偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

ストレンジ・ダーリン(2023)


シリアルキラーが町を恐怖に陥れる中、モーテルの前に停まった一台の車。
中には、今夜出会ったばかりの男女の姿が。
「あなたは、シリアルキラーなの?」「まさか」
一夜の過ちが、予測できない凶悪な連続殺人へのスパイラルとなっていく。
あなたは、愛の罠に落ちる。

ちょっとあらすじ書くのも難しかったので公式からコピペしましたが、面白かったです!いや、面白かったのかどうかはよく分からんけど、なかなか好きでした。

冒頭でいきなり「あなたシリアルキラーちゃうよね?」からの首絞めからの逃走......となんか予告編みたいな始まり方をしつつ、オープニングが終わると「これは6章からなる物語である」とか言ったそばから「第3章」ってはじまって、「え、今私2章分寝てた!?」とか思ったらそう、本作は章立てがシャッフルされてお送りされる構成になってるんですね。トリッキーなミステリが大好きな身としてはもうこの尖った構成だけで「あ、やばい、好きかも......」と思っちまうわけですが......笑。
そのシャッフル構成のおかげで、かったりい起承をすっ飛ばしていきなり男が女を銃持って追いかけるクライマックス的なパートから始まって「イントロ飛ばし」されないようにしているのがまず現代的で面白いですね。
そして、「どうしてその状況になったのか?」という因果の因が分からないままただ結果だけを観せられるので、シンプルな追いかけっこを描きながらも強烈な謎で引っ張ってもくれるのが素晴らしい。
そして、そこからはもうネタバレが怖いのであんま書けないんですが、ちゃんと章を追うごとに意外性が用意されていてダレることなく常に面白いのが凄かったですね。

まぁ、強いて言えば結末がちょっとダレる気はしますが......。「ああ、終わった」と一息ついてからの話が結構長くて......。

ともあれどうしてもストーリーが上手く出来ているのでそこをまず語ってしまいましたが、映像もとても美しくてむしろそっちの方が好きですね。
最初に「35mmフィルムで撮影しました」とテロップが出る通り、フィルムっぽい質感、特に光の映り方がめちゃくちゃ良かったです。ネオンのエモい光、車のギラギラした光沢、外の場面の白昼の自然光の儚さ......映される全てが美しくて、それに浸れただけでも大満足でした。赤と青の使い方がいいよね。
あと主人公の女性のビジュがめちゃくちゃ好きだったのもデカい。彼女が(主人公だから当然ですが)出ずっぱりなだけでも見ててハッピーなのである。煙草吸うシーンが多いのも良いよね。私は嫌煙家だけどやっぱ映画には煙草は必要ですよ。

んで観終わった後の感情が、胸糞悪さでもなく、サイコキラーをやっつけてスッキリ!とかでもなく、一言では括れない気持ちになる余韻も良かったです。良かったような、悲しいような、よく頑張ったよ!みたいな感じもあるし......。

あと音楽が最高。
儚い女性ボーカルによる甘く切ない雰囲気の歌。歌のある挿入曲はZ Bergさんというシンガーが担当していて、サントラもあるのでさっそく聴いてます。優しく低カロリーだけどどこか不穏な感じが夏にぴったりですね。

まぁそんな感じでストーリーも、音楽を含む映像も好きで、とても良いB級映画でした。ちょうど先日観た『マキシーン』のデビッキさん演じる映画監督が言ってた「A級のアイデアB級映画」ってこれのことでは!?と思いました。

以下ネタバレ。



















































こんだけミステリをたくさん読んだり観たりしてるわりにアホなので中盤まで全然トリックに気付かず、「え、え、なに?そーゆーこと?ねえ、そーゆーことなの???」と少しずつじわじわ気付かされるゾワゾワをしっかり堪能できました笑。

まぁなんせ最初に3章と5章であれを見せられてしまったら、実際には被害者の反撃なんだけど、もうそこで先入観に囚われてしまいますよね。
そこから1章までは男がシリアルキラーでっていう路線ながらも女の方もなんかおかしくないか......?と徐々に違和感を与えられ、4章の終わりに衝撃的なシーンを持ってきて「え?」ってなってからの2章で種明かしという構成に無駄がなく、チャプターシャッフルというと複雑で難しそうですがめちゃくちゃシンプルに全てが理解できてなおかつ驚かされる親切設計が好き。
ただ、そのどんでん返しの後で、まぁ男と女の直接対決は良いとしても、その後応援の警官2人とのあれこれや最後の第一村人のおばちゃんとのあれこれなどが結構長くて、いつ終わるんだろう??と思ってしまったのが残念で、この辺はばっさり削っても良かった気がします。まぁ、ELという殺人鬼のタフさが観られるシーンでもあり、既に彼女に惹きつけられている観客としてはずっと観ていたい感もあるっちゃあるんですけどね。

まぁともあれ観終わってみれば奇を衒ったわけでなく非常に効果的な構成になっていて唸らされましたね。
しかしこれ、男が観るとあんだけ永久にヤレなくてもキレない彼が聖人に見えてしまうんだけど、女性が観るとどうなんだろう、と気になりました......。