偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

ムード・インディゴ うたかたの日々(2013)


莫大な財産を持つ青年・コランは、無垢な魂を持つ女性・クロエと結婚し幸せな生活を送っていた。だが、クロエが肺の中に睡蓮が芽吹くという奇妙な病にかかる。
高額な治療費のために働くコランの人生は狂い始め、クロエも日ごとに衰弱していくが...



5年ぶりくらい2度目の鑑賞。
大好きなミシェル・ゴンドリー監督による、ボリス・ヴィアン『うたかたの日々』の映画化作品。ちなみに原作は未読で、米津玄師の「感電」の歌詞でオマージュされとることくらいしか知らないです......。ちなみに同原作は68年にも映像化されているようでそっちも良さそうなんですが今では観る手段がなさそうなのが残念......。

それはさておき、本作ですが、話はシンっプルなラブストーリーの筋立てながらも、ゴンドリー監督らしい手作り感・いいチープさに溢れた映像表現そのものがめっちゃ楽しくてそんだけでずっと観ていたくなる映画なんですよね、前半は。
オープニングからしてチープなレトロフューチャーみたいな、そしてちょっと魔法みたいなカラフルな映像で、工場のようなベルトコンベアー式でタイプライターで小説を描く人々が映し出され、その小説が本編であるというよく分からないメタ的な描写が面白い。
そして、主人公コランの家には箱庭の中の鼠男(ポンキッキのタナチューみたいな)がいたり、蛇口から鰻がストップモーションアニメでにゅるりとこんにちはしたり、ピアノの音色でカクテルを作る「カクテルピアノ」なる機械があったりと、まぁぶっ飛んだ世界観に圧倒されます。しかしカラフルで混沌としてわけもなく楽しくどこか切ないこの感じこそまさに恋のまっただ中にいる時の世界!!!
ゴンドリーファンとしては正直ほとんど全てのシーンが好きなシーンなわけですが、中でもあの奇怪すぎるダンスシーンは好きすぎます。構造的に無理なのに真似したくなる。真似する際は転倒にご注意ください。

まぁそんな感じで前半の恋の煌めきが眩しすぎるだけに、後半でクロエが肺に睡蓮が咲く奇病に罹ってからの展開はどんよりとしんどかったです。ちょうど低気圧の日に観たのもあって余計に......。
また、愛する人が病に冒されるつらさと同時に、これまで働いたことのなかった遊民のコランが治療費のために働かなければならなくなる......しかしプライドばかり高いせいで職にありつけない......という流れもめちゃしんどかった。労働のシーンもかなりぶっ飛んだファンタジーな業務内容なんですが、ここでははっきりと命の温もりを死に明け渡す様が描かれるので笑うに笑えない居た堪れなさがありました。
しかし、花は枯れ色は褪せてゆく世界で、それでも愛する人のため花を買い続けるコランの姿はとても美しかったです。

という感じでかなり好きな作品ではあるんですが、やっぱりどうしても『エターナルサンシャイン』が強すぎて、あれに比べると本作はキャラクターの魅力が弱くストーリーも一本調子には感じてしまうのはもう仕方がない......。
あと、サイドストーリー的なコランのダチのお話が思ったよりエグいことになるのに引いた。あれは、必要だったんか......?