偽物の映画館

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西澤保彦『からくりがたり』読書感想文

8編の短めの短編から成る連作集風の長編。

からくりがたり (幻冬舎文庫)

からくりがたり (幻冬舎文庫)

毎年年末年始に起こる殺人事件と、"計測機"と呼ばれる謎の男を軸にしつつ、各話で友達グループの若い女性たちを主な主人公にしつつめくるめくセックスの世界が展開されていくというわけわかめな作品。



一応、各話はそれぞれ短編ミステリとして読めるものにはなっているんですが、しかしミステリとして読むと、だいたい分かる、意外性ゼロ、偶然多すぎ、しかも結局曖昧で、どう楽しめばいいのか皆目分からず。

これが、幻想ミステリとして読むと、現実と妄想や虚構のあわいにある物語にくらくらしつつ読めてちょっと面白いんですけど、あまりにも登場人物が多すぎてどれが誰の妄想で云々みたいなのがもはやどうでもよくなってしまうのは、まぁ、私の脳みそが小さいからかもしれませんが......。

ただ、童貞ミステリとして読むならこれはなかなか面白く、第一話の妄想性豪日記を書きながら妹の下着でオナニーする少年の姿には泣けますし、それ以降繰り返されるセックスのオンパレードには興奮と嫉妬との入り混じった感情を覚えましたし、最後のアレにはウェっと思いつつもなかなか分かりみもあったり......と、結構楽しめてしまいました。

また、各話のおかしいやつばっかでてくるストーリーのキモさは西澤印で面白かったです。
除夜がたりの理不尽さに辟易したり、幼児がたりの特殊な視点の面白さに唸ったり、不在がたりの終盤の激しさに引き込まれたりと、その辺は楽しかった。
まぁ、男のセックスはつまらないといういつもの持論がまたも展開されるのには慣れてくるとやや辟易で、そんなん言われたって......という気分にもなりますが。


そんなわけで、ミステリとしては一切の期待を捨てて読むべきですが、西澤保彦の気持ち悪さやセックス描写が好きならば読んで損はないかもしれません。
個人的にはトータルであんまり面白かったとも思えないけどなんか嫌いになれないみたいな微妙な感情を抱きました。