偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

ボーイ・ミーツ・ガール(1983)

レオス・カラックス監督23歳の頃の長編デビュー作で、アレックス3部作の1作目。

恋人を親友に寝取られた青年アレックスが夜の街をぷらぷらしながら恋人とうまくいってない女性ミレーユと出会うお話。



83年の作品ですがあえてのモノクロで撮られた映像が美しくかっちょええ。
物語というよりは詩のように断片的なイメージが連なっている映画で、一つ一つの画がすげえ良いんすよね。
オープニングからしてバチっとキマってる......かと思いきや、それが本筋とはあんま関係ないのもクールだし、夜の河沿いの風景、暗くて狭い部屋、隠された地図、ピンボールの裏側、回るカップル、踊るミレーユ、手話の老人、欠けたカップなど、なんか分かんないけど強く印象に残る場面がいっぱいあって観てるだけで楽しいです。

そういう暗喩っぽい表現やら引用やら詩的なセリフやらのおかげで難解な印象もあるけど、すげえざっくり言ってしまえばタイトルの通りただ「恋」を描いてるだけの作品でもある......んだと思います。

恋とは終わるもの、失うものであって、冒頭の本筋とは関係ないおばちゃんからして娘を連れて夫から逃げていたり、主役の2人も元の恋人と別れたりうまくいってなかったりするし、パーティーの場面での宇宙飛行士や欠けたカップのおばちゃんのエピソードからも喪失の匂いが強く漂います(関係ないけど私の好きなギリシャラブというバンドの「テレパシーでランデブー」という曲の元ネタがここだったと知って嬉しくなりました)。

そして、恋とは独りよがりのものでもある。
主人公のアレックスは自分でも言ってる通り孤独な青年。彼が夜の街を歩き回ってるだけの話なんだけど、彼、あんま誰とも会話しなくてとにかく1人でモノローグぶつぶつ言ってるだけなんすよね。
そんな彼が同じく孤独を抱えるミレーユと出会うわけですが、彼女に対しても独りよがりに自分語りをぶつけてるだけで。
なんつーか、自分に似たところのある可愛い女の子に自分を投影して愛でてるみたいな感じっすよね。でも「恋は盲目」なんて言うように、恋をすればするほど周りのことも相手のことも見えなくなって自分のことしか考えられなくなってしまうもので(意味が違う)、そういう青い恋の失敗談として観ると身につまされる作品であります。

という感じで、デビュー作らしく凝りすぎなほど凝った映像はめちゃくちゃ良くて、ストーリーも良かったけど大学の頃とかの私にとっての恋の季節に観てたらもっとぶっ刺さっただろうなと思うと惜しいですね。でもかなり好きです。

ナイブズ・アウト(2019)


世界的なミステリ作家のハーラン・スロンビーが85歳の誕生日パーティーの夜にナイフで喉を切られて死亡する。
警察は自殺と推定するが、匿名の依頼状によって屋敷を訪れた名探偵ブランは事件の裏に秘密の存在を感じ、ハーランの看護師だったマルタを助手とし捜査を開始する......。


大作家の死、屋敷に集まった怪しげな一族、現れる名探偵......もはや古臭いと言ってしまってもいいくらいの王道で古典的なミステリの匂いをむんむんさせてきてそんだけでウオーッてテンションぶち上がっちまいました。
しかも、アガサ・クリスティ風の雰囲気ではありながら原作はなく、この時代にオリジナル脚本でこんだけ王道のミステリ映画が作られる(しかも超豪華キャストで金かけてて続編も作れるくらいにはヒットしてるらしい!)ということ自体に感動してしまいます。

もちろん内容もめちゃ面白かったです!
前半はまさにオーソドックスなお屋敷ミステリって感じ。事情聴取や足を使った地味な捜査が描かれていきます。しかし衣装もセットも演技も全てがゴテゴテしているのとコミカルな雰囲気によってこの辺の地味パートを飽きさせずに見せるのが上手いっすね。
そこからちょうど真ん中へんで「あれ、解決しちゃうじゃん?」ってくらいまで明かされると、一気にジャンルがサスペンスに変わって静から動にスイッチしてそっからは解決編までノンストップ。
そして解決編も良かった。緻密なロジックよりは人物の言動や証拠品を並べてそれらを想像の糸で結んでいくような推理法ですが、映像だとその方が分かりやすくて良かった。あとダニクレ演じる名探偵ブランが突如ハイテンションになるのもめちゃくちゃ笑いました。それまで名探偵にしては地味な印象だったのが一気に好きになってしまいました。ちょっと残念だったのは濃すぎる面々のうち犯人以外の人たちがそんなに事件に関わりがなくて賑やかしのようになってしまっていることかな。全員に役割があるともっと良かったかも......。

あと、私は嘔吐恐怖症なのでゲロ・デ・アルマス演じる主人公のマルタが嘘をつくと吐くという設定はしんどかったです。くしゃみくらいにしといて欲しい。

以下少しだけネタバレで。

































犯人というか黒幕がランサムだったのは単純に出番が多くて言動がたくさん描かれるため順当すぎる気はしてしまいます。
一番良かったのは、家政婦さんの今際の際の言葉が「見たのよ」→「見たのヒュー」ってとこ。吹き替えで観たためちゃんと音として聞けたので「やられた!」と思いました。
特別凄いどんでん返しとか意外性はないものの、きっちり伏線が回収され、マルタが嘘で言質とるとことか偽のナイフとか、いい意味でベタなことを丁寧にやってて面白かった。
ラストシーンは遺産を家族に返すような感じを出しつつマルタの持つマグカップには「My House」と書かれていて、リドルストーリーみたく「どっちなの?」というのを観客に委ねる形になっててオシャレでした。

あと、これはちょっと穿った見方かもしれませんが、マルタが嘘をついたら吐くという設定自体が嘘で、全て計算の上......という含みも持たせているのかな?と思います。誰かが「嘘をついたら吐く体質なんてあるのか?」みたいなこと言ってたし。まぁサツキとメイ死亡説くらいのノリで。

あと、どーでもいいけど、ナイブズ・アウトというタイトルはレディオヘッドなのに主題歌がストーンズだったのは納得がいかない気がしてしまいます。

今月のふぇいばりっと映画〜2022/11

遡ってやってきた「今月のふぇいばりっと」コーナーもこれでおしまい!
今年からはもう映画の記事も内容薄かろうがなんだろうが記事数稼ぐために単体で載せることにしましたので、これにておしまいです。応援ありがとうございました!



今月の作品はこちら。

・テリファー(2016)
・X(2022)
・激突!(1971)


テリファー(2016)



ハロウィンの夜、酔った2人の女の子が殺人ピエロに遭遇するお話。

低予算B 級ホラーであることをしっかり自覚しているようで、余計な演出とかドラマ性とかは削ぎ落としてただ殺人ピエロに追われるスリルと人体破壊の面白さだけに振り切っているところがとても愛おしい作品です。
また、変なふざけ方はせずにシリアストーンを保っている、でもところどころで「怖面白い」くらいのギャグセンスもあるバランス感も大好きです。
おかげで、序盤の導入部を除けば全編が怖いシーン。
「こいつ怪しくないか......?大丈夫か......?」「ちょいちょい、後ろにおるんちゃうか......?大丈夫か......?」「うわ、出た!」みたいに緩急は付けながらも、常に緊張感が持続していく感じは大好きな『ハイテンション』にも通じる気がします。だから好きなんだと思う。
とにかくピエロさんが一言も喋らないのが良いですね。完全に不条理を体現しているだけの存在で、でも反撃されると意外と弱いところなんかに人間味があってギャップ萌えしちゃいます。顔が普通に怖い。
掃除のお兄さんとかヤバいおばさんとかもなんか不気味で良かったですね。

惜しかった点としては、被害者側がけっこう反撃できるのに誰もトドメを刺さないのが、数回なら良いけど毎度毎度のことでちょっとイラッとしちゃうってとこすかね。
あと、オープニングエンディングの枠部分が意味深な割に特に伏線回収だとかはなくそのまんま終わるのが肩透かしではある。

とはいえ、スラッシャー系のB級ホラーで観たいところだけで構成された潔さが堪らない傑作でした。続編も楽しみ。


X(2022)



1979年。
6人の若者がポルノ映画の撮影のためにテキサスの農場を訪れるが、農場主の老夫婦がなんかおかしい......っていうお話。

めちゃくちゃ良かったです。

とりあえず映像が綺麗だった。
ポップかつアート的なカッコよさが観やすいバランスで入ってて、タランティーノオマージュな車のシーンとか作中作のポルノ映画とか牛さん🐄やワニさん🐊とかがカッコ良い。
それと単純にミア・ゴスが魅力的すぎた。

そんでお話も良かった。
レザフェちゃんでお馴染みテキサスの片田舎でのベタすぎる殺人劇ですが、「若さと老い」をテーマにすることでただのスラッシャーに留まらない深みを出してきます。
若者たちの割り切ったセックス観も嫌いじゃない一方、殺人老夫婦の姿に未来の自分を視てしまって怖さや悍ましさよりも哀しさが強かったです。いや、むしよ悍ましさを感じてしまうことのいたたまれなさかな。なんにしろどっちを応援していいのかわからんかったっすね。
意味深な結末と、その後でサイコーなラストシーンがもう堪らんイキそうでした。

王道スラッシャーの楽しさと今風なテーマの両立がしっかり成された傑作。続編もある、つーか3部作構想らしいので今後も楽しみでしかないっす。


激突!(1971)

激突! (字幕版)

激突! (字幕版)

  • デニス・ウィーヴァー
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5年くらいぶり2回目。

荒野の一本道で仕事で急いでる主人公がゆったり走ってるタンクローリーを追い越すとそいつにめっちゃ煽り運転されるっていうお話。


スピルバーグの初長編で、制作費45万ドルと低予算ながらもアイデアだけで大勝利してる傑作です。

とにかくタンクに追いかけられるだけ。途中でガソリンスタンドやPAに止まったりはするものの、全編のたぶん8割以上は車で走ってるシーン。たぶん脚本A4で1ページくらいでしょっていうシンプルさ。
なんだけど、あり得ないくらい面白いんです。
まずアメリカの映画にいつも出てくる荒野のハイウェイの風景の美しさだけでも結構観れちゃったりして。これ以上ないくるい綺麗な青空の下で真っ赤な車と恐ろしくでかいタンクローリーとが疾駆してるだけで興奮しちゃうね。
そんで、緩急の付け方が上手いんすよね。セリフとかはマジでほとんど無いので、ほぼ緩急だけで観せてる。
同じ嫌がらせを何回かしてイラッと来たところで別のパターンを出してきたり、一瞬「あれ、いなくなったんじゃね?」と安心させてから出てきたり。また、前半はゆうても嫌がらせ程度だったのから一線を越えるシーンのインパクトはやっぱ凄くて「ひょえー!」ってなるし、そっからはギアが一段上がったみたいにアドレナリン全開で観れるし終盤はもはやスリラーからバトルアクションになったような感覚。
もちろん一貫してタンクの運転手の姿が見えないのも怖くて、その中で逞しい腕だけ見えんのも不穏。タンクそのものも怪物のように見えるし、運転手の腕も腕だけだとなにか人間ではない生き物のようで気持ち悪かったですね。

そんで、ラストがまたカッコいいっすね。特に説明もなく、その後もなく、ただ戦いの結末という事実だけがある感じ。
家で観てもこんだけ楽しいんだから、これ映画館で観てみたいですね。どっかでやってくれんかなぁ。

今月のふぇいばりっと映画〜2022/5-10

今回の作品はこちら。
・シン・ウルトラマン(2022)
・サマーフィルムにのって(2020)
・呪詛(2022)
アクロス・ザ・ユニバース(2007)


シン・ウルトラマン(2022)


どうしても較べちゃうけど、『シンゴジラ』は首都東京を襲う大災害をゴジラに仮託しテーマ的にも展開的にもシンプルでリアルな災害SFでした。
一方、本作はリアリティよりも外連味、シンプルさよりも猥雑さを押し出した怪奇幻想映画。
製作費がシンゴジの半分ほどらしいこともあり、どうしてもショボく感じてしまったり演出が変だったりして、正直なところシンゴジの方が100倍面白いとは思います。
思うんだけど、ただ私は本作のこのごちゃごちゃしててヘンテコなある種のB級っぽさお気楽な娯楽映画としての馬鹿馬鹿しさみたいなものに、綺麗に整ったシンゴジよりも謎の愛着は感じてしまいました。


突然現れた怪獣に対して国がどう対応するかみたいなくだりはシンゴジでもやったからとばかりに「これまでのあらすじ」としてバサバサと省略されてもういきなり美味しいところから入る身も蓋もなさがまずは楽しいですよね。
そんでウルトラマンが可愛いのよね。なんか、動きが可愛いし、人間を守ってるんだってところの健気さとかがとても可愛い。

ストーリーはわりと連ドラの総集編みたいにいろんなエピソードがツギハギされてる感じで、そこが賛否両論あるんだと思うけど、個人的にはあの次々と奇妙なことが怒っていく白昼夢のジェットコースターに乗せられているような感覚が堪らなかったです。
煽り人間顔どアップアングルとかもそういう奇妙な夢のようなシュールな気持ち悪さがありました。
ラストも、そんな奇妙な夢から覚めたような、でもまだ夢の中にいるかのような余韻を残しつつ米津が玄師してて米津ファンなのでフツーにイっちゃいました。
怪獣の造型についてはなんかちょっとハイテク感がありすぎてもうちょいナマモノっぽくてもって感じはしたけどまぁでもカッコよかったです。子供の頃は毎日怪獣図鑑を持ち歩いてたので。

あとはじめて斎藤工かっこいいなと思った。


サマーフィルムにのって(2020)

それは夏だったり、
または恋だったり、
全部が映画のワンシーン
君と過ごす日々こそが大事。



......いやもう、最っ高でしたね。
邦画の低予算の青春映画としては完璧な気がする。

先に言ってしまうと、主題歌のCody・Lee(李)による「異星人と熱帯夜」が去年Apple Musicで一番聴いたし、スピッツを除けば大学卒業以降に出た曲で1番好きくらいまであるので、この曲が使われてる時点で無駄に加点されてる気もするのですがそこはもう許してほしい。
キリンジの「エイリアンズ」自体大大大好きだしきのこ帝国の「クロノスタシス」も大大大好きなので、その辺へのオマージュを感じさせつつより軽やかに夏の切なくも多幸感溢れるキラキラしたサウンドと歌詞のこの曲が大大大好きじゃないはずはないんだもの。
むしろこの曲が好きすぎて他のコディーリーの曲のどれを聴いても好きだけど異星人ほどじゃないな、と思ってしまうくらい好き。いやでもコディーリーのデビューアルバムはめちゃ良かったのでみんなマジで聴いてください。

何の話だ。
本作は高校の映画研究会に所属する少女「ハダシ」が主人公。
私の高校の映研は部活に昇格するのがやっとくらいの人数で細々とやってましたが、本作の映研は嘘でしょってくらいの大所帯。
それだけに、文化祭で撮る一本を決めるためにコンペまであって、それに破れたハダシ監督が独自に仲間を集めて文化祭でゲリラ上映するために映画を作りはじめるっていう導入がもう激アツ。
序盤は時代劇オタクの主人公のオタクっぷりや、『少林サッカー』みたいに仲間を集めてチームを作るけどなかなか上手くいかない......みたいな感じ。細かい写り込みとか、夏とはいえ業後から日暮れまでの短い時間しか撮れなかったりとか、高校映研あるあるが面白かったです。
人間ドラマとしては、正直なところ恋愛要素いるか......❓❓とは思ってしまいました。観ていて映画への愛は伝わるけど彼を好きになる理由の方はいまいち伝わって来ず、なんだか唐突に感じられてしまいました。失恋大好きマンなのでむしろ負けヒロインちゃんの方に共感して泣きそうになりました。というか負けヒロインちゃんめちゃくちゃ顔が良かった。美しすぎる。
一方、みんなで楽しくワイワイ、ライバルへの対抗意識でメラメラ、煮詰まって気まずくなっちゃう時もありつつ一つの目標に向かって頑張るってとこは素晴らしいっす。クラスに友達いなくたって文化祭ガチ勢になれるんやぞっていう、まぁそれは私の高校時代の話ですけど、そんな感じでエモい。
最後がなぁ、恋愛部分を押し出してきてるのでちょっとつらかったですね。まぁでも総じてエモかったし何とも言うけど主題歌が流れ出した時点でセツ泣き確定なので観終わった後の満足感は凄かったです! 


呪詛(2022)

https://filmarks.com/movies/103023


なんかTwitterで話題が沸騰してたので観てみました。

一度は手放した娘を再び引き取ることを決意したシングルマザーの主人公が娘に降りかかった呪いを解こうとする......というのが主軸のストーリー。そこに、3人組のYouTuberの男女がヤバそうな村の儀式を動画に撮るっていうサブストーリーが交錯するモキュメンタリー系ホラー。

こういう作品で2つの話が並行して語られる形式なのが新鮮に感じました。
母親のパートは、とりあえず娘の呪いを解こうとしているらしい......というのは分かるものの、何故呪われたのか?何の呪いなのか?などがまるっきり分からないまま意味深なものばかりが出てきてホワットダニット的な興味で観られます。
一方のYouTuberパートの方が『コンジアム』みたいにストレートに「ヤバい場所」に行く!という分かりやすい流れで、この対照的ながら「呪い」というワードだけで繋がっている2つの話がどう絡んでくるのか......?というミステリっぽい謎が見どころの一つです。

そしてホラーとしては、母親のパートは日常生活の中に怖いものがぬるっと入り込んでくるような感じ。
一方、YouTuberパートは日本に似たところもありつつちょっと違う台湾の村や寺院のエキゾチックなロケーションそのものが怖くも魅力的。
どちらのパートも音とかで怖がらせるような演出も使いつつ、虫とか歯とか髪とかよく分からないながら生理的な気持ち悪さや悍ましさを感じさせる怖がらせ方が主体になっててじわじわと来るものがありました。終盤に向かうにつれてより深刻さと言うか、禁忌感と言いますか、要は「ヤベえ」感じが増していくのが素晴らしい。
また、本作の主役と呼んでも過言ではない娘役の子がめちゃくちゃ演技上手かったのでかなり没入して観ることが出来ました。
ただ、最後の方がちょっとだけもたついたというか、冗長な気がしないでもなかったかなぁ、というのはあります。
ある程度のところまで来ればオチは分かってはしまうので、そこからは焦らさずにパパッと畳んで欲しかったかな、という感じ。
あと、POV的に娘がそんな状況なのにカメラ回す?みたいなツッコミどころはわりとあるかも。

とはいえ、日本に近いところもあるからこそ逆に異界っぽさが強烈で、一つ一つの怪異の映像もインパクトがありとても面白かったです。
実を言うと本作を観てから、宝くじの一等が当たり持病の肩こり腰痛も治って彼女が5人出来たので、幸せになりたい人はぜひ観るといいと思います。分かったな?絶対観ろよ?


アクロス・ザ・ユニバース(2007)


タイトルで気になって観てみたら、ビートルズの楽曲30曲以上を出演者によるカバーとして使用したミュージカル映画で、ビートルズがこんだけかかる時点でもう無条件に好きではあるんすよね。


舞台はベトナム戦争の頃のアメリカ。
母を捨てた実の父親を探しにイギリスからやってきた主人公のジュードは、父の働く大学でマックスという男とその妹ルーシーに出逢う。
すぐにルーシーと恋に落ちるジュードだが、やがてマックスの元に召集令状が来て......。


というわけで、マニアというほどじゃないけど自分なりに大好きなビートルズが使われてるだけでテンションぶち上げなんだけど、その使い方が面白かったです。
普通ミュージカル映画や音楽映画って、ストーリーがあってそこに合わせて曲を作るパターンが多いと思います。しかし、本作はまず「ビートルズの曲を使いたい!」というのがあって、既存の歌詞に当てはめて話を展開させてる感じなんですよね。
だから、この曲を使いたいがためにこの展開......というような歪さがあるんだけど、そこが逆に愛おしいんですよね。

そして、ビートルズの活動時期と同時代のアメリカを舞台にして、全体のストーリー構成でビートルズというバンドの歴史をなぞっているのも良いですね。
ラブストーリー(ラブソング)にはじまり、やがてベトナム戦争が始まってサイケに向かい、ジュードとルーシー(メンバー間)の軋轢もありつつも「愛こそすべて」と平和へのメッセージを打ち出す......という、まぁざっくりですけどビートルズというバンドの歩みを思わせる構成なんですよね。
ただ、中盤のサイケパートあたりはやや中弛みに感じられるのも事実。曲がいいから観てて楽しいけどね。
あと、キャラの名前も主役のジュードとルーシーをはじめ、ビートルズの曲名に付いてる人名はほとんど網羅してんじゃないかってくらい全員ビートルズ由来のネーミングで、その安直さが微笑ましいです。

そんで、歌が良いんですよね。
ビートルズの原曲を使うのは版権的にも色々難しいらしいけど、本作のキャストたちによるカバーは、ストーリーとの絡み方も相まって原曲とはまた違った魅力を放っていて最高です。
例えば、序盤でレズビアンのプルーデンスが恋する相手が男と話しているのを見つめながら歌うバラード調の「アイワナホーヂョーヘン」や、ゴスペル風味の「レリビー」、ドスの効いた女性ボーカルで原曲以上に激しい「ヘルタースケルター」など、歌詞の解釈を変えると/アレンジを変えると/他の人が歌うとこうなるんだ!というカバーならではの楽しさが全編に散りばめられているわけです。

そして、ラストで使われるあの曲。
まぁ、あの曲がトリを飾りそうなのはなんとなく分かりますけど、最後の最後であの曲のあの部分をああやって使うのはキマりすぎてて爆笑してしまいました。笑いながら、このめくるめく愛の物語の余韻を噛み締めてじわじわと泣けてくる、素晴らしい終わり方。
サントラもサブスクにあって聞けるので嬉しいんだけど、尺の都合で劇中で歌われる全曲の半数くらいしか入ってないのが残念。また観なきゃってコトね。

今月のふぇいばりっと映画〜2022/2-4


今回の作品はこちら。
アンダーグラウンド(1995)
・ベイビーわるきゅーれ(2021)
・娼婦ケティ(1976)
・アンテベラム(2020)



アンダーグラウンド(1995)


ドレスコーズっていう好きなバンドがいまして、その近作で『ジャズ』というアルバムがありまして、そのアルバムはロマ音楽を取り入れながらゆるやかに滅びゆく人類を描いたコンセプトアルバムなんですね。
で、インタビューでそのアルバムに本作の影響が色濃いと言っていたのを読んだのが本作を知ったきっかけだったと思います。
ただ、それとは別にTwitterで本作の中でも名場面と名高い空飛ぶ花嫁のシーンがバズってて、直接的にはそれで気になって観てみたわけでございます。


舞台は第二次大戦中のユーゴスラビア
ナチスドイツの侵略に抵抗する共産党員のマルコとクロという2人の男と、彼らを魅了するナタリアという女が主役です。

この国の激動の歴史については米澤穂信の『さよなら妖精』をかつて読んだのでなんとな〜〜くの薄いイメージだけはありましたが、それにしても壮絶な物語でした。
冒頭の、街が敵機に爆撃されるシーンからしてただならぬ良さがあります。
傷付き脱走する動物園の動物たち、セックスの途中の男女など、シリアスさとブラックなユーモアとファンタジックな映像という本作の魅力が最初から既にむんむんと匂ってきます。というか、ユーモアというよりドタバタコントですよねこれ。チャップリンとかドリフみたいな。最高。

音楽もオープニングから全開。
全編に渡ってロマ音楽が演奏され続けていますが、場面によってその印象は変わります。
ええじゃないか的な狂乱の大騒ぎに、抵抗のシンボルに、滑稽なBGMに、人生への祝祭にと、同じ音楽が物語の展開に応じて印象を変えながら、しかし通奏低音として常にそこにあり続けます。
最初から最後まで同じような音楽が流れていることで、最後まで見た時の「思えば遠くへ来たもんだ」という感が強まり、変わったものと変わらないものへの感慨も湧いてきます。

ストーリーは政治と戦争についてを主題としつつ、そこから恋愛や友情、人間という存在の善い面と悪い面みたいなところまで描き出されます。
また登場人物が多くて、脇役たちにもそれぞれの人生があることがしっかり描かれていて見応え抜群。
その中で、主役の3人の変化が主軸として描かれていきます。
特に印象的だったのはヒロインに当たるナタリアというキャラクター。
この時代、この国において主体的に生きることが出来なかった女性が、いわゆる女の武器を使ってその時々に優勢な男に媚びなきゃいけないという、それがコミカルに描かれています。その中で、若い時は時折、歳を重ねてからはほぼ常に憂いを帯びた虚しい表情をしています。
自国と敵国とか政治的思想とかいうもの自体への無関心というか、そういうものたちの争いの時代の最中にあってどちらからも顧みられない彼女、その争いがこの国ではずっと続き続けている......。
そんな彼女の人生に対するどうでもよさのようなものに、本作の登場人物の中でも1番惹きつけられてしまいました。
もちろん他にも地下で生まれた子と浮遊する花嫁(なんだそりゃ)や、動物園の青年など、印象的な人がたくさんいて、彼らはどうしているだろうか......などとたまに思い出してしまうくらいみんなリアルな存在感がありました。

そんな感じで、知識も感性もないのでかなり難しい映画でしたけどボケーっと観ててもめちゃくちゃ良かったし3時間もあったように思えないくらい面白かったです!


ベイビーわるきゅーれ(2021)


『ある用務員』の女子高生殺し屋コンビのリブートみたいな長編です。

高校を卒業した殺し屋のちさととまひろは社会勉強としてアルバイトをはじめさせられるが、面接で撃沈したり客にキレたりとなかなか上手くいかず......。一方、組員を暗殺されたヤクザが彼女らを狙い......。
といったあらすじ。


とにかく主演の2人が魅力的。それだけで最高!
喋れないコミュ障のまひろ(金髪ショートの方)と、しゃべるコミュ障のちさと(黒髪ロングの方)の、髪型同様対照的で、しかし似たもの同士な2人。
その似てる部分と違う部分とのギャップから喧嘩したりもするけど喧嘩の仕方もめちゃくちゃ可愛いです。その不器用さがめっちゃ分かるので、かなり入れ込んで見ちゃいましたね。
一緒に見た彼女はちさとちゃん派だったけど私は断然まひろちゃん派なので我々も殴り合いになりました。


2人のキャラだけでも見れるんだけど、ストーリーも『ある用務員』から磨きがかかっているように思います。
主人公の2人vsヤクザの人たち主に3人という、よりシンプルな骨格ながら、そこにリアルな現代の生活や空気感、そして女性映画としての視点も入ってきてより厚みが増したように感じます。

2人が寮を追い出されてアパートで生活を始めるってとこが結構細かく描かれていたり、バイトの面接とかも胡蝶はされつつヒリヒリするようなリアリティで描かれていて、今時の若者としては共感しっぱなし......と思ったけど、彼女らとはもう10歳違うんだと気づいてかなり凹みました。もう若者ぶって高校生に共感とかしてていい歳じゃねえんだよなぁ。
悪役のヤクザさんがかなり胸糞悪い奴なんだけど、クセが強いので胸糞を通り越して笑ってしまいます。フェミニズムみたいなことを口にしつつもめちゃくちゃ女性を蔑視しているあたりのキャラ造形が良いと思います。
その辺のメッセージ性についてまじめに論じようと思うと、ちょっとどうかと思うところもあるはあるんですけど......。まぁ、社会的なメッセージを込めていること自体がリアルなイマドキの空気感くらいに捉えてさらっと観ればいいと思います。

もはや特筆することもない気さえするくらいアクションもいつも通りめちゃくちゃ良いです。
ガンアクション多めでありつつしっかり肉弾戦もあり、最後はちょっと派手な武器も使ったりと、硬派なところは守りつつキャッチーにも寄せてる感じでいい塩梅。

低予算ながら、アクションの凄さにキャラの魅力も加わって一瞬たりとも退屈しない超絶娯楽映画に仕上がった傑作。
というか、『黄龍の村』は本作より後に作られたらしいですけど、比べると本作よりかなりクオリティが落ちている気がしますがどうなんでしょう(いや、あっちもめちゃ好きだけど)。

あ、あとラバーガールが結構好きなので出てて嬉しかったです。大水さんはちゃんとキャラ演じてたのに大水じゃない方の人はラバーガールのツッコミそのままで面白かった。


娼婦ケティ(1976)


主人公のケティとその一家はアムステルダムに移住するが、酷い貧困から抜け出せない。娼婦の姉が家計を支え、ケティも染物工場に働きに出るが......。


バーホー先生オランダ時代の初期作。
前作『危険な愛』から続投でモニク・ヴァン・デ・ヴェンが主演、ルトガー・ハウアーも脇役で出てます。

バーホーベンの作品ではわりと通底して男社会の中で生きなければならない、だからこそ、体は売っても魂は強く気高い女たち(と醜い男たち)が描かれていますが、本作はそれが特に顕著。
引っ越してきて新しい仕事をはじめたら新人いびりに遭ってと冒頭から結構胸糞悪い体験をするケティですが、負けずに刃向かっていってくれるから嫌な気持ちになりすぎないんですよね。なんか応援しながら見ちゃってわりと前向きなエネルギーが湧いてくる感じ。
もちろんタイトルの通り娼婦になっていく流れとかはさすがにしんどいですけど、それでも強かに生きていく様がかっこよすぎました。
後半から出てくるルトガーハウアーはなんかやけにファンシーな格好してて笑えます。
こういう一人の人間の半生を描いたドラマって好きなのかもしんないっす。


アンテベラム(2020)



アメリカ南部の荘園で奴隷として働かされる黒人たち。エデンは仲間の女性の死をきっかけに荘園からの脱走を計画するが......。


ジョーダン・ピールが監督だとばかり思い込んでたら勘違いでしたが、それはそれとしてめちゃくちゃ良かったです。

黒人女性が主人公で、人種差別と性差別をテーマにした社会派な部分もある一方、トリッキーな構成が魅力のスリラーでもあり、その構成を明かさないようにすると何も言えないんですけど、なかなかびっくりしましたね。
ツイストをかける時に、「え?どういうこと??」と一旦混乱させておいてから、だんだん状況を把握させる独特のぬるっと感が良かったです。
内容はシリアスなんだけど、よく考えると、いやよく考えなくても「いやいやいや、そんなことある??」って思っちゃうような大胆なアイデアに笑ってしまいました。久しぶりにあっと驚かされて楽しかったです!

今月のふぇいばりっと映画〜2022/1

今月の作品はこちら。
・マッドマックス/怒りのデス・ロード(2015)
・ナイト・オン・ザ・プラネット(1991)
・Summer of 85(2020)
・プロミシング・ヤング・ウーマン(2020)
・マリグナント(2021)




マッドマックス/怒りのデス・ロード(2015)


いわゆる「男臭い」アクションの皮を被った女性映画。

イモータンジョーという老人が支配する荒野の国。
そこでは男は代替可能の労働力として奴隷のように使われ、女は子供を産む機械として使われています。
そんな中、女将軍の主人公フュリオサはイモータンの妻である女性たちを連れて「緑の大地」へと逃亡を図るわけです。
しかし、タイトルはマッドマックス。マックスさんは一体何をするのかと言うと、あんま何もしないんすよね。
前半はずっと囚われて車に括り付けられてヒャッハーされてるだけだし、後半はバトルに参加するけど普通にフュリオサのが強いしカッコいい。
でも、じゃあマックスが要らない役なのかと言うと、これは要るんですよね。
フェミニズム運動とかに対して、男が「じゃあどうすりゃええねん」って思ってしまう、それへのアンサーの一つの形が本作のマックスなんだと思います。

驚くべきは、そうした現代社会を鋭く切り取ったテーマの深さを持ちながら、ストーリーラインはみんなが言うように「行って帰ってくるだけ」であり、しかもほぼ全編にわたって車で走ってるだけってとこですね。
もちろん冒頭で多少の説明はあるけど、世界観の作り込みに対して言葉による説明が極端に少なく、でも「観てれば分かる」という描き方が巧い。

そしてアクションがもうクソカッケェ。
深層のテーマを考えればなかなか悲惨な戦いなのですが、この際それは置いといて表層で秒でアガっちゃいます。
知らない間に早送りにしたかと思うくらいのスピード感だけど、撮り方が丁寧なのか、わちゃわちゃしてるわりに何が起きてるのかはたいたい把握できるのでのめり込んでしまいます。
全編カーチェイスとは言いましたがところどころで実は止まってるシーンもあり、でも比率が少ないから感覚としては常に動いてたって印象なんすよね。
ただ、本当に常に動いてたらアクションに飽きるし疲れるので、適度な休憩があることでむしろスピード感を増してるあたりもいい塩梅っすよね。
あとは出てくる物とかが全部良いです。
3歳児みたいなこと言うけどつえー車がいっぱい出てきてかっけー。炎のギタリストとかマジ最高っすよね。演出とかもだけど全てが絶妙にダサカッコよくてアツいっす。まぁその辺は私はあんまり興味ない部分ではあるんだけどそれでもすごかったので、そういうの好きな人が叫んでるのはわかる気がします。

そんな感じで、純粋な映像による快楽と、現代社会を風刺したテーマ性の両方が楽しめるので、実は万人ウケしそうというか、どっちかは刺さりそうな作品ですよね。
なんにしろ映画史に残るであろう新たな名作であり、公開時友達に誘われてたけど「えーアクションとかキョーミねえわ〜」とか言って観に行かなかった自分が情けないよ......。


ナイト・オン・ザ・プラネット(1991)


5つの大都市で、同じ瞬間にタクシー運転手と客の間で繰り広げられる会話劇を集めたオムニバスドラマ。

ジャームッシュわりと好きなんだけどどうしても長編だと途中でダレちゃうとこがあって、その点25分くらいずつのオムニバスである本作は(ミステリートレインとかも)適度にたらっと観られて良かったですね。
あるいは、お正月休み(2日間しかなかったけど)のうだうだした暮らしのリズム合っていたのもあり、非常に楽しめました。
来年も年始はジャームッシュ観ようかな。

ロサンゼルス、ニューヨーク、パリ、ローマ、ヘルシンキの5話。
個人的なお気に入り度では、ニューヨーク=パリ>ロサンゼルス>ローマ>ヘルシンキといった具合ですが、しかしどれも甲乙つけがたく、またバラエティ豊か。
「夜のタクシーの車内」まで同じなのにここまでバラバラな物語になってるのが凄い。
しかも、ローマは異色にしろ、どの話もこの場限りの出会いだからこそ普段は言わないことをちょっと話せちゃう、みたいなところや、哀しみを湛えながらも生きることを讃えるような話になってるとこは通底しています。
順番も、軽めのから入って異色のローマ、ヘビーなヘルシンキへという流れが綺麗でした。


各話一言ずつ感想。


L.A.

クリープハイプの曲に出てきた「ウィノナ・ライダーはタバコを咥えてる」が思ったよりベビースモーカーでびびりました。
実はシザーハンズくらいしか観たことなかったので、やさぐれウィノナって新鮮で魅力的でした。
お話は特に何かが起きるわけでもなく、ただ女2人話すだけなんだけど、女同士の共感と女同士の緊張感が緩急あって観ていて飽きません。おそらく「女でタクシー運転手なんて」と言って見下されることに慣れているでしょうが、それでも自分を持ってるコーキーの姿がカッコよく印象的でした。



N.Y.

このノリ、すげえ好き。
惚けた感じの運転も出来ない運転手(?)にマシンガントークでツッコミまくる家に帰りたい人。2人の微妙に噛み合わない会話が漫才みたいでとにかく面白い。ファックとファッキューとシットとファッキンとファックしか言わない喧嘩の場面とかも好きすぎます。ただ、一瞬の心温まるふれ合いの場面を描きつつも、行き場のない男(たち)の物語でもあり、終わり方にはやるせない余韻を感じてしまいます。せめてこの国でどこか居場所を見つけられますように。



パリ

巴里のアフリカ人であるドライバーと、盲目の女性客(ベアトリス・ダル)のお話。
自身も人種差別を受けているゆえの対抗意識なのか、ドライバーが「目が見えないってのは」みたいな感じでめちゃくちゃねほりんぱほりんするのにびびりつつ、切って捨てるように返すダル姐さんがカッコ良すぎて惚れてしまいます。
もう、顔だけで色気がヤバすぎる。恥ずかしながら屋敷女しか見たことないのでハサミ持って襲ってくる怖い人のイメージでしたが......これはベティブルーも観たいっすね。
最後の「馬鹿にしないでよ〜♪」つてとこ最高。プライドの持ち方が第一話のウィノナにも通じて、共に印象に残ります。



ローマ

アルジェントのせいでイタリアは変態猟奇の国だと思っているのですが、どうやら本当にそうみたいです()。
本作の5話の中で完全に異色作なのでどういう話かも書かないでおきますが、ロベルトベニーニがとにかく喋る喋る。乗客お構いなしで、繰り広げられるマシンガントークに圧倒されます。
ただ、他の話がそれぞれテーマ性やドラマを含んでいるのに対し、これは何が言いたいのかよく分かんなかったです。何かあるんだろうとは思うけど。



ヘルシンキ

舐めてた相手が実はあまりに悲しい経験をしていた系映画。
酔った男たちがしょーもない不幸自慢をし始めた時点で嫌な予感はしてたんだけど、これはつらいよ。嫌いとかじゃなくて、つらすぎての最下位なんです......。
それでも、救いはないし、話すことで楽になるってほど軽いことではないけど、それでもどこか優しい視線を感じさせる終わり方が好きです。


Summer of 85(2020)

Summer of 85(字幕版)

Summer of 85(字幕版)

  • フェリックス・ルフェーヴル
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16歳の少年アレックスはセイリングをしていて転覆したところを2つ年上のダヴィドに救われる。やがて2人は恋に落ちるが、間もなくダヴィドが事故死し......。


あえて真冬に夏の映画を。
80年代のファッションや音楽がキラキラしててめちゃくちゃエモかったです。というか、ザ・キュアーがキラキラしてますよね。あの曲使っとけばとりあえずキラキラしますよ。
いやいやしかしラブストーリーとしてもキラっキラでしたよ。
狂おしいほどの初恋。直接的にめちゃエロいシーンはそんなないけど、全編に生々しくも美しい色気が漂ってます。ディスコのシーンなんか最高でしたね。ああいう、わけわかんないことやって喜ぶのが初恋というものなのかもしれないですね。

それだけに、ダヴィドが死ぬあたり以降はしんどいです。恋人を喪う喪失感......だけではない、複雑な苦悩がリアルで、失ってからの方がより初恋って感じがして切なかったです。原作タイトルでもある墓の場面とかね。

という感じのラブストーリーなのですが、一方で冒頭からダヴィドが死んだ後の現代パートと回想の中の恋物語並行して描かれ、現代パートでは主人公が小説としてこの物語を書いている、というあんま知らんけどオゾン監督らしい『物語』というものをテーマにしたお話でもあります。
また、最初に結果がわかっていることで、どうしてそうなるのか?というミステリーの要素も出てて面白かったっす。

ただ、ラストはあれはどうなのかなぁ。物語というテーマとの兼ね合いなのかもしれないけど、あれはちょっとなぁ、と。

(ネタバレ→)私はアレックスの側に立って見てしまいましたが、いろんな相手と遊びたいというディヴィッドの主張もまたひとつの理屈てはあるんですよね。同じ価値観同士で付き合う分にはいいけど、ここがズレるとつらい。一途というのは嫉妬と独占欲のことでもあるんですね。
後半の女装したり墓で踊ったりという独りよがりな(なんせ相手が死んでるから余計に)行き場のない感情がエモいっすよね。恋をすると人は愚かになるけど、それを美しく描いてくれてて優しい。
ただ、ラストは吹っ切れるにしても早くないか?と。
いや、たぶんそのことにそこそこ納得しちゃう自分が嫌なのかもしれないですが。あんな大恋愛の後でもしれっと次の相手見つけるんかいってのがリアルで分かりみが強いので......。


プロミシング・ヤング・ウーマン(2020)


医大生でありながらとある出来事がきっかけで中退したキャシーは、夜な夜な酔ったふりをしては手を出してきた男に制裁を加えていたが、ある時医大で同期だった男と再開して......というお話。

「復讐エンターテイメント」という煽りがやや的外れな気がしますが、そういう先入観で観たら違ってて驚いたので逆に良かったのかもしれません。

あらすじやジャケ文を見れば分かるように性暴力や性搾取をテーマにした作品ですが、その描き方がとても冷静なので、逆に怒りがヒシヒシと伝わってきます。
主人公がやってることは、「復讐」というよりは、怒りを込めつつも「啓蒙」に近いんですよね。暴力に暴力をもって反撃しないから「やってること同じ」という批判は受け付けません。
出てくる男にも色々とバリエーションがあり、また男だけでなく二次加害などに加担した女も平等に処されていくのも、当然なんだけど新しいですよね。
街で引っ掛ける男はもうみんな反省しないっすよね。反省しない相手に説教していく徒労感がリアルでありつつ、その反省しなさが醜く、「ああなりたくはないな」と思わされるので観客への啓蒙は成功してるのもクレバーなやり口っす。

一方で偶然再会した元同級生の男とのベタなラブコメパートも並行して描かれます。が、ここでも2人の極端な身長差から、対等な恋愛関係のようでも男の側の匙加減ひとつで暴力による支配関係に転じてしまえるのが示唆されていてヒリヒリします。実際、そのバランスが崩れかける場面がポンと挿入されたりする辺りもエグいですね。

そして終盤ではとあるアイテムの登場で一気に話が転がっていく緩急もばっちしで、軽めの伏線回収っぽい要素もあって話の作り方が上手いなぁと思わされます。

また、ポップな音楽や色彩も素敵でした。詳しくないので分かりませんでしたが流れる曲にもそれぞれ意味があるらしいですね。
映画らしい誇張が少なくかなりリアルな問題提起となっている作品ですが、こうしたポップな演出がどこか寓話っぽさを出している気がします。
エンタメとしての面白さを備え、みだりに暴力的な描写は控え、まっとうに誠実に現代社会に切り込んだ傑作。
私もマジョリティ男性として冷や汗をかきつつこれからは悔い改めようと思わされました。


マリグナント(2021)


実はあんま好きじゃないジェームズ・ワン監督ですが、本作はなかなか面白かったです。
決定的なネタバレはしませんが展開には多少触れます。
前情報なしで観るべきと言われている作品なのでまだの方はまず見てみてほしいっす。


主人公のマディソンは悪夢の中で殺人の光景を目撃するようになる。そして、その殺人は現実にも起きていて......。

同時期に公開され似たような悪夢の設定、またホラー映画へのオマージュの強さという点から『ラストナイト・イン・ソーホー』と比較されることも多く気になっていました。
結論から言うと、ラストナイトの方が好きだけど、本作の方が面白かったです。

序盤は連続殺人鬼と夢で繋がってしまう主人公の恐怖を描くサイコスリラー&スラッシャーの味わいですが、そこからどんどん色んなジャンルを吸収しながら展開していくプログレッシブな娯楽作。とにかく先が読めなくて面白かったです。

ジャンルミックス的な面白さの中にも、主人公と妹、2人の刑事という少ない登場人物たちが犯人を追いかけるというシンプルなストーリーで筋が通っているので、予想を裏切りつつも話にはついていける親切設計。
クライマックスに入ってからはおそらく確信犯(誤用)的なバカさが最高で、ハイテンションにガーっとやってパッと終わる潔さに痺れました。

今月のふぇいばりっと映画〜2021/12

今月の作品はこちら。
・幸福(しあわせ)(1964)
・生きる(1952)




幸福(しあわせ)(1964)


ヌーヴェルバーグの人で女性監督の先駆的な存在でもあるらしいアニエス・ヴァルダ監督、初めて見ました。

ゴダールさんとかいくつか見て、映像カッコいいけどやっぱ眠くなっちゃうな〜とか思ってるシロートなので、これも面白いんだろうかと不安だったけど面白かったです、めちゃくちゃ。


主人公の男には妻と2人の子供がいて、冒頭で幸せそうな一家のピクニックの様子が映されますが、そこに咲く向日葵の首はがくりと落ちて今にも枯れそう。
分かりやすいくらい、妻との幸せな暮らしを夏に仮託して、そこに新しい季節(不倫相手)が現れて......といった具合に語られる不倫を描いたストーリー。
なんだけど、不倫を描いているわけじゃなくて、恋愛相手の代替可能性みたいなものとか。あるいは、恋愛とセックスと結婚を解体するような内容で、今見てもなお価値観を揺さぶられる物語です。
私の大好きで大嫌いな「(500)日のサマー」にも絶対影響を与えてますよね。知らないけど、絶対そう。

また、それより何より映像がすげえ好き。
監督のドヤ顔が思い浮かぶくらいバキバキにシャレオツ。赤い映画はよく見ますけど青い映画はあんま見たことないので新鮮でした。青を基調に、街並みからファッションから画面に映る全て計算され尽くしてるような色彩の美しさ。オープニングのサブリミナルや、セックスのシーンなどのアイデア映像も面白いです。

そんな感じで、観てる間は映像の美しさがとにかく楽しく、しかし後味は最悪というか、他人事とは思えない怖さがあって、忘れられないくらい強烈に印象に残ってしまう名作でした。


生きる(1952)


黒澤明の作品の中でも特に代表作と呼べそうな作品ですね。黒澤明自体あんま観てなかったので今更観ましたがめちゃくちゃ良かったです。

役所の市民課長として可もなく不可もなく長年勤めてきた渡辺だったが、ある日末期癌を宣告され、残された命で何かを残したいと願うようになる......。


主人公の渡辺課長を演じる志村喬の演技がこの作品の魅力のほとんど全てと言ってもいいのではないでしょうか。
あまりに不器用で、見ていてこっちがつらくなるような、あのたどたどしい話し方。絶望や恐怖が張り付いた表情。
彼が奮起する筋立ての話ではありつつ、その部分は実はあまり語られず、そこに至るまでの怯え悲しみ自棄になって目的もなくフラフラと彷徨う姿の方がよっぽど長く描かれて、その姿に、夜の海に落ちるような気持ちになります。
だからこそ、意外な構成で繰り広げられる後半での、憑かれたように公園作りに奔走する渡辺課長の姿に鬼気迫る美しさを感じます。

死を宣告されるまでの生きていながら生きていない渡辺課長に今の自分を重ねつつ、私だったらあと3ヶ月で死ぬと言われてもここまで執念を持って人生完全燃焼しようとも思えずに無為に終わりを待ちそうな気がして、こんな良い映画を見て感動はしてもそれを活かせない自分の怠惰に絶望的な気持ちになりますけどね。

まぁ絶望的な面についてばかり書きましたが、反面どことなくユーモラスな描写、特に渡辺課長が可愛くて微笑ましい瞬間なんかも結構あって、泣き笑いに感情を振り回されます。
また、システムというものへの批判と、それに対しての人間性の奪還のようなテーマもあり、日々上からの理不尽な指示に従う社会の歯車としては非常に共感できる部分もありました。

小さな個人の生き様と、大きな世の中への批判のどちらもに心動かされる傑作でした。

あ、あとは、途中に出てくるぬぼーっとした小説家のキャラがめちゃくちゃ良かったです。彼が主役の話も見てみたいくらいに。