偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

山下紘加『あくてえ』感想

先日読んだ『私の身体を生きる』で印象的だった著者の小説を初めて読んでみました。


母親のきいちゃんと、90歳のばばあと3人で暮らす19歳のゆめ。小説家を志すゆめだったが、ばばあのわがままと病気に振り回され悪態(あくてえ)を吐く日々を送っていて......。


中編の短さで主人公ゆめの悪態(あくてえ)混じりの語り口にも勢いがあるため一気読み出来るんだけど、読後にはずーんと重いものが残る作品。
登場人物はゆめと母親きいちゃん、ばばあ、あとは彼氏がちょこっと出てくるくらいでほぼ家庭内のミクロな話で、その狭さが逃げ場もなく煮詰まった日々を表しているようで息が詰まりました。
まぁとにかくばばあが憎たらしくて、施設にでもぶち込んでしまえ!と思わなくもないんだけどそうは出来ない、それは愛情とも責任とも重なるようでちょっと違うような曖昧な感覚なんですが、その切り捨てられなさが切実に描かれていて胸焼けしそうでした。いや、でも、あの親父と彼氏は切り捨てればいいと思うけどなぁ......。というか、父親と彼氏がちょっとあまりにも悪く描かれすぎなのは若干興醒めだったかな......。
とはいえ突き放すような、それでいてあそこで終わることにすごく納得もできるラストも良かったし、著者の他の作品も読んでみたくなりました。