偽物の映画館

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浦賀和宏『十五年目の復讐』読書感想文

十五年目の復讐 (幻冬舎文庫)

十五年目の復讐 (幻冬舎文庫)


著者の前作『Mの女』を読んだ時には、正直なんだかよく分からない話だなと思いました。というのも、『Mの女』は短いページ数でストーリーの展開が激しい作品で、よく言えばサクッと読めてどんでん返しの連続が楽しめる、というところでしょうが、むしろ詰め込みすぎて壮大な物語の梗概を読まされているような感覚になったのです。
ところが、それも強ち間違いではなく、『Mの女』で描かれなかった脇役たちの物語を描くことで前作の世界観に厚みを与える、続編というかOthersideに当たるのが、本書『十五年目の復讐』だったわけです。

また、本書の第1話から第3話までは電子書籍限定短編シリーズ『メタモルフォーゼの女』として配信されていたもので、それプラス第4話を書き下ろし収録した、(続きものの連作とはいえ)著者初の短編集にもなるわけです。


というわけで、以下で本書の感想を書いていきますが、前作『Mの女』の内容は本書の前提となっているため、当然感想にも『Mの女』のネタバレが含まれます。ご注意下さいませ。







というわけで、本書は『Mの女』で西野冴子に接触した人物(西野冴子のファンの主婦や、西野冴子の従兄弟ら)を主役に据え、彼らがどのようにして"メタモルフォーゼの女"の駒となったかを描いた、"メタモルフォーゼの女"サイドのお話になります。

ただそれだけでは前作の焼き直しになってしまいそうなところですが、本書は各話が一応独立したミステリ短編としても読める仕様になっています。そのため、シリーズ物として楽しみつつも、良質な短編をいくつも読んだという満足感も味わわせてくれる、なかなかお買い得な一冊なのでした。

全体の結末としては、とても続きがきになる終わり方になっていて、少なくともこのシリーズが続くだろうことは明らかです。さらに前作にも登場した桑原銀次郎氏もなかなか重要なポジションにいるようなので、今後もしかしたらそちらのシリーズとも関連してくるかも......さらには別のシリーズと合流してもおかしくはない......などと色々シリーズの今後に想像を巡らせてしまいました。
ちなみに偉そうに言ってますが桑原銀次郎シリーズは未読なので早いうちに読んでおきたいですね......はい......。

それでは本書は短編集でもあるので、以下で最終話以外の各話の感想をほんとに一言ずつ書いて終わりたいと思います。




「スミレ色の手紙」

他人に嫌がらせの手紙を出しまくる主婦というなかなか嫌な人物が主人公ですが、浦賀さんが書くとなんとなく共感できる部分もあったりしちゃうから怖いですね。


「生まれなかった子供たち」

こちらも身勝手な主人公で死んじまえと思いますが、私も割と自己中なので分からなくもないのがつらいです。そして意外性と暗澹たる気分を同時に演出する結末も浦賀さんらしくて最低(最高)でした。



「月の裏文明委員会」

タイトルから『地球平面委員会』を連想してはいましたが、まさかここまでガッツリ出てくるとはw
「アイアンスカイ」の話題が出るのが映画ファンには楽しく、大三郎クイーン氏が出てくるのは浦賀ファンにも楽しく、作中作の『月の裏文明委員会』と作中現実の関係性をメインにした物語はミステリファンにも楽しくと、色々と楽しめる傑作でした。