偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

西澤保彦『黄金色の祈り』

昔読んだやつ。

黄金色の祈り 文春文庫

黄金色の祈り 文春文庫


主人公の経歴が西澤保彦本人と同じという自伝的私小説......なのか、あくまで全てフィクションであって自身をモデルにしているのもフェイクなのか......。いずれにせよ、等身大の若者の承認欲求や自意識やイタさが本当に痛々しく描かれた異色の青春小説です。

主人公の中学時代から作家になるまでが描かれていきます。中学時代の思春期特有のイタさは「中学生ってこんなんだよね~あるある~」なんつって笑いながら読めました。
しかし、そうやって油断していると段々笑えないことになっていくのがキツいですね。真っ当な人たちは中学生のイタさを教訓にしてきちんとした大人になっていくのでしょう。でも我々みたいなクズはそうじゃない。人格を治す機会を持てなかった人間はどんどん歪んでいきますね。話が進むにつれそんな主人公の歪みに激しく共感させられてしまいます。そしてその歪みゆえに直面することになる色んなつらい事態とそこから逃げることを繰り返す主人公に自分を見ているような吐き気を覚えます。特にキツかったのは後半に出てく るベッドシーンですかね。あんなに嫌いな濡れ場はなかなかないですよ。
嫌いと言えばラストも嫌いですね。それまでは、もはや自分のために書かれた小説なんじゃないかってくらいに書いてあること全て理解できたのに、最後の超展開だけ本当に意味が分からなかったです。うまいこと言ったつもりかも知れませんが、なんでラストに至って読者はあんな仕打ちを受けなければならないのでしょうか。胸糞悪いぜ!

というわけで、これはたぶん共感出来なければただの嫌な話だし、共感出来たらめちゃくちゃ嫌な話なのでどっちにしろ誰も読まない方がみんな幸せになれる類の小説です。西澤流『人間失格』に興味のある方のみどうぞといった感じ。
え、ミステリ部分?なんだっけ、あんまり覚えてないや。