偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

マッドマックス:怒りのデス・ロード(2015)


イモータンジョーという老人が支配する荒野の国。
そこでは男は代替可能の労働力として奴隷のように使われ、女は子供を産む機械として使われています。
そんな中、女将軍の主人公フュリオサはイモータンの妻である女性たちを連れて「緑の大地」へと逃亡を図るわけです。
しかし、タイトルはマッドマックス。マックスさんは一体何をするのかと言うと、あんま何もしないんすよね。
前半はずっと囚われて車に括り付けられてヒャッハーされてるだけだし、後半はバトルに参加するけど普通にフュリオサのが強いしカッコいい。
でも、じゃあマックスが要らない役なのかと言うと、これは要るんですよね。
フェミニズム運動とかに対して、男が「じゃあどうすりゃええねん」って思ってしまう、それへのアンサーの一つの形が本作のマックスなんだと思います。

驚くべきは、そうした現代社会を鋭く切り取ったテーマの深さを持ちながら、ストーリーラインはみんなが言うように「行って帰ってくるだけ」であり、しかもほぼ全編にわたって車で走ってるだけってとこですね。
もちろん冒頭で多少の説明はあるけど、世界観の作り込みに対して言葉による説明が極端に少なく、でも「観てれば分かる」という描き方が巧い。

そしてアクションがもうクソカッケェ。
深層のテーマを考えればなかなか悲惨な戦いなのですが、この際それは置いといて表層で秒でアガっちゃいます。
知らない間に早送りにしたかと思うくらいのスピード感だけど、撮り方が丁寧なのか、わちゃわちゃしてるわりに何が起きてるのかはたいたい把握できるのでのめり込んでしまいます。
全編カーチェイスとは言いましたがところどころで実は止まってるシーンもあり、でも比率が少ないから感覚としては常に動いてたって印象なんすよね。
ただ、本当に常に動いてたらアクションに飽きるし疲れるので、適度な休憩があることでむしろスピード感を増してるあたりもいい塩梅っすよね。
あとは出てくる物とかが全部良いです。
3歳児みたいなこと言うけどつえー車がいっぱい出てきてかっけー。炎のギタリストとかマジ最高っすよね。演出とかもだけど全てが絶妙にダサカッコよくてアツいっす。まぁその辺は私はあんまり興味ない部分ではあるんだけどそれでもすごかったので、そういうの好きな人が叫んでるのはわかる気がします。

そんな感じで、純粋な映像による快楽と、現代社会を風刺したテーマ性の両方が楽しめるので、実は万人ウケしそうというか、どっちかは刺さりそうな作品ですよね。
なんにしろ映画史に残るであろう新たな名作であり、公開時友達に誘われてたけど「えーアクションとかキョーミねえわ〜」とか言って観に行かなかった自分が情けないよ......。