ストリップダンサーのアノーラことアニーは、客として出会ったロシアの富豪の息子イヴァンと恋に落ち、ベガスで衝動的に結婚する。幸せな新婚生活も束の間、やがてイヴァンの両親の使いの男たちが現れ、結婚を無効にしろと迫り......。

パルムドールとオスカーを同時受賞した本年を代表する映画で、ミーハー映画ファンで知られる私としては絶対見なきゃ!とミーハー心を発揮して観に行きましたが、素晴らしい作品だったのと同時に、セックスワーカーでも御曹司でもない私にはノットフォーミーで悔しくなりました......。もちろん、誰もが普遍的に楽しめる作品でもあるんですが、どうしても「お前なんかに分かってたまるか」と拒絶されているような感覚が強いです。まぁ、そんな自分には分からないものをぶち込まれるのもまた映画の醍醐味よね。
んで内容ですが、作中にも「シンデレラ」という名前が出てくる通り、シンデレラストーリーのその後を描いたお話になってます。
主人公アニーが金持ちの御曹司と結婚するまでをインスタ映えする映像と麻薬的なEDMゴリゴリでキラキラと描く序盤から、中盤以降ではイヴァンの親が「息子を娼婦なんかと結婚させない」と介入してきて、挙句イヴァンが逃亡してしまい、何故かアニーとイヴァンの両親の使いの男3人組がパーティを組んでイヴァン探しに奔走するドタバタが描かれ、さらに......という感じ。
序盤はマイキー・マディソン演じるアニーのエロさにどうしても目が行ってしまい、衣装が変わるたびに鼻血が吹き出てしまいました(美しすぎる)が、そんな(エロさと金を除けば)王道ロマンス風味の序盤からジャンルレスな感じに転じていくのが面白かったです。
とにかく終始うるさい映画なんですが、そのうるささも序盤は若者たちの刹那的狂騒のうるささなのが、中盤からはそれぞれに相容れない事情を抱えたアニーと3人組が絶叫し合う怒号のうるささへと転じていき、その収拾のつかなさはもはやギャグ。ただし主人公が拘束されて「レイプされる!」と叫ぶシーンを(実際は男たちにその意図はないことが明示されているとはいえ)ギャグとして描くのはどうかという批判もあってなるほどと思わされたし、ここで「なるほど」とか思ってる時点でやはり本作を批評する資格は私にはないんだと思います。ちなみに、パンフ読んだら本作ではインティマシーコーディネーターも入れていないらしく、そうした時代に逆行した作品がアカデミー賞を取るというのはちょっとどうなんか......と思っちゃいますね。
とはいえ映画としては面白いのが厄介で、特にイヴァン探し編はとても良かったんだよなぁ。凸凹と言うにも凸凹すぎる4人組の珍道中。ゲロの人が可哀想すぎる。ダイナーでめっちゃ口にハンバーガー詰め込みながらもぐもぐ話すシークエンスは、登場人物たちからしたら居た堪れない嫌な時間なんだけど数奇な巡り合わせでここにいるこの時間そのものが愛おしくなるような奇妙な感覚に襲われてかなりグッときました。TikTok Instagram TikTok Instagram TikTok Instagram......にはクソわろたけど。
本作においてはキャラクターたちの背景がほとんど描かれないのも特徴的で、アニーがなんでストリップダンサーをしているのか、過去に何かトラウマがありそうなんだけどそれは何なのか、あるいはイヴァンの親はなんで金持ちなのかとか、キャラクターの掘り下げが全然されないんですよね。それでいて観客が勝手にそこを想像で補おうとしてしまうくらいにキャラたちそれぞれに強い魅力と生々しい存在感があるのが凄いです。アノーラの賢さと愚かさ、強さと弱さがくどくどとエピソードを連ねなくても目だけでもう伝わってきます。イヴァンもこのファッキンクズめクソ死んじまえ!と思いながらも生まれてきてからずっと親に抑圧されてきたであろうために無力感が強くて親の金で豪遊するくらいしか発散の仕方が分からないんだろうなとかも思わされて憎みきれなかったり。2人の結婚に関しても、お互いに金と体目当ての打算によるものではあるんだけど、本当にそれだけってことがあるのか?食玩に付いてくるオマケのガムくらいの愛情はあったんじゃないのか?などと思わずにはいられなかった......。
また中盤以降で存在感を増していく3人組の1人で用心棒の青年イゴールが、登場して早い段階からアニーのことを気にかけているんだけどだんだんとそれが顕著になってそれと共に後ろの方に映り込むみたいな形でアニーとのツーショットが増えていくところとかもハラハラさせられますね。イヴァンなんかもはやモブで彼が第二の主人公って感すらある。
そして、解釈の難しいラストシーンも印象的で、これまで散々騒々しくやってきた本作だからこそこの深い余韻を残す終わり方にギャップで痺れてしまいました。
正直なところラストの意味が分かってないし、何度も書いているようにノットフォーミーな映画なので私には解釈する資格もないように思いますが、それでもワイパーと本作のタイトル「アノーラ」が改めて強い印象を刻みつける良い終わり方だったと思います。
嘘みたいで嘘なシンデレラストーリーよりも間抜けなワイパーの方に人生の機微が詰まってて......。