偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

おいしくるメロンパン『phenomenon』感想


承前。

2枚目のこちらはフェノメノン=現象、事象というタイトル。
eyesが見ることを歌うアルバムからこちらは見られるものを描いているとも言えそうで、どこかeyesに比べると俯瞰的な印象の歌詞の曲が多い気がします。
また、eyesが春夏だったのに対し、こちらはどっちかというとおいしくるには珍しい秋冬の曲が集まっていて、私の大好きなミニアルバム『hameln』も冬のイメージの強いアルバムだったので嬉しいです。


1.フランネル

こっちは2枚目でいわばB面ではありつつ、この曲はなんでシングルにしなかったのか不思議なくらい、どストレートにポップでキャッチーな曲。
ちょっとのどかな感じのイントロから、1サビでカッコよさ炸裂して2番からはアップテンポなロックチューンになっていくのが最高。

冒頭の雰囲気とかがちょっと「斜陽」っていう昔の曲に似てるなぁ......と思っていたら、歌詞にも斜陽、夕景、言葉=飴玉(キャンディ) 、台本など共通するワードも多く、続編みたいになってるんだなと気付いてぞわぞわした。
ちなみにフランネルってのがなんなのか不勉強で知らなかったんですが布地のことらしく(ネルシャツとかの)、その点では「ベルベット」に続く布シリーズなのかも?

「斜陽」では「言葉なんてものは落としたキャンディさ」と歌われていましたが、この曲でも「飴玉」がモチーフとなって、溶かしたりまた落としたり噛み砕いたりと試行錯誤葛藤しています。
しかし冒頭では

斜め色の夕景に
やがて僕も染まりはじめてる

と夕景に染められていた僕が、曲の終わりでは

僕ら台本を焚べた
今夕日が燃える

と夕日を燃やす側になってるのが良いっすね。
選んでも選んでも渡すもんがないし、叫んでも叫んでも届きはしないかもしれんけど、それでも台本は焚べて自分の言葉を探し続ける感じが「斜陽」からの前進も感じさせて好きです。


2.沈丁花

2分ちょいの短く鋭いロックチューン。
ジャギジャギしたギターの音と、カ行、サ行あたりの音が多い歌詞の響きの鋭さがマッチしててシンプルにカッコ良さ全振りみたいな曲。なんだかんだこういう曲が好きですわ。
間奏のギターの残響を感じる音色も最高だし、こんだけ短いからラスサビ転調してもクドく感じないのも良い。

雨降り意を決しとかく
こんな日に限って不覚
術なく待ちぼうけ
師走に咲く沈丁花

歌詞はまた抽象的ではっきりとした解釈は難しいですが、孤独を冬の寒さに見立てて、寒さに染められていく様を描いた寂寥感のある歌で、クールなサウンドにも合ってます。

やがては世界の温度も
冬の配下に成り下がってしまう
氷点下
硝子になった五臓六腑の
シュプレヒコール

この辺のやたらと寒そうな感じがカッコいい。


3.式日

歌終わりの前の曲から続いて歌始まりのこの曲ですが、こちらはゆったりしたテンポで少しの異国情緒と少しの不穏さのあるファンタジーっぽい曲で、落差に驚かされます。壮大な印象なので5分くらいの曲かと思ってたら普通に3分ちょっとでびびった。ずっしりした音で異世界を作り上げていくようなリズム隊が良い。
「0kHzゼロキロヘルツ」「12:40トゥウェルブフォーティー」という響きもどこか魔法の呪文のように感じられますね。

城壁の向こうから 風船が空を覆う 君はまだ眠る
城壁の向こうから 知らない歌が聞こえる
ブランケット被っている 微睡む君の枕元へ

式日なのに君はまだ眠っているという不思議な状況がなんか良い。
次の曲が「砂の王女」というタイトルで、曲自体も繋がっていることから、この曲の「式日」というのは砂の王女の戴冠式で、いわば次の曲のイントロダクションみたいな感じなのかな、とも思ったり。

4.砂の王女

先述の通り前の曲と繋がる形でいきなり激しいイントロから始まるので、てっきりまだ前の曲の途中で、いきなりプログレ化したのかと思わされます。この繋ぎ最高すぎでは!?
このイントロのスラップ気味のベースとこの2枚組の中でも1番アグレッシブで厚みを感じるギターの音でもうイキそうになってまう。そんな最高のイントロが50秒くらいじっくり堪能できるので嬉しすぎる。
あとアウトロの1番最後のギターの音が好き。

歌詞もダークファンタジー的な雰囲気があって前の曲と通じる部分があります。サビ前のとこがまるっと英語詞なのが珍しい......というか3単語くらいの英語詞はあってもここまでまとまった文章なのは初ですよねたぶん。
やっぱり日本語ロック大好きっ子としては最初は「英語やん!」と若干引いてしまったものの曲調に合ってるしやたらと発音も良くて悔しいけどカッコいいよ。

枷を外してさあ
抜け殻の街を背に行こう
君が何も知らなくても僕が全て覚えてるから

城壁に囚われた「君」との逃避行みたいなのがエモいんですが、「君が何も知らなくても〜」というくだりにはそこはかとない不気味さもあって好き。

空を穿つほどの
悠久の隔たりも
それを奪えはしない
内なる海を

城壁で囲っても枷で縛り付けてもベッドルームに閉じ込めても、内なる海は奪えはしないというファンタジー風の世界観の曲だからこその力強くストレートなメッセージが印象的です。


5.眠れる海のセレナーデ

そして、「海」というモチーフを引き継ぐように続く、アルバムラストらしいゆったりしたテンポながら強烈な寂しさと仄かな暖かさを纏った曲。
ギャンギャンな前曲からまた一転してギターはアコギでしっとりと、その分ドラムとベースが重厚感を持って牽引していくようなサウンドがカッコいい。
特にサビ前の演出が好きで、1番2番ではスティックのカウントでサビに入るので「サビがはじまるぞ」って感じで神経を集中させられサビの美メロがより沁みます。
そして、Cメロではサビと同じメロディをしっとり歌うんですがその直前は一瞬の無音があって、続くラスサビ前ではミスチルかと思うようながっつりしたフィルが入ってくるところの盛り上げ方も最高。
そしてラスサビはちょっと転調してる???転調とか分からんけどまぁ少し明るくなった感じがして、冬の曇り空の下の荒々しい海の上に少しだけ雲間から陽の光が差したような暖かみを感じさせて素敵です。ドラマチックな曲だけど終わり方はわりとあっさりしてて4分くらいの潔い尺なのも好き。

ただ冬の海に還りたくなるの

前の曲と直接的なはっきりした繋がりはありませんが、この曲は女性一人称で謳われるため、内なる海を守り続けた「砂の王女」があれから50年くらい経って本当の海に還る時が来た......みたいなイメージで聴いています。

きっと前の世界でまだ私を呼ぶ声が鳴り止むことを忘れたままでいる

このへんも前の曲の「君が何も知らなくても〜」のくだりとかとちょっと呼応する感じもあります。

明けることのない夜は柔らかな痛みの中

最後の過去のフレーズは、死後の世界のような、産まれる前のことのような、輪廻を感じさせる終わり方でめっちゃ良いし、ここから輪廻転生するように1枚目の1曲目の「五つ目の季節」に戻ると五つ目というのはこうして春夏秋冬の歌を聴いてきてまたリピート再生することなんだな!と合点がいきます。



という感じで、ざっくり適当に書くつもりがだいぶ長くなってしまいましたがそれだけおいしくるメロンパンが好きだということかもしれない(まぁ長いだけで内容は適当なんですが......)。
気が向いたら他のミニアルバムの感想も書きますね!ほなまた。