。
歌詞は、夏の終わりに遊びみたいに恋した君への想いにいなくなってから気付きました的なあれですね。
で、歌詞もサウンドの緩急と同じように緩急がついてるのが面白いというか、巧いところ。
Aメロのゆったり部分では
他人と他人の馴れ合いを それなりに楽しんだ
なんて、ちょっと余裕ぶって斜めから見てるような言い回し。それがBメロでは
そんなことしてたら 触れ合える距離に君はいなかった
と喪失の事実を言い切って、からのサビではもう
全然何ともないのに 涙が出るなんて困ったな
考えたっていないのに 君は絶対にいないのに
と、取り乱してると言ってもいいような切実さで叫んでる。
そして、曲の終盤ではギターをかき鳴らす音だけをバックに「結局君のことが好きなんです」と、ついに"隙を見せ"ますが、それでも君は絶対にいないわけで......。
......というような、サウンド面の展開と歌詞の展開のリンクで心を鷲掴みにされちゃう。
そんな、はにかんでしまって素直になれないままに終わった恋に、終わってから縋り付くというめちゃくちゃ王道に拗れたラブストーリー。名曲です。
4.小粋なバイバイ
続けざまに、これもアップテンポながら切なさを湛えた曲。
イントロの、すごくindigo la Endらしい歌うようなメロディアスなギターがやはり最高。
歌い出しがいきなり
吹きこぼれた後の やり場のない台所
感情的になるには絶好のタイミング
声も荒げずあなたが出て行った後静けさの中で悩んだ
このまま終わらせるかどうか
と、ちょっと長く引用しましたが、かなり具体的なシーンが描かれて曲が始まります。
「吹きこぼれ」という言葉に料理をしているあまりにも日常的な光景と、感情が抑えられずに声を荒げてしまうような様をダブルミーニングにしてるのが巧い。
感情的になるには絶好のタイミングのはずが、しかしあなたの方は声も荒げずに出て行く、という温度差。これも吹きこぼれによってコンロの火が消える様と照応されています。
この冒頭の見事な情景描写のおかげで、恋を終わらせるかどうかで悩む主人公の心理描写にスッと入らせてくれるのが、やっぱり上手いなぁと思います。
つかみがオッケーだから後はもう曲の疾走感に引っ張られていくだけ。
イントロやメロの部分はギターが印象的なのが、サビでは一転してリズム隊が強制的に聴いてる私の身体を揺さぶってくるのがまた心地よすぎるんですよね。
そして、この曲を一言で言い表す「バイバイ、あなた以外」というフレーズが強い。
泣き損が嬉しいとまで言ってしまうともう、ちょっとメンヘラ感さえ漂いますが、それを表すように最後のコーラスの声がおかしいことになってるのが芸が細かいというか何というか。
恋というものの美しさや小粋さから、それを通り越した狂気的な側面まで垣間見せてなんとも言えぬ切なさを描き出した名曲です。
5.通り恋
アップテンポな曲が続いたところでド直球のバラード。
重厚だけど穏やかでもちろん切ないイントロからして、「おっ?」と逆に驚くぐらいのストレートさ。
そして、歌詞がもう、過ぎます!!切なさが!
切なさのオーバーキル。ラブソングの中のラブソングです。
「聞かれたら困る話だけど 歌に乗せたらいいよね」
「心の実」では遊び心的に使われた歌であることへの自己言及が、この歌の冒頭の歌詞ではもっと切実に、「歌に乗せてしか言えない本音」とか「歌を歌う理由」くらいの意味まで込めて使われています。
そして、短いAメロの後はすぐにサビですが、これがまたエモエモ。
サビの入りの「もう」が良いんですよね!「もう」っていう一言を置くことで、一瞬のうちに「サビが来るぞ」という心の準備ができて、感情全開でエモ狂えるんです。やばいっすね。
1番ではわりと抽象的なことしか言わず、2番では少し2人の関係が見えてきて、Cメロでピントが合うように具体的なことがエピソードまでが語られてからの、大サビではガーンっと盛り上がって、最後にP.S.が来るという、構成が美しすぎる......。
近作では特に、死別を思わせる歌も多くなった川谷絵音ですが、この曲はあえて普通の失恋が描かれています。言い換えれば、「死ネタ」という飛び道具を使わなくてもここまで切ない失恋ソングを描ける、という証明。
だんだん具象度が増す構成ではありますが、それでも具体的な描写より心情吐露がほとんど。失った恋を忘れられないという、ただそれだけの気持ちが高純度に結晶化していて、だから同じような気持ちを味わったことがあ
る人間ならば泣かずにはいられないんですね。で、それを切なくも優しく歌い上げるわけですからね......。失恋の悲しみの肯定。エモい。
特に好きなのが、「得意料理も知らないままだった」ってとこ。
それだけで、2人の付き合いの深さと浅さが浮き彫りになるような名フレーズですね。
6.ほころびごっこ
『ごっこ』という映画の主題歌になった曲。
川谷絵音が映画を観てから寝たら夢の中で曲ができたらしい。私みたいな創作とかしたことない人間からしたら「マジかよ〜」と半信半疑になってしまいますが......。
しかし、映画を観ると、タイアップとしても見事で凄えなと思いました。
映画に出てくるものや、映画のテーマをがっつり出しつつ、indigo la Endらしい憂いのある恋愛ソングにもなってるという両立の仕方。寄せながらも寄りかからないことのかっこよさ。
それは置いといて、前曲「通り恋」までがアルバム前半とすれば、この曲から中盤に入っていくイメージです。
ここまでは恋愛・失恋についての曲ばかりでしたが、これは微妙にそれだけではない。
恋愛を通して、人生というか、生き方というか、自分というものについてというかまで視野を広げた曲ですね。
ほぼ歌始まりで、冒頭の歌詞のインパクトがデカいっすよね。
まさか僕ら愛し合った?
あなた僕だけを見てるの?
すれ違わない確信が持てないと見返せない
このフレーズだけで、不器用で臆病で捻くれ者で優柔不断な主人公の姿がもう見えてきます。そして、それが全て自分に当てはまるので、もうダメですわ......。この歌、私のこと歌ってるよ......。
で、全体の歌詞を見ると、このフレーズ以外は全く繰り返しがないんですよね。
ほぼ一方通行で、1番と2番ではサビもまるっきり別のことを言ってる。そのうだうだ感がこの曲の主人公に似合ってるとともに、そんな中でも繰り返されるこのフレーズがどんどん印象に残ります。
タイトルの「ほころび」という言葉は、最初は「結び目が綻ぶ」とかの悪い意味かと思ってましたが、よく読むと「顔がほころぶ」みたいなプラスのニュアンスなんだと気付きました。もちろん、それの「ごっこ」なので状況はプラスだけど思考はマイナス、といったところ。
要は、初めて彼女が出来て、浮かれたいんだけどもどこかで幸せを恐れてしまう時の歌ですね。わかりみ〜。
あるいは、先にゴールしたもん勝ちとかのところは結婚のことかもしれないなぁ......とか思っちゃう時点でやっぱり私みたいなクズのための歌ですね。
BB弾とかグリコとかコーヒーカップとかの比喩がゆるやかに全体のテーマを浮かび上がらせてるのも上手いっすね。
最後の、
最初は大体真似事よ
ずっとそうなのかもしれないけど
という、ポジティブとネガティブがフィフティフィフティよりはややネガ寄りなところ、分かる。
ちなみに、この曲はボーカル無しの「本人が演奏してみた」動画も上がってて、それはそれでオシャレなインスト曲として聴けて素晴らしいです。他の曲もやってほしい。
7.ラッパーの涙
なかなかヘンテコなサウンドの「ほころびごっこ」から、さらに実験的なこの曲へ。
ブーーーンという不穏な音、ギターとピアノの美しくもやはり不穏な旋律が展開し、不安定なコーラス。このイントロがもうめちゃくちゃ良い。
アルバム発売前からこのヘンテコなタイトルが気になっていましたが、聴いてみてなるほど、と。たぶんだけど、ラッパーをディスってますね(笑)。
ラッパーをディスりつつ、自己紹介してます。
スイートマイナーコードに乗せて
幸せを当たり前にしないよ
だからたまには悲しませるよ
これはまさに、indigo la Endの歌そのものですよね。
この曲はいわば「indigo la Endのテーマ」と呼べるのではないかと思います。
でも2番ではおもっくそ早口なラップをぶちかましたりとindigoらしくなさもあり、しかしらしくなさを開拓していくのもindigo らしいと言えるのかもしれないとも思ったり。
ともあれ、私はそんなあえて幸せじゃない未来も歌っちゃうindigoが好きなんです。
また、アルバムの中で、他の曲は物語調なのにこの曲だけが自分たち自身について歌っているような異色作。
ただ、アルバム全体にメタ的な、歌を作ること自体に言及する歌詞は散りばめられているので、アルバムの真ん中あたりにこの曲があるのも非常にしっくりきます。
最初と最後に(途中にもだけど)「ブーーーン」の音が入るのも、一旦視点が変わることを表しているようにも聴こえますね。
8.砂に紛れて
からの、ドラムのスティックでカウントをとってからのめちゃくちゃ鋼の振動ですって感じの高くてうるさいギターサウンドにテンション爆上がり。一方ベースとドラムもなんかもう好き勝手やってる感じでわちゃくちゃしたカオティックな感じでぶち上がったテンションがそのまま爆発四散しそうになったところで、歌い出すときちんと息の合った演奏になるところが良い。
長田くんのギターってわりとメロディアスでそのまま歌えそうな演奏が多いですが、この曲ではそういうのは間奏だけであとはもうチャキチャキいってて新鮮。でもロック感はそんなに強くないのは、歌が(歌詞もメロディも)歌謡曲テイストだからでしょうか。
で、歌い方もまた良いんですよね。
ミックスボイスっつうんですか?地声部分とファルセットの切り替えが美しい。もちろん、それは昔からの川谷絵音の特徴ではあるのですが、正直昔のゲスの曲の裏声部分とかってちょっと、ファンの方は読まないで欲しいんですけど、ちょっとアホっぽかったりするんですよね。
その点、この曲なんかはただただ美しく、この人どんどん歌が上手くなっていくなぁと驚きました。こんだけファルセット多用して全然聴き苦しくないんですもの。
そして、そんなエモい歌い方に見合って歌詞もエモエモ。
いわゆるいってたらいけた恋の、行けない気持ちをうだうだと歌った、女々しくて女々しくて女々しくてつらいナンバーですね。
非常に分かりやすく物語調になっていて、同じほっぺの赤が冒頭とラストで違う意味で機能するところなんかどひゃあ!ってなります。
あなたの気持ちはわかってるのに
はじまりの音が怖くなるんだ
という歌詞が、アルバムの最後の2曲まで尾を引いていますね。
9.秋雨の降り方がいじらしい
これまたみょうちきりんなイントロ。おばけでも出そうな音色がちょっと米津玄師の初期の変な曲とかを連想しちゃいます。
そして、インディゴにとっては初のがっつり秋ソング。
夏や冬の曲は王道ですが、秋の曲にはちょっと捻くれたイメージでもあるのでしょうか、この曲の歌詞は諦念と皮肉が目立つ裏に秋らしい寂寞を感じさせるものになっています。
魔法が解けて こぼれた 2人
よしなに歌ってください
渡された歌詞を読んでた
秋夜はちょっと無さそうだ
というところは、彼らの代表曲「夏夜のマジック」のパロディ。
どストレートに泣けるセツナソングの夏夜をこうやってネタにしちゃう捻くれ方が好き。
とはいえ、ストーリーはやはり切ない失恋ソングではあります。しかし、目立ちたがりやの雨に流される2人の恋には切なさ以上に無常を感じます。雨を主役にしたりメタを入れたりして一歩引いたような視線で歌われるからでしょうか。
あと、
祭りと都会の境界線
踏み越える時と僕とあなたのあれこれ
似ている気がした
ってとこに、なんとはなしにエロさを感じます。
10.midnight indigo love story
インディゴには珍しいアコギの曲。しっかしめちゃくちゃオシャレっすね。
イントロで「スマホ壊れたかよ?」と思うようなぷつぷつっていうミックスがされてるところの違和感で曲に入り込んでしまいます。そこんとこのちょっとバグったみたいな感じも歌詞にピッタリ。
三拍子で同じようなギターのフレーズが繰り返されるループ感が、まさに深夜に酒あおってる感じ......とまぁ、私は下戸だから想像ですけど。
そして、歌詞もまた似たような短い言葉を羅列することでループ感があり、同じことを何度も思ってしまう失恋のやるせなさが濃密に伝わってきます。
主人公の女々しさは「砂に紛れて」の彼の数年後っぽいっすよね。
そんな単調な中で2箇所だけ文章になった歌詞が出てくるんだけどそこがまたエグい。
一人で行くはじめての場所で呷った酒の味
説明的な歌詞だな
書きながら笑った
というとこは、曲の最後の「歌の性(サガ)」という部分にもかかっていて、心の根を曝け出そうとしても歌詞に起こすと説明台詞みたいになってしまう、ということでしょうか。
2曲目の「たまにはこんな歌詞もいいでしょ」からすると、随分とディープな内省を含んでいて、このあたりが「濡れゆく」私小説なのかな、と。
私はいつ出来てもいい
重く残った君の声
眠ったフリしてたっけ
あの時はごめん
ってとこは、衝撃的でしたね(笑)。
今までも性を思わせる歌はいくつもありましたが、それにしてもここまで生々しいのは初めてでは。
憂いを帯びた失恋や悲恋が歌われたこのアルバムが、ここに来てついにここまで来て、それでもやはり終わった恋愛でしかないという無常......。
そして、結びのこの曲へと続きます。
11.結び様
私小説の結末は、アルバムのラストにしか置けそうにない結び様。
ここまでエモすぎて疲れたわいとばかりにイントロからAメロまではたら〜っとゆったりしっとりなバラードです。
しかし、ゆったりさはそのままに、サビでは抑えていた感情がせり上がって溢れる寸前、みたいな歌い方をしやがるので苦しくなります。
さらに曲の終盤ではどんどんエモさを増していって、最後の痛切な叫びには泣くしかねえ。
歌詞は本作の中でもいっとう女々しい、「実か分からぬ恋ならばなかったことにしてしまおう」という感じのお話。
恋心をスロットに喩えるのはもはや美しいのか美しくないのかよく分からないけれど、
喜怒哀楽のスロット早回しした
ぐるぐる変わる僕の中でも
君はずっと素敵だ
といった良さのあるフレーズはあるのでいいと思います。
サビの
結んでもない 結んでもないから
僕はまだ君を 愛さないことができる
というところは、この曲が主題歌になったドラマのタイトルの引用ですが、川谷絵音がタイトル考えたのかなってくらいインディゴの歌詞としてしっくり来ますね。ちなみにドラマ観てないけど。
こうやって情けなく強がりながらも、曲の最後には
好きにならなきゃよかった
を連呼しちゃうところが好き。
それを言っちゃおしまいなんだけど、それを言うより他にない。
そして、このフレーズがアルバム全体の〆としても効いていて、例外もあれど多くの収録曲に当てはまるフレーズだと思います。
さらに、終盤の
この歌にだけ残す
というフレーズも見事。
歌を書くこと、というテーマもあった本作の締めくくりにやはり相応しく、「好きにならなきゃよかった」とは言いつつも、好きになったその気持ちを完全に否定せず歌にだけでも残そうとするってのは消極的ですが美しいと思います。
実らない恋でも、その気持ちは美しい。
それを残すために歌がある。
そんな、青く淡く憂う恋の短編小説集11篇。あまりにも悲痛で切なく虚しい余韻が、リスナーの心の中でだけキラリと光る、素晴らしいアルバムでした。
そんな感じで、コンセプチュアルでありつつカラフルという私の好きなタイプのアルバムだったので毎度のことながら最高傑作と言っておきます。
リリースから感想を書くのにわずかばかり時間が空いてしまい、そのわずかの間にすでに次作の告知がありました。楽しみが尽きなくてファン冥利に尽きるわ。ありがとう、indigo la End。