偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

ジョーカー

ついに観ました。

ジョーカー(字幕版)

ジョーカー(字幕版)

  • 発売日: 2019/12/06
  • メディア: Prime Video


アメコミ映画に興味なくてジョーカーのこともほとんど知らないんですが(ノーランのやつは見たけど)、全然知らなくても普通に楽しめました。
というのも、本作はあくまで"ジョーカーの誕生秘話"であり、本編にはジョーカーもバットマンもほぼ出てこないんすよね。

参照元のひとつ『キングオブコメディ』はまだ観てないですが、もうひとつの『タクシードライバー』っぽさは感じました。
バトルシーンもないので、アメコミっつうよりニューシネマな味わいなんですよね。

善良だけど孤独で貧しく虐げられている男が、友人に銃をもらったことをきっかけに稀代の悪役"ジョーカー"へと変貌していく......という。うん、タクシー運転手のトラさんを彷彿せずにはおられません。

巧いと思ったのが、後にジョーカーとなる主人公のアーサーが、そんなにめちゃくちゃ酷い境遇にはいないところですね。
もちろん私なんかとは比べるべくもないほどつらい目に遭っていらっしゃいますが、それでもどこか自分と重ねられるくらいのところにいる。でも、ジョーカーになっちゃうのも納得するくらいにはつらいっていう。
そもそも映画なんか見てるようなやつは友達もロクにいないキモいオタクに決まってるので、そんな映画ファンの大多数の共感を得られるちょうど良い塩梅だと思うんですよね。
私自身も思う壺だなとは思いながら、中学の頃一瞬だけいじめられて不登校したことを思い出して、あの時私も「笑うな」って言われたなぁ、あいつぶっ殺したいなぁとむくむくと思い出し怒りが湧いてきたりもして......。

なんで、アーサーが初めて人を殺すシーンはもうすっきり爽快痛快でいけいけやれやれとめっちゃ応援しちゃいました。
終盤の印象的な射殺シーンもまじ最高で、あいつらを殺せなかったあの頃の私に代わってアーサーがやってくれたようなカタルシスがあります。
彼が光を浴びて階段を踊りながら降りる場面の解放された多幸感たるや!(ちなみにこのシーンはゲスの極み乙女のマルカという曲のPVでオマージュされてます。観てね)


また、もう一つ巧いのが、全編に渡ってアーサー視点が貫かれていること。
ちゃんと確認したわけではないですが、たぶん彼が出てこない場面ってないですよね。
こんだけアーサーに寄り添って日常から非日常まで全部観せられては、感情移入しない方が難しいです。
もちろん、ジョアキン・フェニックスの演技もめちゃくちゃ良いですしね。すごいつらそうに発作で笑ってしまうとこなんか、観てて泣きそうになります。


そんで、映画を観る私と同じようにジョーカー誕生に熱狂する民衆に埋め尽くされた地獄の街ゴッサムの光景から一転してのラストシーンが非常に恐ろしいのですが......以下ネタバレ。






























いやぁ、こんだけ感情移入させといて、突き放すようなリドルなエンドですもんね。
結局何なの?どうたったの?的な。
そういえば、ダークナイトのジョーカーもジョーカーになったきっかけについては嘘っぽいことばっか言ってましたからねぇ。
近くの部屋の女の人と付き合ってたのが妄想だったっていう信頼出来ない語り手的なくだりを見ても、本作の内容自体が全部妄想説あり得ますしね......。

ともあれ、これまで熱狂していたのが、ここで一旦自分の熱狂を客観視させられて、その危うさにゾッとするっていう......。
でもこのラストシーンがなければ確実に人殺してましたからね。恐ろしや。

ちなみにラストがジョーカーの誕生であると同時にバットマンの誕生のきっかけでもあるのがエモい。