偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

綿矢りさ『オーラの発表会』感想

文庫になってる綿矢作品を全て読んじゃったので未文庫化の近作であるこちらにも手を出してみました!


海松子(みるこ)、大学一年生。
他人に興味を抱いたり、気持ちを推しはかったりするのが苦手。
趣味は凧揚げ。特技はまわりの人に脳内で(ちょっと失礼な)あだ名をつけること。
友達は「まね師」の萌音、ひとりだけ。
なのに、幼馴染の同い年男子と、男前の社会人から、 気づけばアプローチを受けていて……。

面白かったです!
主人公の海松子はかなり世間のジョーシキから外れたキャラクターで、クラスメイトの口臭から学食で何を食べたかを言い当ててしまったりするので友達はほとんどおらず恋人ができたこともない女の子。
そんな彼女に最初はなかなかついて行けず「だ、大丈夫かこいつ......」と思っちゃうんですが、人に合わせられない彼女が、それでも無理やり干渉されたりして他人と関わっていくことで人との繋がりの尊さを知っていく姿にだんだんと彼女のことが好きになっていってしまい、そうなってくるともう夢中で読み進めてしまいました。

んで、そんな海松子の一人称で書かれているので周りの人は一瞬フツーっぽく見えちゃうけど実はみんな大概変人揃いで、こいつらも最初はなんやねんって思っちゃうんだけど、やはり読んでいくうちにどんどん愛着が湧いてきます。
特に「まね師」こと親友の萌音ちゃんのキャラが最高。彼女のことを最初はちょっと気持ち悪く思うんですが、それがだんだん「もう、しょうがないなぁ......」みたいになってきて、嫌われていることを自覚しながらも強く生きている彼女を応援したくなってる自分がいるのに気付かされます。人の真似をして図太く生きる彼女がたまに本音のようなものを吐露するところにやられてしまう。
まぁ、そんな海松子や萌音の魅力に対して、男性キャラたちにはあんまり良さを感じなかったのはありますが......。しかし海松子の父親の生き様(?)はとても印象的だった。

そんで、本作の面白いのは、主人公の海松子自身はあまりにも強固な個性を持っているがゆえに物語の初めと終わりで別にそんなに変化とか成長したりはしなくて、でも周りの人たちとの関係はどんどん変わっていくからそれが彼女にとっての成長みたいになっているところ。
特に海松子と萌音のなんかお互いにズレてるところを受け入れながらベタベタしすぎずに親友になっていくとこがエモい。
終盤で、タイトルにある「オーラの発表会」へと至る流れとかはけっこうめちゃくちゃで笑うんですけど、そこからなんだかんだ良い話になるのがすごかったです。
特に大きなオチとかもないので、この後も彼女らの人生が淡々と続いていく感じのふわっとした余韻が残って、物語の世界から離れがたく続きが読みたくなってしまう、そんな素敵なお話でした!