偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

魂のジュリエッタ(1964)


夫と結婚して15年、仲良く幸福に暮らしてきたつもりのジュリエッタ。しかし、夫が寝言で女性の名前を呼んだのをきっかけに、彼の浮気を疑うようになる。彼女は霊媒や探偵に頼るようになるが、やがて精神が不安定になり幻覚を見るようになる......。


フェリーニ初のカラー作品だそうです。
今まで観たことある『道』『カリビアの夜』と同じく妻のジュリエッタ・マシーナをそのままジュリエッタという役名で主役に据えていて、フェリーニ自身がいろんな女優と浮き名を流していたことも含めてある種自伝的な作品でもあるようですが、浮気してる夫の側が妻を主役にそれを撮るのにまず引きます。しかも、夫に浮気される中年女性の不安や悲しみが綿密に描かれているところにサイコみを感じずにはいられなくて、正直クズめと思う。
しかしそれはそれとして映画としてはやっぱ凄かった。ある種月並みで通俗的な「夫の浮気を探る」という筋立てながら、そうするうちに妻が不安定になっていく様をマジックリアリズム的な手法で描いているため映像に奇抜で妖しい美しさがありました。しょーもないほどありきたりな現実的な部分とのギャップも含めて観ているこちらも悪夢の世界に引き込まれるような眩暈感があって目が離せなかったです。
えっちな隣人女性(?)の存在感が強烈で(なんかウイーンって木に登るやつ楽しそう!)、抑圧された性の解放をしたくて出来ないみたいな葛藤がえっちな隣人を通して描かれるのが面白い。しかし愛する夫に浮気されちゃった場合、自分も若い男とセックスをしようとしても満たされないし、浮気相手に文句を言ったりしても栓なきことで、結局もうどうしようもないみたいな閉塞感がリアルで、それだけにそこまで分かっていて......と監督への憤りも増してしまいます笑。
しかしラストはなんか都合よく爽やかっぽい感じに締めているのがまた身勝手な感じで引きますけど。しかしとにかく薄いクリーム色と赤のコントラストが映える映像美が素晴らしくてそれだけで観て良かったと思える作品でした。