歌人の岡本真帆ぴさんが様々な媒体で発表したエッセイをまとめて書き下ろしも加えたZINE。東山公園の書店ON READINGさんで買いました。

わたしは日々、いろんなできごとの間で揺れている。
二つの点の間を行ったり来たりしながら、考えたこと。
歌人と会社員、東京と高知、2拠点で2つの生業を行き来する著者ならではの『反復横跳び』というタイトルがまず魅力的ですよね。批評家の伏見瞬氏は『スピッツ論』においてスピッツの特徴は「分裂」であると喝破していましたが、強火のスピッツファンである岡本さんもまた分裂が似合う方なのかもしれません。羨ましい。
本書の収録エッセイにも、「〇〇と〇〇の間」というタイトルのシリーズがいくつかあったりもして、ふたつの概念のあわいを行く感覚が心地よかったです。
なんというか、暗い面もあるんだけどそれも前向きに捉えようとしてるから軽やかに感じられるんですよね。めっちゃ笑えるとか凄く特殊なエピソードとかはないんだけど、だからこそ親しみが湧いて心地よく読めるのかもしれません。
特に好きだったエッセイをいくつか挙げると、まずなんと言っても「向こう側のごちそう」です。初めて食べたいと思った物語の中の食べ物は『ぐりとぐら』のカステラだった......という話で、「俺も俺も!」と思わず著者の肩をぽんぽん叩いて話しかけたくなりました。子供の空想力ってのはすごくて、確かに想像の中であのカステラ食べたし味もちゃんと覚えてるんですよね。ただ未だにあの味には出会えていない......というかあれはカステラよりもたまご蒸しパンに近い味だった気がします私の中では。『ぐるんぱ』のビスケットとかね。
また、「雪の中のラストシーン」は、これも私にとってとても大切な映画である『ホームアローン』についてのエッセイで、スピッツといいぐりとぐらといい、岡本さんとは影響を受けたものがすごく近くてだから好きなんかなと、なんつーか「奇遇ですね」とでも言いたくなった。奇遇ですね、私もスピッツとぐりとぐらとホームアローンで育ちました。しかし、先日私も久しぶりにホームアローンを見返したんですがこんな素敵な感想が書けなくてちょっと文章の良さにジェラシイ感じちゃいました。確かに、隣のおじさんとか鳩おばさんとケヴィンの対等な関係性こそがあのシリーズのキモだよね......と蒙を啓かれました。
「大きいコーラ」はシンプルに幼少期のなんてことないけど心に残る思い出のお話で、私の体験ではないのに強烈なノスタルジーに襲われてとてもよかった......。
そのほか、著者の高知の家から映画館に映画を見に行くためには5時間と9千円かかるとか、高知では死後硬直が始まる前の鰹が食べられるとか高知に関するあれこれも面白かった。飛行機も新幹線も苦手なので四国とか沖縄とかの海外にはなかなか行けないんだけど、もしもパニックが良くなったら行ってみたいと思いました......。