偽物の映画館

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浦賀和宏『ハーフウェイハウスの殺人』読書感想文

森の中の学園「ハーフウェイハウス」は外界と完全に隔離された学園。そこに暮らす子供達は、外の世界を夢見ながらも脱走する勇気はないまま日々を送っていた。しかし、ある日、学園の生徒・アヤコの前に、彼女の兄と名乗る男・健一が外の世界から現れる。そして、それと時を同じくして、ハウスで殺人事件が起こり......。(ハーフウェイハウスの殺人)
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とある企業の社長の愛人の子として、社会の片隅で暮らしてきた健一。ある日、久しく会っていなかった父が現れ、腹違いの妹の彩子が自殺未遂で重体のため自分の会社に来ないかと告げられ......。(ふたりの果て)

並行して語られる2つの物語の連関と結末とは......!?





『ふたりの果て/ハーフウェイハウスの殺人』の改題文庫化です。
作中の扱いとしてどちらの物語も並列なのと、両A面みたいでかっこいいから私は元のタイトルの方が好きですが、それはともかく面白かったです。

解説で「浦賀和宏の持ち味のショーケースで初読にもオススメ」みたいなことが言われていましたが、まさにそんな感じ。
浦賀作品の良さといえば、トリッキーなどんでん返し、溢れまくる情念、インモラルな題材あたりが挙げられると思いますが、本作はそれらが7:2:1くらいのバランスではありますがみんな配合されています。

まずはなんといっても構成のトリッキーさ。
並行して語られる同じ人名が出てくる2つの物語。
それぞれの側で、「"学園"の正体とは?」「殺人事件の犯人は?」「妹の安否は?生きているならどこにいるのか?」などなど魅力的な謎が次々に提示されていきます。
そこに付随して、2つの物語の関連性として、「登場人物たちは同一人物なのか?」「それぞれの微妙な食い違いの正体は?」という謎も生まれ、1冊で3度ミステリアスな贅沢な本になっているのです。
もちろん、それぞれの物語に意外な真相も待っていて、両者の繋がりも(賛否は激しく分かれそうですが)浦賀和宏らしいような、らしくないような、持ち味を出しつつも今までにないものになっていて面白かったです。


そして、そんなトリッキーなミステリ部分が7割を占める(※個人の感想です)本書ですが、残り3割の部分では初期作品のようなインモラルなネタと若者の情念を楽しめました。

「ハーフウェイハウスの殺人」の方では、森の中の学園に閉じ込められ外の世界を見たことのない子供が、外の世界から来た男と接点を持ったことで自分の存在に疑問を持つ様が描かれます。
一方の「ふたりの果て」でも、愛人の子としてひっそり生きてきた男の野心と自意識が生々しく描かれ、終盤ではなかなかにエグいことになり、ディープなファンも満足でした。

というわけで、トリックミステリとしてもウラガ式青春小説としても楽しい贅沢な作品で、ファンにはやや物足りないかも知れませんが浦賀作品入門にはたしかにうってつけだと思います。