荒廃した世界に建つ一軒の肉屋。相棒の死をきっかけにサーカスをやめて職を求めてやってきた青年ルイゾンは、肉屋の主人に気に入られ、肉屋の入っているマンションに入居して働くことになる。やがて肉屋の娘のジュリーと恋に落ちるが、実は肉屋は夜な夜な住人を屠殺して精肉にしていて......。
『アメリ』のジャン=ピエール・ジュネ監督のデビュー長編。
デビュー作にしてすでに世界観が確立されていて凄かったです。
全体にセピアがかった独特の色彩とツヤっとした映像がファンタジックさと生々しさを両立していて、オープニングのイメージ映像みたいなところからしてもう奇妙な世界に迷い込んだ感覚が味わえます。
あらすじだけ見るとホラーっぽい感じですが、コメディを基調にしつつラブストーリーやアクション、スリラーみたいな要素も入ってるミクスチャー的なお話になってて予測不能な感じが面白い。
とりあえず出てくる人間たちがまぁ変人揃いで、ピタゴラスイッチ的に自殺を企てつつ毎度失敗する女性や、なんか分からないけど沼みたいな部屋に住んでてカエルやカタツムリに囲まれたおじさんなどなど、もはや殺人肉屋が霞むくらいに脇役たちが個性的。個人的にはえっちなお姉さんが(えっちなのことはもちろん、終盤で覚醒するキャラも含めて)特に好き。そんな変な住人たちが繰り広げる群像劇、というかショートコントの寄せ集めみたいな感じで観られるので、中盤若干ダレるものの、ダレたままでたらっと観てて心地いい、そんな作品でした。
そんでも終盤はスリルとサスペンスに満ちていて、マンションという複雑な構造物の中をわちゎわちゃしながら戦うのは目にも楽しく、スカッとする決着も最高でした。
そしてわちゃわちゃした作品ながらも観終わってみれば彼女の父親の阻害を乗り越えて一緒になろうとするシンプルな純愛ラブストーリーなので、なんかいい話だったなぁという気がしてしまうのがずるいよね。あんだけブラックユーモア満載だったのに......。