偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

泡坂妻夫『迷蝶の島』感想

昨年、創元推理文庫から泡坂作品の復刊が続いて、それを読んで改めて泡坂ワールドの魅力を思い出していたこともあり、他の作品も年に数冊くらいのペースで再読したいなという気持ちになっている今日この頃。とりあえず内容をすっかり忘れていて、短くて読みやすそうな本作を再読しました。


太平洋に漂うヨットの上から落とされた女、絶海の孤島に吊るされた男。一体、誰が誰を殺したのか……そもそもこれは夢か、現実か?
手記、関係者などの証言によって千変万化する事件の驚くべき真相とは?


というわけで本作ですが、1980年に刊行された泡坂妻夫の初期の長編です。
3部構成になっていて、第1部では大学生の男が勘違いから三角関係に陥ってしまい、そこから血みどろの殺し合いにまで発展していく様が彼の手記の形で描かれていきます。
そして、続く第2部、第3部では視点を変えながら描くことで同じ事件の構図がぐらぐらと揺らいでいく様が楽しめる幻想味のあるサスペンスとなっています。
とりあえず、第1部の達夫の手記はそれだけでダメな男の恋愛小説として楽しめて、なんでこんな奴が2人の美女から好意を寄せられるんだよ......ってのはありつつも清楚で若いモモコさんと、気が強く大人の色気のあるトキコさんの間で(読んでる私が)揺れる男心を感じてつらくなってしまいました。2人とも素敵なんですもん......。というか、これはもう「勘違いなんだ本当はモモコさんが好きなんだ」とか言ってないでトキコさんで満足しておけばええんちゃいますの!?という気持ちにすらなってしまう......。
この辺、直接的なエロ描写は少ないものの、ドロドロした性愛が描かれるあたりは後の色っぽい作品群への流れも感じます。

そして、第1部の後半ではどんどん状況が過酷かつ不可解になっていき、全く訳がわからないまま終わる訳ですが、その不可解さが強烈なヒキとなって、そこに妥当な解釈が試みられる第2部、全てが明らかになる第3部へとグイグイ読み進めさせられてしまいます。

真相に関しては、あまりにもシンプルなトリックでこの不可思議な現象が生まれているあたりが奇術のようでまさに泡坂妻夫の面目躍如。さすがに再読で読み進めるうちに真相を思い出していたので驚かなかったけど、初読時は興奮した覚えがあるなぁと懐かしくなりました。たしか駅のホームで電車待ってる時に読み終えたんだよなぁ......と、読んだ時の光景とかまでなんとなく蘇ってくるのも再読の醍醐味。

さて、次は何を再読しようかしら。『ゆきなだれ』とかも気になるし、『斜光』もほとんど覚えてないし、ベタに『乱れからくり』とかも読みたいし......まぁまた3ヶ月後くらいになんか読みます。