偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

今月のふぇいばりっと映画〜2021/3-7


今月の作品はこちら。
ノーカントリー(2007)
・CURE(1997)
ヒッチャー(1986)




ノーカントリー(2007)



麻薬がらみの大金を拾ったベトナム帰還兵のモス、彼を追う殺し屋のシガー、事件を調べる保安官のベルの3人を描いたスリラー。


ファーゴ以来だしファーゴもあんま覚えてない公園兄弟。とても面白くてびびったしファーゴも見直してみようかなと思いました。


さて本作、話の筋だけを見れば、追う者と追われる者、というめちゃくちゃシンプルな話で。
なんだけど、観終わった後の印象は難解と言ってもいいもので。
だけど、観ていてとにかく面白い。
そんな不思議な映画でした。

とりあえず、映像や演出がいちいち良い!
ガソリンスタンドの店主との会話みたいな本筋とは関係のないシーンがいちいち面白いし、モスの妻の母とか、帽子のおじさんとか、脇役がいちいちキャラ立ってるし、緩急の付け方、緩だと思わせて急になったりとかも上手い。
単純に全部のシーンが理由は分かんないけど好き、っていう、ある種映画らしい映画だと思います。

そんでなんてったって、殺し屋のハビエル・バルデムことアントン・シガーというキャラクターがあまりにも強烈。
恐ろしくキモい髪型で、無表情でのそのそ動いて容赦なく人を殺していく。通常の倫理観や論理性とは異なる独自のルールに従って動く冷酷な殺し屋。
......なんだけど、髪型のダサさのせいでなんか出てくるたびに笑ってしまって、すごく惹きつけられてしまうキャラでもあります。
もちろん現実にいたら酷いなぁと思うけど、映画の悪役ってのはこんくらいのインパクトがなきゃね!地味に個性的なあの武器も最高。すこん、って。

一方、彼に追われるならず者のモスもかなり魅力的なキャラなんだけど、あのインパクトには敵わないし、トミー・リー・ジョーンズの保安官ときたら語り手ってだけのモブでしかない。
私はアメリカ人じゃないしタイトルの意味はよく分かんないんだけど、こういう古き良き西部劇的なキャラクターたちがサイコキラーのシガーに蹂躙される様がノーカントリーってことなのかな、と。

しかし死神のように描かれるシガーもその実、結構怪我したりしてるあたり、死神も含めて神の不在という感じですかね。
フラグだけ立てて唐突に終わる結末も最初は肩透かしを喰らったものの見返してみるとじわじわ来ます。
なんというか、終わり方に途方に暮れてしまうこと自体が、彼の心情の擬似体験のようになってる気がします。

ともあれとても面白かったのでいずれは公園兄弟の他の作品も観てみたいと思います。


CURE(1997)


首元を×印に切り裂かれる殺人事件が連続するが、いずれも犯人はすぐに検挙され、犯人同士の面識もない。
事件を調べる刑事の高部は、記憶喪失の間宮という男が催眠術を使って実行犯たちを操っていると考えるのだが......。


以前一回観たんですが再度。

相変わらず難解な感じはするものの、ドント・シンク、フィールのスタンスで楽しめる優れた娯楽作品でもあると思います。

嫌な雰囲気作りがとにかく上手いっすよね。
冒頭で主人公高部の妻が青髭を朗読する場面からもう、別に怖いことは起こらないのに凄く怖い。
その怖さの正体は妻についての描写が続くこどに分かってくるんだけど、それにしても生肉のとことか超怖い。
あと、クリーニング屋の場面がふっと出てくるんだけど、そこがめちゃくちゃ怖いんですよね。高部が預けたはずの服が見つからなくて、隣に変な人がいるんだけど、別に日常の一環ではある場面で、それなのに何故かめちゃくちゃ怖いと感じてしまう。

特に事件と関係ない場面ですらそんな怖さですから、事件の場面はもう怖いっすね。
「そういえば人参ってまだあったかしら」と冷蔵庫を覗くくらいの何気なさで人が殺されていくのが生々しくも白昼夢のような不思議さもあって印象的です。
そして事件を操る間宮という男が最初から最後まで意味わかんないしめちゃウザイんだけど(あんた誰?ここどこ?なに?しか言わない)、萩原聖人の怪演によって説得力と存在感のある名悪役として君臨しています。
彼のやり口が最初はよく分からないのが徐々に明らかになっていき、明らかになるんだけど余計に怖くなるあたりも良いっすね。

冒頭から現実的でありながらもどこか浮世離れした印象がありましたが、病院のシーンあたりからは白昼夢のような、あるいは悪夢のような世界へと移行していって眩暈がしそうになりますが、ラストは考えるよりも前に鳥肌が立っちゃうような切れ味の鋭さがあってしゅごい。
あれって結局ああいうことでいいんだよね?違うのかな......?


ヒッチャー(1986)



アメリカの映画によく出てくるあの長い道で、ヒッチハイカーのルトガーハウアーを乗せたらヤバい奴だったっちゅうサスペンススリラー。


あらすじからてっきりヒッチャーを横に乗せて90分ドライブする話かと思っていたら、横に乗せてる時間は数分とかで笑いました。
主人公が冒頭で殺されそうになりつつなんとか奴を車から追い出すことには成功するんですが、その後奴が家族連れの車に乗っているのを見て、その家族を助けようと追いかけることにするあたりは私の大好きな「ハイテンション」というホラー映画に通じるところもあってめちゃ良かったです。

それ以降シンプルな追いかけっこを保ちつつも予想のつかない展開を繰り返して全然飽きさせないのが凄いです。
一応詳しくは伏せるけど、コレ系のお話ってイライラしつつもめちゃ好きなので、どうしようもないもどかしさを楽しみました。

そしてヒロインが本筋に絡んできてからはボーイとガールの逃避行というロマンチックな風合いも出て来て一層好みドンピシャに。
ヒロイン役のジェニファー・ジェイソン・リーさんは「リッジモント・ハイ」や「グレート・ウォリアーズ」でも可愛かったですが本作でもやっぱ可愛い。
キャラも含めて中学の同級生にいたら好きになってたタイプだと思います。

しかしそんな彼女も本作では噛ませ犬に過ぎず、終盤で主人公とヒッチャーがどんどん2人だけの世界に没入していくのにドキドキしました。
憎むべき悪役のはずなのに、気が付けばラストシーンでは戦友のような感じすら醸し出してくるルトガー・ハウアーの底知れない存在感がさすが......。
関係ないけどブレード・ランナーとか見返したくなりましたもん。