偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

浦賀和宏『地球人類最後の事件』読書感想文


ついにあれをあれした八木剛士だったが、あれにあれされてあれれのれ。
そのあれはあれだったものの、剛士はついにあれをあれしてしまい......。

地球人類最後の事件 (講談社ノベルス)

地球人類最後の事件 (講談社ノベルス)

女なんて嫌いだ
アメリカなんて嫌いだ
女なんて 女なんて 女なんて嫌いだ
女なんてどっかに消えちまえ

はい。
夢中になって読んできた本シリーズも残すところ本書と次巻だけ。

本書でもシリーズ完結に向けてまずはこれまでのあらすじが独白によって語られます。小田渚の。
そう、今まで常に側にいるけどそんなに存在感の強くなかった渚ちゃんですが、実は腹に一物も二物も三物も持っていたことが分かり、この女マジで死ねよと思いながらもそれが案外面白く読めてしまいます。
彼女は他のメインキャラのように特別な"力"を持たず、オタク陰キャでもない、普通の人代表枠のキャラクターとしてこれまでも描かれてきました。そんな彼女が「普通」であるための思考は、私のようなオタクからすると「はぁ?」とキレたくもなるもの。でも実際私から見てもこういうやつおるし、普通であることの醜さまでもこうして描いてしまえるのが凄いっす。
あと、ミステリ論わろた。
......と、ただのこれまでのまとめだったら読み飛ばしそうなところを、こうやって語り手を変えるだけで新しい面白さが引き出されるあたり、浦賀和宏は若者に好き勝手語らせる天才だなと思います。



そして、一応の本題は剛士が連行された強姦殺人事件。
読者としては剛士時点で読んでいるので彼がやっていないらしいことは分かる(彼のことはもはや信用ならないとはいえ地の文だし)んですが、じゃあなんなのか。ハメられた?
さらにそこからやや意外な展開に進んでいき、地味に良い味だしてる某キャラの再登場からの意外にもシリーズで最もミステリらしい真相が明かされます。
皮肉にも、そのやり口が第1章で語られたミステリ論に通じてくるのが浦賀和宏らしい皮肉な味わいで面白い。



でもでも、またいきなりミステリになって驚いたことさえも霞ませるほど、ラストが衝撃。なかなか、ここまで生々しいリアルな感情がフィクションで描かれることなくね?ってくらい、脚色無しで本当のことが描かれています。よくもここまで恥ずかしげもなく心のエグいとこを暴き出せるな、と驚きます。まぁこういう描いちゃいけないことを平気で描くのが著者の作風ではあるんでしょうが......にしても......。
何より最悪なのは、自分がある人物に完全に共感してしまうこと。ここまで醜い心を描きながら、その醜さは私自身の鏡でしかないことへの絶望。というかもはや諦観。

畢竟、人間なんて自然現象の一つでしかなく、夢とか希望とか喜びとか美しい気持ちなんてものは全てフィクションに過ぎないのだな......と、そう思いました。

何はともあれ、ヤバすぎて寝ずに読み耽ってしまい翌日つらかったので、まずは浦賀和宏の名を恨みはらさでおくべきかリストにしっかり書き記しました。

いよいよ次巻で最終回。
たぶん死にたくなるんだろうけど頑張ります。