偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

今月のふぇいばりっと映画〜(2020.5)

さて、今月はヴァーホーベン監督にややハマりまして、いくつか観ましたね。
他、SF色の強いセレクトになりました。普段あんまりSF映画観ないけど観れば観たでおもろいですね。






スターマン
未来世紀ブラジル
インビジブル
ブラック・ブック




スターマン

スターマン [DVD]

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  • 発売日: 2015/07/24
  • メディア: DVD


夫を亡くし悲嘆に暮れる主人公の前に、夫の姿を複写した異星人が現れる。2人は警察の追手を逃れながらスターマンの迎えが来る場所を目指す......。


ジョン・カーペンター監督による心温まる異星文化交流ラブストーリーです。

SF設定の逃避行ラブストーリーってとこで同監督の『透明人間』にも近いものを感じますが、あちらは諜報サスペンス風味だったのに対し、本作はロードムービー風味。
本作の主人公とスターマンの方が、透明人間とその彼女よりも良い人だったので、私は本作の方が好きですね。

冒頭で地球に落ちてきたスターマンが主人公の夫に変身するシーンはややキモかったものの、他にはグロ描写も一切なく、カーペンターっつうよりE.T.みたいなピュアな優しさに覆われていて癒されます。
スターマンは宇宙人なんだけど侵略とかしないの。で、主人公に色々教わって最初はカクカクして変なこと言ってたのがだんだん人間らしくなっていく過程が可愛い。
地球に来たばっかで英語が喋れない彼をいじめるのはむしろ人間たちの方で、でもいじめられても殴り返すだけのスターマンがイケメン。普通に人間なんか捻り殺せるはずなのに......優しい!
鹿のシーンはめちゃくちゃ綺麗だったなぁ。

綺麗といえばもちろんラストも綺麗だった。そんなに金かかってはいないだろうけど、映像センスが抜群すぎて安っぽさやダサさを感じない、ただただカッコよく幻想的な映像でした。
エモいんだけど、エモさが押し付けがましくないというか、ちょっと引いたワビサビもあるエモさ。
この監督のこういう渋さ好きよ。




未来世紀ブラジル

情報化管理社会となったいつかの未来のどこかの国。書類の間違いから無辜の市民が誤認逮捕され拷問で殺される。情報局に勤める真面目で普通の青年サムは、この出来事をきっかけに社会のシステムに違和感を感じはじめ......。


今見ると、なのか、当時からしてそうだったのか、近未来の映像が妙にレトロフューチャーな感じでステキなディストピアSF。
SFとは言っても、出てくる装置とかが未来っぽいだけで、お話は過去や現在にこの現実社会で起こっていることを描いた、重厚な社会派映画です。

「ブラジル」というタイトルは、別にブラジルの話なわけではなく、テーマ曲のタイトル。
閉塞した世界から逃れてこの曲のような陽気さがほしい、みたいな逆説的なタイトルなわけで、要は「ブラジルの逆」みたいな内容。ところどころセンスオブワンダーやシュールなギャグがあるものの、全体にはかなりヘビーです。

描かれるのは管理社会や恐怖政治の恐ろしさ。
システムに疑問を持てばそこで世界からドロップアウト。もちろん、"システムに間違いはない"のが世界のルールなので、どんな横暴が行われようとも疑問を持つ方が間違いということになります。
そんな恐るべき世界で、よせばいいのにシステムの間違いに気付いてしまったのが主人公のサム。
空想の世界では空を飛んで天女と口付けを、でも実際は腐りかけたクソババア(母親)と母子癒着状態で親の七光でなんとか仕事ではそこそこの地位を持つ冴えない男。
そんな彼が徐々に国に違和感を持って敷かれたレールを踏み外していく様に激しく共感(このくだらない世界からの逃避への憧れ混じりの)してしまったので、ヘンテコな世界観ながらもかなりリアルにヒリヒリしながら観れました。
それだけにパイプに紙詰めるシーンはサイコーだし、「翌朝......」みたいなシーンはヒェーッてなるし、最後の余韻がヤバかったっすね。

あと、お役所仕事する普通の人たちも別に悪人ではなく、仕事として拷問をやりながら家庭では良いパパだったりするところが残酷で、茫洋とした「システム」を恨む以外にやり場のない絶望感がまたリアルですね。
比べるのもおこがましいけど私もこんな世界から抜け出してブラジルでサンバしたい、、、と思いながらも無為に日々は過ぎきけり。はぁ。うんこだなぁ。




インビジブル

インビジブル (字幕版)

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  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video


独善的でナルシストの天才科学者セバスチャンは、人間を透明化するプロジェクトを進めていた。動物実験に成功した彼は、プロジェクトを国に返すことを厭い、自ら実験台となる。透明人間と化した彼の狂気はエスカレートしていき......。



「鏡に映らない人間は、モラルも消えるらしい」



ヴァーホーベンの作品をそんなに見たことないくせに「品性下劣の変態監督」というイメージがあるので「どうせ透明人間がエロいことしまくる話だろ!」と思っていたんですが、なんとその通りでした!!

なんせ、ケヴィン・ベーコン演じる研究者セバスチャンは、頭だけめちゃくちゃ良い男子中学生みたいな奴!
とりあえず女子トイレを覗いたり、寝てる女の子の服をめくっておっぱい見たりは当然します。
ただ、そのくらいのことはもちろん私だって透明人間になったらすると思うので責めることはできません。
問題は、元カノである本作の主人公、エリザベス・シュー演じるリンダへの狼藉の数々!
フラれたくせに、彼女はまだ俺に未練があると確信してるあたり、イケメンだからモテる割にコミュ障でまともな恋愛経験がなさそうな感じ全開で非常に醜い。透明になる前も、登場した時から嫌な感じなのでケヴィン・ベーコンの顔がもう憎たらしく思えてきます。玉子に合いそうな名前しくさってからに!


そんな感じで中盤まではトラウマ恋愛映画として楽しく見れまして、しかし終盤では一気にソリッドシチュエーションバトルスリラーになるのがテンアゲっすわ。

つーか、セバスちゃん、透明になったってだけのはずなのに、ジェイソンもかくやのタフネスを手に入れるのが面白く、果てはターミネーターみたいなド派手なバトルになって何の話だっけ?ってなりました。

前半と後半で味変が楽しめる傑作ですね。


あ、もちろん透明人間の描写も良かったです。見えないゴリラと戦うとことかサイコーやし、人体模型みたいになるキモさもさすが。




ブラック・ブック

スマイルBEST ブラックブック [DVD]

スマイルBEST ブラックブック [DVD]

  • 発売日: 2008/07/25
  • メディア: DVD


1944年、ナチス支配下のオランダ。
歌手でユダヤ人のラヘルは、逃亡の最中に家族を殺される。レジスタンスに救われた彼女はエリスと名を変え、美貌と歌を武器にナチスのムンツェ大尉にスパイとして取り入るが......。


これも、ばーほーべん監督。
なんか売れないエグい映画ばっかり作るからってハリウッドを追放され、故郷のオランダに帰って細々と作った作品らしいです(雑)。
といっても、オランダ映画としては最高レベルの制作費をかけたらしく、壮大なスケールで描く圧巻の戦争映画に仕上がってます。

とはいえ、戦争云々というよりは、監督らしいセックスとバイオレンス、人間の醜さや世界の不条理さ、なんてものが前面に押し出されていてつらいけどもぐいぐい見入ってしまう作品でした。


もう、とにかく主人公の受難がやべえ。受難受難また受難!も一つオマケに追い討ち受難!
とにかく常に嫌なことが起こり続ける中をスーパーマリオの横スクロールみたいに一直線に駆け抜けていく主人公の姿が絶望的ながらもカッコよくて、嫌なんだけど引き込まれます。
悲しみに暮れる暇さえない中で、一瞬にネガティブな感情を(ゲロと一緒に)吐き出して次の瞬間には気丈に構えるのがすごい。
それでも耐えて耐えてきたものがダムが決壊するように噴出する終盤のあのシーンには震えました。あの台詞が突き刺さりました。
それでも手を緩めない監督のドSっぷりが好きです......。つらいわ......。


本作で特徴的なのは、ナチス=悪とかレジスタンス=正義みたいな単純さがなくて、どっちにもいい人も悪い人もいるし、良いことも悪いこともする人だっているし、とりあえず人間が集まるとロクなことはないっていう。
戦時中はナチスが酷えことしまくるんだけど、いざ戦争が終わってからは祝福ムードの裏で裏切り者を火炙りにする魔女狩りが始まる......っつう、「その後」の絶望まで描いた映画ってのも意外と観たことなかった気がします。ここまでくると、人間存在自体への絶望さえ感じますね。

また、セックスの描き方も皮肉めいていて。あそこの毛に関する場面一つで、セックスなんざ特別な意味はなくて欲の対象でしかない金とかみたいなもんっていう感じを滲み出させてるのが性格悪いっすよね。
しかしそれはそれとして主人公を演じた女優さんがめちゃくちゃ綺麗だしエロかった。おっぱいが綺麗すぎてびっくりです。

そうした色んなエグさが詰まった監督の集大成(とか言えるほど観てないけど)的な大作なのかなぁと思います。
あと、宗教ヤクザのテオ君がいい味出してたわ。
あと、💩👩💩はまじ💩。デパルマのキャリーなんか可愛いもんに思えるね。