偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

今月のふぇいばりっと映画〜2021/10

今月の作品はこちら。
スクール・オブ・ロック(2003)
バニラ・スカイ(2001)
・クルーレス(1995)
・ライムライト(1952)
・血を吸うカメラ(1960)



スクール・オブ・ロック(2003)


ロックバンドをクビになった主人公が身分を偽り臨時教師として小学校に潜り込み、生徒たちにバンドを組ませてバンド・コンテスト出場を目指すお話!


サイコーっすねこれ!
こういう、ダメ人間なんだけど一つだけ本気で打ち込めることがある主人公が出てくる映画ってのが大好きだし、眩しいんですよね。私なんか映画と小説と音楽を浅〜く消費してこうして内容のない感想を書くだけ書いて後は忘れて自分で創作なんてしたことすらなくて......って感じなので、がっつり何かに情熱を燃やせる真のオタクを見ると自分が偽物でしかないと突きつけられてつらくも痛快でエモエモになってしまうのでちゅ。
それも、彼の場合ロックのオタクですからね。私はロックの精神性とは対極のところにいて、だからこそロックに憧れつつ結局陰気だからレディヘとかしか聴けない人間なので、AC/DCだのメタリカだのブラックサバスだのテッペリンだのって聴いたことないんですけどカッコよくて憧れてるのでめちゃくちゃ良かったです......。

そういうロックというものをめぐる成長物語なんですけど、その成長ってのが、主人公と子供たち相互に働いてるのがもうエモいんすわ。
主人公の人から虐げられてきたからこそ、めちゃくちゃなことしてるわりに弱い立場の子供の気持ちも分かってあげられるところ凄えカッコいいし、そんな彼が子供たちのおかげで夢を取り戻すのもエモいし、バンド組む話だから当然クライマックスはライブのシーンなんですけど、そこでそれぞれの成長がしっかり描かれつつシンプルにくそカッコいいライブになっててとても良かったですエモエモ太郎さんです。

あと脇を固めるキャラクターたちも魅力的。
校長先生のお堅そうで意外と柔らかい感じとか、主人公の親友のナヨナヨした感じとか(てかこの人が脚本書いてるんすね)、全員味があるんですよね。個性的な脇役ってのはコメディに大事ですけど、こういう印象は濃いけど鬱陶しくなくて愛着を持てるキャラってのは意外と難しいんじゃないかと思います。脇役の魅力も良いコメディの証かも。

そしてエンドロールに至るまでチョコたっぷりなのも良いですね。あまりにも痛快で爽快で終わってしまうのが寂しくなりながら笑ってしまう、素晴らしいエンディングでした。好きすぎる。


バニラ・スカイ(2001)



観たことあるけど忘却の彼方へと旅立ってしまった『オープン・ユア・アイズ』のリメイクだそうです。観終わってから知りましたが言われてみればこんな話だったかも!

親の遺産と会社を相続して顔は全盛期のトム・クルーズという絶対的勝者の主人公がペネロペ・クルスに惚れちゃったことでセフレのキャメロン・ディアスをブチ切れさせてとんでもないことになっちゃうお話です!

セフレがキャメロン!彼女がペネロペ!もはや天上界の出来事であり羨ましいとか妬ましいとかいう気持ちにもなりませんが、しかし共感できないことだけは確か。
主人公にどちらかと言えば反感を抱きながら観ていくわけですが、しかしとんでもないことになって以降はさすがに可哀想だし、かと思えばペネロペちゃんとのロマコメみたいな甘酸っぱ青春ラブストーリーを観せられたりしてぐぬぬと思っているうちにだんだん妙な展開になっていって......と、ロマンチックなラブストーリーとシリアスで憂いの強いサスペンスとの融合が独特の雰囲気を持っていて引き込まれてしまいます。
そしてラストは案外エモくて、感情になってしまい観終わった後何も手につきませんでした。

あと、音楽が良かったです。
オープニングが大好きなレディヘのエビシンで、他の曲はほぼ知らなかったけど好きな感じの曲ばっかでめちゃくちゃShazamしちゃいました。


クルーレス(1995)

クルーレス (字幕版)

クルーレス (字幕版)

  • ドナルド・ファイソン
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オシャレ番長の高校生の女の子が他人の恋路を勝手に手伝ったり他人の服装を勝手にオシャレに改造したりしてイケイケな日々を過ごすけど実は恋には奥手なのっ!みたいなお話!

冒頭からデヴィッド・ボウイのFashionでテンション上がりまして、他に知ってる曲はレディヘとシンディーくらいしかなかったけどポップソングやオルタナロック満載のサントラが常に流れててめちゃくちゃ良かった。
でもあのコンピューターでファッションシミュレートすんの今見るとクソだせえっすよね。それもまた味!

主人公は自分勝手なところがあるけど根はピュアな良い子で、彼女が友達や家族との関係を通して成長していくっていうベタないい話なんだけど、90sのJKの一人称によるノリがサクッと軽いので良い話感があんまないのがとても好きです。
後半から主人公自身の恋が描かれるあたりの、そこまでベタなことってある???って思うくらいベタな展開にニヤニヤが止まらず、終盤では1人でポテチ食いながら「オホホ イヒヒ アハハ」とキモく笑ってるヤバいおじさんに成り下がりました。
また主人公が他人のいいところを見られる子なので、彼女の目を通して描かれる脇役たちもとても魅力的で、全員に愛着が湧いてしまいます。

全体として可愛くて楽しいだけみたいな映画なんですけど、それだけで最高でした。


ライムライト(1952)



チャップリン後年の作品。

落ち目の元喜劇スターが、自殺しようとしたバレリーナを助け、そこから2人で暮らし始めるお話!

これまでいくつか観てきたチャップリン作品はどれも喜劇の中に風刺やラブコメを織り込んだものでしたが、本作は喜劇役者の物語ではあれど喜劇ではなく、コメディとして笑えるシーンは皆無。
むしろ、主人公が喜劇役者として見向きもされなくなってしまったのを表すため、ギャグがとことん滑ってるのがいたたまれなく残酷です。
なんせ60歳を超えて、実際にアメリカで干されてからの作品ですから、主人公のキャラ設定にも語られる人生観にも強い説得力があり、めちゃ泣けました。
人生は悲劇って観点もある上で、それでも希望を見出して生きていこうって感じなので、感動的だけどお涙頂戴な感じはあんまりないというか。
ストーリーの展開の仕方もめちゃ上手いっすもんね。ヒロインがチャップリンに惹かれるのにも一定の説得力があるし、2人の関係性の変化とか、イケメンの絡ませ方とかも絶妙。全ての場面にエモみがありました。
終わり方も好きです。終盤にキートンとの共演があるのもまた泣けますよね。


血を吸うカメラ(1960)



『赤い靴』『黒水仙』のマイケル・パウエル監督によるサイコスリラー。

ヒッチコックの『サイコ』と同時期に作られたものの『サイコ』が大ヒットしたのに対して本作は反道徳的な描写が批判されて正当な評価を受けられず監督も干されたっていう曰く付きの映画みたいです。

主人公のマークは映画のカメラマンで副業でえっちな写真を撮ったりもしてるんだけど、実は女性を殺しながらその場面を撮影する殺人鬼でもあります。
でも、なんか主人公が殺人鬼っぽくないんですよね。いや、好青年だからとかそういうのもあるんだけど、もう少しメタ的に、作中現実としては殺人鬼なんだけど、殺しはあくまでも何かのメタファーであって別に殺人鬼についての物語ではないというか。
トラウマを抱えて上手く生きられない青年が救いの女神であるヒロインのヘレンに出会って心を揺さぶられる......という青春ラブストーリーなんすよね。
綺麗なお姉さんがたくさん出てくる中でヘレンだけが全然美人じゃないのも良いです。彼女がなぜ主人公に惹かれるのかってとこにちょっとさすがに引っかかってはしまうけど、全体が暗喩で出来ていそうな寓話っぽさを踏まえればそんなに気にすることでもないのかな、と。
その上であのラストは凄く印象的ですよね。これは確かに当時としては危険な映画だったんでしょう。黙殺されてしまうほど。
また、今見るとカメラ越しにしか他人と関われない主人公の姿に、こうやってFilmarksに感想書いて悦に入ってるSNS中毒者の私自身を見る想いもして、今だからこそ共感できる部分も大きい映画だと思います。

あとは映像が流石に綺麗でした。
直接的に血が出る場面はほとんどないんですけど、その分調度品やファッションなどにビビットな赤が使われていることで鮮血をイメージさせたり、殺人者の手元のPOV的映像だったりはアルジェント先生なんかを想起してしまったりも。
他にもカメラの視点、映画のセット、スクリーンに映る映像なんかを現実と組み合わせることで画面のあちらとこちらの境を融解させるような演出がバリクソかっこよかったです。