偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

ジョージ・オーウェル『動物農場』


ジョーンズ氏が経営する荘園農場では人間に搾取される家畜たちの不満が溜まっていた。そんな中、老いた豚のメジャー爺さんが唱えた「動物主義」が農場の動物たちに支持され、爺さん亡き後でついに革命が起きる。
こうして主権を手にした動物たちだったが、やがて豚による独裁が始まり......。


動物が主役のおとぎ話として描かれる独裁体制の物語。
前々から気になっていつつなんか難しそう......とアホ丸出しで読んでなかったんですが読んでみたらその読みやすさに驚きました。
と同時に、動物の寓話としてこれだけ読みやすく描かれているのに、(コロナに罹って体調悪い時に読んだせいもあるけど)読んでいて動悸がするくらいに恐ろしいのも凄かった。
何が恐ろしいって、作中では独裁者となっていく豚たちの間で何が起こっているのかは一切描かれず、ただ豚たちが決定したこととしてじわじわと、しかし確実に社会のあり方が変わっていくのを何も考えられない愚民たちの側から客観的に描かれていくこと。巨大な権力によってなすすべもなく社会が、生活が悪い方向に変わっていく様、そしてちょっと考えればあまりにも馬鹿馬鹿しい権力者たちの言い訳によってそれが正当化されてしまうその変えようのなさが怖すぎました。
そして、一見共産主義社会主義批判のようでもありつつ、そんなことは関係なくどんな社会体制でも権力者が横暴を始めればこうなるという普遍性があって、言ってしまえば昨今の日本あるあるみたいにすら感じられる、読者の私の暮らしとの地続きさが1番怖かったです......。
仮想敵を作ってそちらに国民の矛先を向けさせたり、公文書を作らずに後出しでどんどん法律を書き換えたりとか、もはや他人事ではないし、そのリアリティによって、その先には本書で描かれたような世界がやってくるんだろうと納得させられますからね。
正直、あまりに怖すぎて本書みたいな世の中になる前になるべく早く死にたいという気持ちしか湧かなかった......。選挙に行けば何かが変わるとかもまるっきり信じられなくてもはや行きたくもないしなぁ(そんでも行くけどさ)。
愚かで善良な農場の動物たちのみんなが、これを耐え抜けば生活は良くなると信じ続けながら搾取されて使えなくなったら無情に殺処分されてそれすら誤魔化されて......っていう流れがつらすぎて、本当に早く死にたい。