偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

今月のふぇいばりっと映画〜2020/7〜8

年末で忙しくそうそう本を読んだりも出来ないので、サボってた間のふぇいばりっと映画のコーナーを補填して年明けまでの記事数を稼ぐことにします!
2020年7月から先月までの分があるのでしばらく保つぞ!


今回の作品はこちら。

・鬼婆(1964)
・9人の翻訳家(2019)
・ポゼッション(1981)


鬼婆(1964)


アリアスターが好きって言ってたし観たけどめちゃくちゃよかった。

南北朝時代、戦に行ったきり帰らない男を待つ妻と母親。
かすがいとなる男が不在のまま、貧しさから盗みを生業に共生する嫁姑の奇妙な関係が、近所のエロいワイルドおじさんの帰還によって崩壊していく。
すすき野原や川のロケーションの良さと、ギラギラした登場人物たちの姿が印象的な映像美として脳裏に焼きつきました。
3人だけ、ご近所だけで進むソリッドシチュエーションなお話ながら、常に緊張感が絶えず、没入して観てしまうのが恐ろしい。
生きるということを生で観せられることのエモーションよ。
常になんか怖いんだけど、終盤はもうはっきり怖い。嫌だ嫌だと思いつつ、目はもう画面に釘付けのまま、鬼が現れる......。


9人の翻訳家(2019)

世界が待望するミステリ小説の翻訳のため、各国から9人の翻訳家がフランスの人里離れた洋館に集められた。
作品内容の機密保持のために通信機器は没収され、地下のシェルターでの翻訳作業が始まる。
しかしそんな状況下で、ネット上に冒頭の10ページが流出し......。


ミステリ界隈で話題騒然となったフレンチミステリ映画。劇場で観たかったけど近所でやってなかったのでこの度ようやく観ました。

いやぁ、面白かったですよ。

9人の翻訳家たちが地下シェルターに閉じ込められる......という由緒正しきクローズドサークルな発端からしてミステリファンとしてテンション上がらずにはいられません。
そこからゆるやかな日常が描かれて早くもちょっとダレてきたなぁというところで事件が起こって一気に空気が引き締まるあの感じ!あの緩急が堪んねえっすわ。
しかもその事件ってのが連続殺人ではなくて情報漏洩ですからね。ナウい
温故知新っつーか、新たなクローズドサークルの形ですわな。

そんでも繰り広げられるのは結局疑心暗鬼のサスペンス。
それも本作の場合は外に胸糞悪すぎるクソジジイがいますからね。こいつへの嫌悪感が主人公たちへの共感を手助けして、淡々としていながらも入れ込んで見れます。

一方で外枠として時折挿入される対話の場面が、良い意味で、のめり込んでるのを一旦引き離して冷静にさせてくれて、「犯人は誰か?」と予想する余裕を与えてくれます。

それでも、全く先が読めなかったのがすげえ。
中盤以降はもう展開の全てがどんでん返しみたいな感じで、もはや考えることは放棄して川で溺れるみたいに流されるまま翻弄される他ねえっす。
序盤のイメージに反して緻密な謎解きというよりは二転三転するスリラー的な面白さなんですが、映像ミステリならそういうののが気持ちいいっすよね。映像としてのカタルシスはこれですよ。

無機質なようでいて最後には創作というものにかける主人公たちの想いがドラマとなって胸に残り、なんともいえぬ余韻が味わえるのも素敵。

ミステリファンなのにこんなこと言うのもあれですが、緻密な構成とか水も漏らさぬロジックよりも、意外な展開や驚きのトリックとか分かりやすいのが好きなので、本作はめちゃ楽しめました。
うん、複雑そうな顔して意外と分かりやすく頭空っぽでも楽しめるエンタメ傑作でした。


ポゼッション(1981)


前から気になっていたもののなかなかレンタル屋に置いてなくて観れてなかったやつ、ようやく観ました。


夫が単身赴任から帰宅すると、妻の様子がおかしく、どうやら浮気しているらしい......という発端は『クレイマークレイマー』とかを連想させるドロドロ家族ドラマという感じ。

しかし、そっからの流れがやべえっすわ。

浮気する妻を演じるイザベル・アジャーニの狂気が全編を貫いているので、ジャンルミックスという感じはあんましないですが、しかし探偵モノからサイコスリラーからモンスターホラーまでいろんな要素を内包したごった煮の味わいは面白いですね。

そんなハチャメチャさで不条理なことが次々と起こるので難解といえば難解。ちゃんと理解できたとは言い難いです。
そんでもシンプルに筋の部分を見れば男女の愛憎モノであり、理想の相手と現実との相違や相互理解の不可能性なんていうけっこう共感できる話だったりもするので、まるっきり分からんことはなかったです。

そんでとにかく登場人物の、特にアンナの感情の発露の激しさが凄まじく、それだけで惹きつけられて目が離せない。エモいってのはこういうことですよね、きっと。
一方、狂気のアンナを演じながら一人二役で天使のような可憐さの先生をも演じるイザベル・アジャーニの両極端演技がやべえ。先生めちゃくちゃ可愛いんですよ。こんな可愛い人が、片や牛乳ぶちまけながらゲロ吐くのかとびっくりですよ。

他にも博愛空手野郎とかダメすぎる探偵コンビとかアレとか変な奴らがたくさん出てきて楽しかったですね、はい。

私もそろそろ結婚とか考えなきゃいかん歳だけど、映画観てるとほんと結婚したくなくなるよね。いや普通逆か。こんなんばっか観てるからやね。