書肆侃侃房の叢書〈新鋭短歌〉シリーズは若手の歌人の第一歌集を刊行する叢書で、短歌初心者にも触れやすいことから私も何冊か気になったのを読んだんですが、本書に関しては帯にはやみねかおるの推薦文があったことの意外性に釣られて買っちゃいましたね。
歌集の感想ってのもショージキ難しいんですケド😅💦、本書の短歌の題材はほとんどがとても日常的なもの。それは例えばローソンだったりいろはすだったり終電だったり好きなバンドだったりするんですが、そういった見慣れた日常の風景を、少しの比喩やレトリックを加えることで現実から少しだけ浮かせてしまうような、そんな短歌が揃っている、と思うけど気のせいかもしれません(短歌の読み方が分からなすぎて短歌の感想はいつも以上に弱気になってしまう......)。
まぁ要するに若者の日常生活あるあるfeat言葉の魔法みたいな感じで、本書を読むと日々の暮らしを3%くらい好きになれるような素敵な1冊でした。
とりあえずいつものように特に好きな短歌をいくつか紹介しながら一言ずつコメントを書いていきますかね。
種なしの葡萄を選ぶおだやかに滅びに向かう国の市場で
私も種なしになってスーパーなどでシャインマスカットを見て親近感を抱くようになってしまったので(笑)、これは刺さったというか、なんか分かる感じがしてしまいました。「葡萄」という小さいものに「滅び」をオーバーラップさせるという飛躍が「種なし」というキーワードによってとても自然にスムーズになされているのが凄いですよね。滅びに向かっているというのも、少子化という事実はあれど、どちらかと言えば語り手の妄想というか、半ば願望と畏怖が入り混ざったような感覚なのかな、というか私はそういう気持ちでいます。
周波数くるったラジオ抱えれば合わせるまでの手のなかは海
ザーザーというノイズと波の音の聴いたまんまの類似のことでありつつ、ラジオを合わせることを広大な海に例えてもいる謂わばダブルミーニング比喩になっていてしれっと凄いです👍
しかもラジオも海もエモい‼️(極浅感想)
掃除機をかけるあなたが口ずさむそれはわたしの歌だったのに
たぶん恋人と一緒に暮らし始めてまだ長くない頃のお話でしょうね。
お互い育ってきた環境が違っていてセロリが好きだったり嫌いだったりする中で、だんだんと生活様式が擦り合わされたり自然と伝染するような様を何気ない歌を通して描いてるのが良いっすね。微笑ましいんだけど、「のに」ってとこにもうその歌が自分だけのものじゃない寂しさみたいなのも滲んでいて良い。
海の日の一万年後は海の日と未来を信じ続けるiPhone
iPhoneのカレンダーを何の気なしにダ〜〜〜っとめくっていくとなんか自分が絶対生きていない80年後くらいまで普通にあって畏怖めいたものを感じることはあり、それを切り取るのがまず凄い。そこを思い切って(?)一万年後にしちゃうことでSF感が出つつ、機械の律儀さが滑稽にも思えます。
Amazonの箱の微笑を踏みつけるいいひとはもう終わりにしたい
「いいひと」であることで損することとか、そもそも本当は「善い人」なんかじゃないのに弱さのせいで「いいひと」になってしまっていることとか、そういうことへの苛立ちがあってもうやめたいと思いつつ、それを段ボール踏むくらいでしか発散出来ない不器用さが愛おしい。
夜空から星を間引いたさみしさの一列あけて座る劇場
映画って楽しいね〜
だからシネマっていうのかな〜
こんな楽しいことは〜
ひとりぼっちじゃできないよ〜
みんなで泣けば感動100倍〜
みんなで笑えば興奮100倍〜
楽しいね楽しいね楽しいね〜
MOVIXへよう〜こそ〜
楽しい映画の〜はじま〜り〜
という歌を映画を見るたびに聴かされて育ってきた私にとって、コロナ禍においてチケットを買うときに座席表に1個飛ばしで✖️が打たれていたことはなぜだか強い寂しさを感じさせるものでした。
まぁ冷静に考えれば近所の田舎の映画館なんてそもそも席数制限されたその半分の座席すら埋まらない......どころかいつ行っても観客数人、下手すりゃ貸切なんですが、それでも間引きの「✖️」の存在は、コロナ禍における寂しさの風景の大きな一つとして印象に残っていて、この短歌でその気持ちをまた鮮明に思い出させてもらえました。
もういないバンドばかりを好きになる星のひかりは昔のひかり
先日「あみのず」というバンドを好きになったら、解散とかしてるわけじゃないけどもう動いてないし聴ける曲が4曲しかなくて悲しかったのをまず思い出しました。
まぁそれとはちょっと違う気がしますが、フジファブリックを好きになった時にはバンドは続いていたけど志村くんはもういなかったし(続けてくれた3人にはありがとう😭)、最近聴いてるフィッシュマンズのボーカルも亡くなられているし、他にもビートルズみたいに大昔に解散してるバンドから、plentyみたいに解散するかしないかくらいの時からハマり出すバンドまで、多くのもういないバンドを好きになってきたし、あるいはandymoriのようにリアタイで解散を見ながらそれ以降もずっと聴き続けてるバンドもいるし。
ともあれ、たとえそのバンドがもう解散したりメンバーが亡くなったりしていなくても、曲は残って、昔のひかりであっても今の闇を照らしてくれるから音楽ってのは良いもんですよね。
だから、星という比喩が言い得て妙すぎるんだよな。
