後に文庫で刊行される『追憶列車』と
「マリア観音」「虜囚の寺」「お蝶殺し」という3編が被っている短編集。
『追憶列車』を読んだので、あちらに未収録だった「異人館の花嫁」「井筒屋の字謎」の2編を読むために買いました。
マリアごろし異人館の字謎―多島斗志之第一作品集 (多島斗志之第 1作品集)
- 作者:多島 斗志之
- メディア: 単行本
「異人館の花嫁」
神戸の外国人居留地に住むことになった主人公が、夫の前妻の不審者の謎に直面するお話。
まずは居留地という舞台設定が面白く、住宅地図まで付いてきてワクワクしちゃいます。
梅雨や台風という日本では当たり前の気候が外国人視点で描かれることで恐怖映画みたいにおどろおどろしくなるのも面白かったです。
『症例A』でも主人公の医師が前任者の影を見がちでしたが、本作でも前任者ならぬ前妻と自分がオーバーラップするところに叙情が生まれていて良いっすね。エモい。
ミステリとしては暗号モノで、暗号そのものは見た瞬間に解けちゃうけどそこからの一捻りが綺麗です。
短編だからキャラクターが良い味出し始めるちょっと前に終わってしまう感があって、設定も良いし連作や長編で読みたかったと思っちゃいます。
「井筒屋の字謎」
前妻との間の子供たちを無視して後妻との間の一人息子に「字謎」の形で財宝の在処を遺した井筒屋さん。でもそのせいで子供らの間で醜い遺産争いが起こって......。
......という事件から幾星霜、彼らの子孫たちが字謎を解き直すってゆうお話。
こちらも暗号モノですが、字謎の内容自体は地理に詳しくないと全然分かんないので正直そんなに面白くもなく......。
ただ、過去のドロドロした遺産争いと昭和のラノベみたいなノリの現在パートとが語られる2部構成は面白かったです。
特に後半のいかにもおじさんが書いたような男女バディの機微機微な心模様が今読むと謎の趣があって好きです。