偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

シャカミス競作感想

シャカミス競作感想



自分では作品書けなかったので感想だけは頑張って書かせてもらいます......。
各作品ネタバレあるため、私のこの拙い感想文は各作者様による本編を読了後にお読みいただければ幸いです。
あと、作者当ての推理過程も細かく書いてあるのでみなさんパクらないでくださいね!








































1.『限りなくゼロに近い神様』占無回

あらすじ欄で「新人」と「先陣」で韻を踏んでたり、英題に細かい遊びが仕込まれていたりと読む前からちょっとしたジャブを仕掛けてくる感じ好きです。
ガッと引き込む感じではないけど、文章が丁寧で映像的なのですぅ〜っと世界観に入り込んでいけるので文章上手いなぁと思います。
幻想小説のような幕開けから、解決編に至って原発という社会問題がテーマとしてドシっと据えられる飛距離がそのまま意外性。
放射能の廃棄物は10万年後まで安全なレベルにはならないと言います。
今の世界で原子力による電力を享受している我々が、10万年後までの人類に対して責任を取れるのか?それまでに文字という文化がなくなって放射能の危険性が伝わらなかったら?という問題を、10万年後の未来に暮らす1人の少年の姿を通して分かりやすく伝えている。
このどんでん返しと深淵なテーマ性をこの短さまで切り詰めて伝えられる才能には嫉妬しか覚えません。むかつく!
意識はしてないだろうけど、シチュエーション自体がどんでん返しになってる辺りに私の大好きな園田修一郎先生を少しだけ感じました。

文章の丁寧さと理系っぽさと処女作らしいことから、作者予想はともりさん。
森博嗣感があるのとペンネームの響きから四季さん説もかなり濃くて、めちゃくちゃ悩むんですけどね......。

追記
後から考えたんだけど、サラさん説が1番濃厚な気がしてきた。




2.『探偵儀式』リリック

らきさんによるテーマ部分に続ける形で書かれた異色作。
そのアイデアだけでなく、話の内容もめちゃくちゃ異色作で笑いました。
テーマ部分は元からあるからここの感想を書くべきなのかどうかも分かんないけどとりあえずハルヒトはムカつくので灰燼に帰してくれてスカッとしました!
そして解決編は私のオツムでは何が起きてるのか一つも理解できなかったけどなんか死体がリ・ストラクチャーされるシーンは楽しくてよかったです(粉蜜柑)。
あとセカオワと米津玄師のファンとしてはこういう使い方されるとムカつきますね。みんな米津玄師の新曲「POP SONG」はちゃんと聴いてますか?めちゃくちゃいいので聴いてよマジで。

なんだかんだシャカミスへの愛が溢れてるあたり、シャカミスのわりと中心的なメンバーの誰かが書いたとしか思えないっすね。
らきさんの自作自演説も一度は疑いましたが、それだと「テーマ部分をそのまま使う」という着想の奇抜さが半減してしまうので、らきさん以外の方が面白いなぁ。
などと思うので、丘守さんと予想!こういうふざけかたしそうなんだよなあの人。




3.『盲信とは正しさの不在なり』重圭貴

「記念碑的作品」と後書きにあるように作者の幅広い趣味嗜好を選り好みせず全てぶち込んだコラージュ......いや曼荼羅のような怪怪怪怪作。
描きたいものだけ描いてキャラ名なんかABCDとかで小説の体も成していない......書けば書ける作者だからわざと成さずに書いた......ようなハチャメチャなノリに当てられてしまいます。
しかし起こる事件はガシャポン人形の首切りというユニークな日常の謎
推理のための設定資料+ただ趣味で書いてるようなオタク衒学の数々に笑っていると最後の超展開なんなんアレ。
あまりにもハチャメチャすぎて見落としがちだけど、あの動機やトリックだけ見ればオーソドックスな短編ミステリらしいんですよね。それをこう料理しちゃうぶっ飛び具合と、ぶっ飛んでるのにちゃんと宗教というテーマを真っ正面から扱っているソツのなさがすげえ。はちみつレモンおいしかた。

作者予想は推理するまでもなくZEROさんにならざるを得ないっすね。記名性が強すぎて真似しようにも他の人にこれは書けないはず。




4.『トロイの地獄』木馬燐

あらすじからの連想ですが夢野久作とかの戦前の変格、怪奇探偵小説の雰囲気が濃厚で、この雰囲気大好きっすね。
デスマス調で童話のような優しげな語り口でおどろおどろしい物語が語られるのはあるいは谷山浩子みたいな雰囲気もある気がしなくもない。
しかしそんな雰囲気でありつつ、ブラック企業パワハラといった現代的なテーマも含んでいて、宗教にハマった妹を力づくで奪還することが本当に彼女のためだったのか......?という虚しい余韻も残る前半部。
から、一転して後半部ではリベンジもの映画のように、あるいは異能バトル漫画のようにポンポンと復讐を遂げてく展開も良いっすね。
レトロ感と現代社会を混ぜ合わせる感覚がなんか今時って感じで良いなぁと思います。

童話の読み聞かせみたいな語り口は創作慣れしているようにも、初めて書くから書きやすい文体を選んだようにも取れて判断が難しいですね。
しかしミステリに限らない教養と品格を感じさせるあたり、ともりさんっぽい気がします。
「トロイ・木馬・燐」の頭文字を拾うとともり、ですからね。




5.『カンナ』浅野ナナ

とにかく文章と話の流れがうますぎます。
「大変恥ずかしながら、私は美しく生まれてしまった」という、太宰治を思わせる1行目の引きの強さからしてもう面白いと確信させられました。
一人称でありながら、世界一のアイドルが生まれるまでのドキュメンタリーのような淡々とした語りから、カンナ本人でさえも、『世界一のアイドル・星崎カンナ』という運命に操られているに過ぎないような不穏さが終始漂っていて最高です。
そこからとんとん拍子に成り上がっていく様はシンデレラストーリーのように読むにはあまりにも予定調和のようで。この天災のような天才の描き方には野崎まどとか、伊坂幸太郎の『あるキング』あたりを連想しました。
そんなどこか現実離れした天才の物語でありつつ、随所で現代のアイドルグループへの痛烈な皮肉が込められている性格の悪さもとても好きです。私も今のアイドルはアイドルじゃないと思ってるので......。
『宗教』というテーマから本来偶像という意味を持つ「アイドル」へと発想を飛ばしつつ、第7章の事件の真相に至ってもう一度『宗教』が現れるというテーマの扱い方もプロクオリティですね。
......からのメタ展開に痺れる。
一旦スマホゲームとかが出てきて現実の側に一気に堕ちてきて、実在のソシャゲの存在しないキャラクターみたいな現代の怪談っぽい感じ出しといてからの、さらにもう一転して最終的には作者の「浅野喃々」の存在すらも作中に取り込むような、そしてトゥービーコンチヌーでどこまでも拡散させるような結末まで圧巻の嵐。
ミステリ、ホラー、SFを縦横無尽に駆け回る傑作でした。
......そして、読後にカンナの花言葉を調べてもう一つゾクっとさせてくれるのも上手過ぎます。

相当書き慣れているであろう文章の上手さと、そのわりに誤字の多いおっちょこちょいさ、そしてメタ構造や「ファムファタール」って単語好きそうなことから作者予想はらきむぼんさん。
ただし野崎まど感から加賀谷さん説もあります。




6.『裏世界ファシティアン』フィリップ

「宗教」「ミステリ」というお題にはギリギリ引っかかってるくらいな感じはしちゃうけどそれはそれとして面白かったです。
私もやっぱり世代だから2ちゃんまとめサイトとかでこの辺の八尺様とかきさらぎ駅とかカンカンダラとか読んでました。懐かしい。
オタク系サークルでモテなそうな男たちがダラダラと方言してるゆる〜い雰囲気も殺伐とした作品が多いこの競作の中でほっと一息つけるし、私も巨乳のお姉さんに取り憑かれたいと思わされました。
茶番みたいなメインのパートが終わった後の解決編というかバトルパートというかみたいな裏のパートがまたいかにもって感じで好き。
ダークサイドに足を踏み入れつつも、結局わりとほのぼのとした終わり方なのも優しくて好きです。

作者予想。『裏世界ピクニック』読んでそうなフォロワーってことでかめむしさんと鹿太郎さんが浮かびましたが、「獅子頭大学」が「鹿頭」に通じるところから体は人間、頭は鹿の鹿太郎さんと推理します。




7.『湿原の犯罪』シャカミス次郎

競作で犯人当てやろうとするのがまず偉いっすよね。
内容も短さに見合ったシンプルかつしっかりと説得力のあるもので、靴のロジックの生真面目さとバラバラのトリックのバカミスっぽさのギャップに萌えました。
容疑者それぞれの特徴が靴の大きさくらいしか書かれていないので絶対これが関係ある!まで推理できたのに犯人外したので記憶を消してもう一回挑みたいです。悔しい。
湿原という舞台設定が異世界感というか、浮世離れした犯人当てミステリのための空間、みたいな雰囲気を出してるのも好きなところ。

ふざけたペンネーム、ふざけたトリックと、ロジックや犯人当てへのピュアな愛が感じられるところから、作者予想は丘守さんで。




8.『月の裏側』平野鵺

さすがに作者がまひろさんだけあって熟練の筆捌きですね。
プロローグとして挿入されるとある夏の風景がエモみを保証。そこから軽妙で良い意味でダラダラした高校生たちの会話およびケーキは、毎日家と仕事の往復しかしていない今の私にはもう眩し過ぎてぶん殴りたくなります。
世間を知らない少年少女が祖父にまつわる事件を探っていくことでほろ苦い結末にたどり着いたり着かなかったりするという構成は米澤穂信氷菓』を彷彿とさせます。「ボトルネック」という単語が作中に出てくるのもオマージュ元を明示する意図でしょう。
ミステリとしては旋状痕が付いたタイミングと今回の射殺事件との時系列のズレを重ねることで幽霊を幻出させるアイデアが見事です。野暮なことを言えば科学捜査で分かりそうではありますが、作中でしっかり旋情痕について解説があるので、特殊設定ミステリのように「旋状痕」という設定を使ったトリックと捉えれば瑕疵にはなりません。
瑕疵といえばむしろ、主役の小松田さんの下の名前の表記がブレブレなのが大きすぎるので修正しといてくださいまひろさん。奈々なのか奈緒なのか最後まで分からなくて双子トリックかと思った。
そして物理トリックの他におまけで叙述トリック混んである辺りも(あからさまなので分かったけど)遊び心満載で楽しいっすね。
また、「名探偵」の存在について、重くなり過ぎずに描いているのも好みでした。小松田なんとかちゃんの更なる活躍に期待したいですね。

てわけでもう書いちゃってるけど、キャラ造形、青春、女の子、会話の中でのツッコミの入り方、ケーキ、ペンネームやタイトルや章題、どれを取っても作者はまひろさんでしかあり得ない。もし他の人だったらまひろさん模写が上手すぎる。共作の可能性はあるが。




9.『Xの悲劇、或いはXmasの悲劇』韮ちゃん

なんかもう上手すぎて逆に感想書くのが難しいわ。
陽と影で対になる主人公2人のキャラ描写からしてもう上手いし、文章にもおよそツッコミどころや読みづらいところがありません。
話の展開にしても会話にしても情景描写にしてもいちいち上手い。
ロジカルミステリとしても、描かれていることの全てがちゃんと伏線になっていて、伏線の量の多さからある程度複雑になりつつ、しかし目の付け所は一点だけなのでシンプルに納得できる分かりやすさもあります。
私はもちろん犯人を当てることは出来ませんでしたが。悔しい!
そしてキャラクターたちへの愛着がまた増してしまうラストの一言も完璧。
上手すぎて、上手いとしか言えないんだけど、めちゃくちゃ面白かったです。

作者予想はふっふーさん。女性視点が自然で、男が狙って書くのはなかなか難しい気がします。明らかに書き慣れているだろう小説の巧さも。また冒頭のある描写とキャラの書き方もふっふーさんっぽいと思います。
......と思ったけど、みんなふっふーさんは書いてないってゆうから、次点でアキラさんかな。このロジカル犯人当てはアキラさんのイメージではあるかも。




10.『三十一文字』広間

穂村弘などの短歌を作中にたくさん織り込みながら一つの青春小説に仕上げた労作。
宗教って感じはもう全然しないけど、それはそれで。
読者への挑戦でお話が終わっていて読者が答えを探さなければならない構成が新鮮ですね。
そして、作中の短歌に隠された暗号には「未来よりあなたに」とあります。
つまりあすぎあは未来の人?これを未来の主人公ととるか、未来の三郷華ととるかで迷いました。
しかし、アイリスの花言葉は「恋のメッセージ」だそうです。恋のメッセージというからには、過去の自分へではなく過去の好きな人へ、なのではないか......ということで「あすぎあ」の正体は未来の三郷華だと推理します。
いやぁ、合ってるかどうかは分からんけど、とにかく凄かったです。暗号が成立するように短歌を並べつつ、並んだ短歌の内容からコラージュするように物語を組み上げていく。エモーショナルな青春小説でありつつ、計算して構築されてもいる二面性に惚れちゃいます。

作者予想ですが、『ショートソング』みたいに枡野浩一穂村弘らの短歌を引用して一本の青春小説を書こうとするような奴はさすがにまひろさんくらいしかいないのでは......と思うけど、安直すぎる気もするんだよなぁ。
というわけで、裏をかいて千早とわさんと推理します!!




11.『世界の終わり』スクラビングバブル

読者への挑戦こそないもののこれもお手本みたいに上手な犯人当ての短編ですね。
ただ、論理から緻密に犯人を絞り込んでいくというよりは、トリックや動機がまずあってそこから話を作ってそうな感じ?
私はロジックよりトリック派なので、こういうオールドスクールな物理トリックが複数仕込まれている短編ってのはそれだけでもう贅沢で好きになっちゃいます。
そしてお話も乾いた感じで良かったですね。
このキャラ設定だとちょっと色気出してラブコメっぽくしたくなりそうなところ、らきさんと真理ちゃん2人の関係性も話の展開も結末もドライな感じがなんか法月綸太郎とかの影響を感じさせます。
宗教がテーマで動機が「嫉妬」なのは、宗教ミステリの国内における金字塔である某作の感じも。

作者予想ですが、作中に堂々とらきさんが出てくるから逆にらきさんじゃない?
となると、これだけ書けるのはアキラさんかハルヒトあたり?
ただアキラさんにしてはロジックよりトリックに寄ってる気はするし、宗教への皮肉な視点とかのりりん感もハルヒトなんじゃねえかな、と思う。
哲学っぽさや視線の冷たさやあのトリックを使ってるところがワンチャンともりさんもあるけど、なんかディスってるみたいなので次会う時殺されるかもしれない......。




12.『I saw a nightmare』可愛い電子レンジ

知識が変な方向にぶっ飛んでる作風がZEROさんっぽい気がするんだよなぁ。武器の描写の細かさのオタク感とかも。
感想は......あまり政治的な話はしたくないのでノーコメントで......。




13.『拝火』ぴしある検査

うらさびれた冬の村に現れた異邦人。思春期で反抗期真っ只中の主人公たちと周りの大人たちとの関係の緊張感。現状と将来への不安。押し付けられる性的な視線。
そう、一言で言えば閉塞感。青春というものの暗い捉え方から来る全体に漂う不穏さがとても私好みです。
かまくらや拝火というモチーフはエモみがありそうながら、その真相はあまりに即物的で俗っぽく、その身も蓋もない虚しい余韻がまた好み。
ミステリとしてのトリック自体はあまりにも手垢のついたものではありますが、それを物語の中にこうやって織り込むことで意外性と物語性を両方最大限に出してるのも上手いと思います。

作者予想ですが、この雰囲気を出せるのはたぶんバブルさんじゃないかなと思う。はっきりした根拠はないけど友達の勘です。外れてたらバブルさんは友達じゃなかったということで。



14.『Logical Power』中山翔二

めちゃくちゃ笑った。
なんかあらすじ欄にごちゃごちゃと御託が並べられてるけど読んでみればアンチミステリ......というよりはおバカなミステリという意味でのバカミス⁉️
そうだよ、僕らはあの頃みんなミステリが大好きだったはずじゃないか。それなのに社会に出て毎日3時間残業しても残業代も半分くらいしか出なくてってやってるうちに摩耗してもうミステリのことなんて忘れかけてた......それでもあの頃に戻れると思って合宿に参加したのに......。
主人公の気持ちが痛いほど分かって泣けてきます。しかしそれ以上に笑いが止まらずめちゃくちゃニヤニヤしながら読んでしまって悔しい。作者がわかってるから余計に悔しい。

そう、作者とはシャカミスの中でも1番古くから交流があるのですぐに分かってしまい、もはやカンニングしたみたいな気持ちです。
会話の感じといいマッチョというテーマといい強すぎるBL感といいアンチというよりはギャグなミステリの壊し方といい「社会に出て5年」といい、加賀谷さんでしかあり得ませんよね。



15.『致死性の謎』間間闇

本競作のトリに相応しい......というより、トリになるようにわざと最後に投稿されたであろう力作。
雰囲気といい異様な結末といい、完成度が高すぎる。
キリコの絵と麻耶雄嵩の作品をどちらもモチーフに使いつつもシンプルな三角関係の青春ミステリとしてすっきりまとまってます。
先に一つだけ文句を言っておくと、「名前のない絵本」の部分が期待した割にちょっと駆け足すぎて物足りないところはありました。まぁここをガチでやったら余裕で2万文字超えると思うので、競作企画が終わった後でここ足して長編版にしてほしいところです!
キリコの絵を調べて見てみるとこの作品の内容そのままで、冒頭に図版こそ載っていないものの絵画を小説にするところは飛鳥部勝則でしかない。
サイコ操りみたいな後味悪すぎる結末もヤバいです。この雰囲気好きすぎる。

作者予想は麻耶みと飛鳥部みから順当にらきむぼん。
ただしこの競作のトリを恐らくは狙って飾っている本作ならもしかして何人かで共作ということもあるかもしれません。アラン・スミシーの名前が出てくるところからも、作者が1人ではない可能性が示唆されている気がします。『夏と冬の奏鳴曲』も共作を示している気が。
その場合、キャラ名というサインのあるハルヒトとアキラさんがらきむぼんの共犯者(共作者)であると推理します。
そして、あの人に捧ぐ献辞。ここもらきさんだけだと創設メンバーじゃないからそぐわない感じがするのでアキラさんあたり関わってそうな感じはするんですよね。ただ、あの嫌な結末はアキラさんらしくないけど。