偽物の映画館

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新井見枝香・千早茜『胃が合うふたり』感想

直木賞受賞でも話題になった小説家の千早茜と、書店員でエッセイも出してて本書の途中でストリップショーの踊り子としてもデビューして三足の草鞋を履く新井見枝香。
「気が合う」ならぬ「胃が合う」2人が色んなものを一緒に食べ歩きながら交互に綴っていく共著エッセイ。

......という感じで、てっきり美味しいものがいっぱい出てくるほっこりした感じの食べ物エッセイかと思っていたら、思いの外2人の関係性にウェイトが置かれていて、思ってたのとは違ったけどむしろ意外な驚きがあってとても面白かったです。

食べ物の好みはもちろん、食べたくなるタイミングや、食べることへの姿勢までが似ている、まさに「胃が合う」ふたり。
しかし、新井さんは破天荒で変化を恐れずグイグイ生きていくタイプ、千早さんは自身「定点」とも表現する変わらずに変わりゆく周囲の人たちを見ているタイプ。あんまりこういうこと生身の人間に言うのはよくないかもしれませんが、ちょっとマンガみたいと思っちゃうくらい正反対で魅力的なキャラなんですね。
そして2人がベタベタせずにあくまでも1人と1人として在る感じ、それでいてリスペクトし合ってる感じとかもなんか羨ましいなと思ったよこの関係。
毎回新井さんが先攻、千早さんが後攻なんだけど、新井さんのエッセイはとにかく勢いがある感じで、面白くもちょっと戸惑っているところに千早さんの丁寧なエッセイが答え合わせみたいに来る構成にも相乗効果が感じられて共著エッセイならではの面白さだったと思います。
中盤からはコロナ禍に入ったり新井さんがストリップダンサーとしてデビューしたりと個人的にも社会的にも大きな出来事も起こり、ちょっとヘビーな読み味になっていくのも良かった。

そして、そうはいっても出てくる食べ物はやっぱり美味しそうで。東京とか京都のお店が多く、少なくとも名古屋は出てこないのでふらっと行ってみよう!とはいかないのですが、旅行に行った時のために気になったお店をメモしておきました。とはいえ作中にも書かれているように行こうと思ったらお店が潰れちゃったりとかもどうしてもあるので、早めに行きたい......とりあえず東京には6月に行く予定があるのでドースイスピーガには行ってみたいと思います!

そんな感じで、茶飲み話だと油断していたらじわじわと赤裸々な内面も語られていって気付けば2人の人生に絡め取られていくような読み心地で、驚きつつも楽しませていただきました。