冬の街をランニングする独身の男メデリックは橋に立っていた売春婦のイザドラに一目惚れし、彼女を口説いてホテルで密会するが、嫉妬深いイザドラの夫に邪魔されてしまう。一方街の広場ではイスラムの男たちによるテロ事件が起きる。そんな中、メデリックのアパートに行き場のないアラブ人の青年セリムが転がり込むが、メデリックは彼が逃亡中のテロ犯ではないかと疑心暗鬼になり......。

アラン・ギロディ監督特集にて観た2本目。
直前に観た最新作『ミゼリコルディア』の一つ前の作品ですが、山奥の村が舞台だったあちらに対し、本作は街が舞台の群像劇(PC画面やスマホも多用される)で、映される風景は対照的だったので続けて観れて良かったです。
これもやはり感想を書きづらい作品なんですが...... とりあえず登場人物みんな変な人でおもろかった。
主人公からして売春婦に一目惚れして「愛してるからタダで君を抱きたい」とか(あんま悪気もなさそうに)言い出す天然っぷり。
彼の全体的には受動的なんだけどイザドラとのセックスにだけはめちゃくちゃ積極的で怖い夫に殴られてもなんのそので突っ走るその暴走っぷりと、そんだけ熱意があるのにどうしてもセックス(てか射精)出来ないもどかしさが繰り返させてじわじわと笑えてきます。
またそうやってイザドラへ一直線に向かう彼の周りでもいろんな性や愛が渦巻いて滑稽な喜劇めいた展開になっていくのが楽しい。
しかしそのすぐ近くでは凄惨なテロ事件が起きていて、コミカルで個人的な性の営みとシリアスな社会風刺がどちらが主ということもなく並置されているのが独特で刺激的でした。性交の中断も、平和の中断の暗喩のようでもあって面白くも怖いんですね。
メデリックが行きがかりから匿うことになりつつテロ犯ではないかと疑いもする青年セリム。彼へのメデリックやアパートの人々の態度からは、差別したいわけじゃないけど身の安全のためにどうすることもできない差別の構造が見えてきて観ている私の心までも見つめられるようなヒリヒリした気持ちになります。特にメデリックの悪夢のシーンは、笑ってしまいつつも鋭利な名場面だと思います。
また、無敵の人や童貞であることに言及されている部分もとても良かった。
本作も人数は多いけど序盤で出揃うメンツがずっとドタバタを繰り広げ続けるというお話でまぁミニマルと言ってもいいと思いますが、そのドタバタがいちいちめちゃくちゃ面白いのでなんかずっと観ていられる映画でした。特にイザドラの夫が怖いんだけどなんかそんな悪いやつでもなさそうなのがじわじわ面白くて好きです。
わちゃわちゃした後一応のオチがついて、まぁなにはともあれ日常へ戻っていこうとする中で急転を思わせる意味深な場面でぶつっと終わる終わり方も『ミゼリコルディア』同様「そこで終わり!?」という驚きがあって良かった。
なんかこう上手く言葉にして感想は書けないけどとにかく観てておもしろかったですね。