偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

今月のふぇいばりっと映画〜2020/10-12

今回の作品はこちら。
・ジョーカー(2019)
ジーパーズ・クリーパーズ(2001)
・ヒューマン・キャッチャー/ジーパーズ・クリーパーズ2(2003)
・リターン・オブ・ジーパーズ・クリーパーズ(2017)
トゥインクル・トゥインクル・キラー・カーン(1980)




ジョーカー(2019)


ついに観ました。

アメコミ映画に興味なくてジョーカーのこともほとんど知らないんですが(ノーランのやつは見たけど)、全然知らなくても普通に楽しめました。
というのも、本作はあくまで"ジョーカーの誕生秘話"であり、本編にはジョーカーもバットマンもほぼ出てこないんすよね。

参照元のひとつ『キングオブコメディ』はまだ観てないですが、もうひとつの『タクシードライバー』っぽさは感じました。
バトルシーンもないので、アメコミっつうよりニューシネマな味わいなんですよね。

善良だけど孤独で貧しく虐げられている男が、友人に銃をもらったことをきっかけに稀代の悪役"ジョーカー"へと変貌していく......という。うん、タクシー運転手のトラさんを彷彿せずにはおられません。

巧いと思ったのが、後にジョーカーとなる主人公のアーサーが、そんなにめちゃくちゃ酷い境遇にはいないところですね。
もちろん私なんかとは比べるべくもないほどつらい目に遭っていらっしゃいますが、それでもどこか自分と重ねられるくらいのところにいる。でも、ジョーカーになっちゃうのも納得するくらいにはつらいっていう。
そもそも映画なんか見てるようなやつは友達もロクにいないキモいオタクに決まってるので、そんな映画ファンの大多数の共感を得られるちょうど良い塩梅だと思うんですよね。
私自身も思う壺だなとは思いながら、中学の頃一瞬だけいじめられて不登校したことを思い出して、あの時私も「笑うな」って言われたなぁ、あいつぶっ殺したいなぁとむくむくと思い出し怒りが湧いてきたりもして......。

なんで、アーサーが初めて人を殺すシーンはもうすっきり爽快痛快でいけいけやれやれとめっちゃ応援しちゃいました。
終盤の印象的な射殺シーンもまじ最高で、あいつらを殺せなかったあの頃の私に代わってアーサーがやってくれたようなカタルシスがあります。
彼が光を浴びて階段を踊りながら降りる場面の解放された多幸感たるや!(ちなみにこのシーンはゲスの極み乙女のマルカという曲のPVでオマージュされてます。観てね)


また、もう一つ巧いのが、全編に渡ってアーサー視点が貫かれていること。
ちゃんと確認したわけではないですが、たぶん彼が出てこない場面ってないですよね。
こんだけアーサーに寄り添って日常から非日常まで全部観せられては、感情移入しない方が難しいです。
もちろん、ジョアキン・フェニックスの演技もめちゃくちゃ良いですしね。すごいつらそうに発作で笑ってしまうとこなんか、観てて泣きそうになります。

そんで、映画を観る私と同じようにジョーカー誕生に熱狂する民衆に埋め尽くされた地獄の街ゴッサムの光景から一転してのラストシーンが非常に恐ろしい。


ジーパーズ・クリーパーズ(2001)


真っ直ぐで長い田舎道を走る若い姉弟
突如後ろから距離を詰めてくる不気味なトラック。2人は、23年前、この辺りで行方不明になった高校生カップルの噂を思い出し......。


色んなホラー映画の小道具だったりサブジャンルだったりオマージュだったりがてんこ盛りに詰め込まれた悪夢の宝石箱のような作品で、優れたAではなく、落ちこぼれのCにもなれない、正しく"B級"ホラーの傑作です。


冒頭の30分ほどでもう、『激突』オマージュのヤバヤバトラックカーチェイスに、穴に、カラスに、屍蝋大伽藍に、、、と、「怖い」という空気感だけは一貫しながら色んなもんを見せてくれて楽しい楽しい。

ざっくりと言うと、見えないものは怖い、でも怖いから見たい......という感じの面白さ。
トラックの運転手の顔が見えないのもそうだし、穴があって中が見えなかったりとか、ストーリーの流れ自体も色んな要素がぶち込まれて先が見えなかったりとか、そういうのが好奇心を引き立ててくれるんですよね。
だから、主人公たちが全然逃げずにいちいち首突っ込もうとするのもなんか許せちゃうというか......一緒に怖いものを観にいくっていう仲間意識みたいなものが芽生えるんですよね。

ほんで主人公たちがまた良いんですよ。
弟くんはもうずっとびびってる。元から情けない感じの味ある顔を常に引き攣らせてて、彼がビビりすぎてるせいでこっちはたょっと笑っちゃうくらい。
お姉ちゃんはもう最高。綺麗でちょっぴり色気があって、バカみたいな会話して、ホラー映画のアホなキャラを茶化しながら自分がそうなっちゃうアホな一面もありながら、ここぞというところではカッコよくて......僕はこんなお姉ちゃんが欲しかったですよ。うん、お姉ちゃんがほしいよ俺は!!!ちくしょう!!!

それはさておき。


前半は先の展開も敵の正体も見えない不気味なオカルトホラーな流れからの、後半では怪物の姿が見えてきて、サスペンスやアクションの風味が増してきます。
まぁ、この辺からは見えちゃうとどうしてもややダレてきちゃうんだけど、そんでも相変わらずヤバいババアやヤバいおばちゃんや役に立たない警官など盛りだくさんで楽しいです。
ラストシーンも印象的。あのビジュアルを見せてくれただけでも、AでもCでもないB級としての誇りを感じます。

そんなわけで、なぜか評判はイマイチながらもめちゃくちゃ楽しめた傑作です。
たまにこういうことがあるからFilmarksの点数も当てにしすぎない方がいいですね。

ヒューマン・キャッチャー/ジーパーズ・クリーパーズ2(2003)


邦題は前作をなかったことにして心機一転を図っているようですが、本作が『ジーパーズ・クリーパーズ2』です。
内容に大きな繋がりはないものの、前作のすぐ後から物語が始まり、予知夢のシーンに一瞬前作のキャラも登場します。


さて、今回は息子をクリーチャーに攫われた農家のパパと、試合帰りのバスに揺られる高校バスケ部のBoys&Girlsが主役。
2人の主人公があちこちに動き回ってた前作とは対照的に、「バスの中」というほぼワンシチュエーションで群像劇っぽく話が進んでいきます。
また、前作では焦らしてなかなか姿を見せなかったクリーチャーも、続編でまで焦らしてもしょうがないとばかりに序盤からモロ見えで大活躍!

シリーズものなのにここまで趣向を変えて決して前作の二番煎じにならないように工夫してきてくれる意気込みに嬉しくなっちゃいますよね。
個人的には前作の方が好みなものの、こちらも引けを取らない面白さです。


中盤以降は夜中に襲撃されたバスの中ほぼオンリーで話が進むので、展開は停滞して見えてしまうのは否めませんが、その分演出でああだこうだとハラハラさせてくれるので、部屋を暗くしてしっかり没入して観ればけっこう怖いです。
前作でも今作でも結局クリーチャーの詳細が明かされないのもあって、姿が見えてしまってもちゃんと怖いんですよね。まぁ単に私がハーピィとかみたいな鳥人間系が苦手だってのも大いにありますが......。

でも、怖いけどなんか面白いってのもあって、ニンジャオマージュやアンパンマンオマージュ(?)にはかなり笑いました。まじかよ!と。ああいう奇怪なヴィジュアルを視せてくれるとこも前作から引き続きの魅力ですよね。

そして、終盤の逆襲展開も胸熱。
ここにきていきなりリベンジものアクションになっちゃって、ご近所農家さんが丹精込めて作ったDIY兵器にはオトコノコならテンション爆上がり必至。
そして、派手なクライマックスやってからの、ちゃんと怪奇幻想というものを分かってるラストシーンは前作同様印象的。

まだ3は観てないけど、この続きから始まるなら楽しみでしかないですね。明日観ます。Yeah!

リターン・オブ・ジーパーズ・クリーパーズ(2017)


はい、ここんとこハマってたジーパーズクリーパーズシリーズの、前作から15年後に発表された3作目。


なんつーか、コレジャナイ感が凄いんですよね。
相変わらず前作や前前作を模倣しない新趣向を見せてくれるのは嬉しいんですが、その新趣向が「トラックがヤバい」ですからね。
肝心(?)のクリーチャーさんはもはやただのゴツいオッサン。
前作ではガッツリ画面には映りつつもキモすぎる顔芸や神出鬼没感で怖がらせてくれましたが、今作ではもう一切怖くないんですもん。

そんで、トラックさんもまぁヤバいんだけど、個人的にあんまメカとかに心惹かれないのもあって退屈に感じちゃいました。
そもそもこのオッサンがどうやってこんな改造車作ったんだよ!と。おっちゃんには機械なんかに頼らない怪物でいてほしかったよ。情けない。

人間ドラマの方も、クリーチャーに家族を殺された人たちによる征伐部隊と、地元の若者たちの青春模様みたいなのの二本立てなんだけどどっちも中途半端で、いくらでもエモくなりそうなのに全然エモさがないんすよね。退屈。
主役の女の子が可愛いのは良かったです。このシリーズ毎回めちゃくちゃ可愛い子が主役なので素晴らしいですよね。

最後の方のバトルシーンは、CGとはいえそこそこ派手にやっててマッドマックス怒りのデスロードの100分の1くらいのスケール感はありました。
ラストでやはり次作を示唆するような終わり方をしてますが、3がこんな風じゃたぶん4はないんじゃないかな......。まぁ、やったらなんだかんだ観ちゃうんだろうけど......。


トゥインクル・トゥインクル・キラー・カーン(1980)


ベトナム戦争末期、戦場での体験により精神に不調を来たす兵士が増えていた。
古城を利用して開設された病院兼研究所に精神科医として赴任してきたケーン大佐は、患者たちと真摯に向き合い治療を行なっていくが......。


エクソシスト』の原作者が原作と監督を兼任していて、ホラーではないですけど精神異常や宗教などテーマ的には確かにエクソシストっぽさもある作品です。

これ、すっげえよかったっす。

前半は城内の患者たちと対話をしていく微妙に噛み合わない会話劇でかなり地味だし眠くなっちゃうんですけど、「キラー・ケーン」の登場あたりからじわじわと面白くなって、まさかのアレ系を挟んでからのエモすぎる結末で一気に大好きな映画になってしまいました。