偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

今月のふぇいばりっと映画〜2022/2-4


今回の作品はこちら。
アンダーグラウンド(1995)
・ベイビーわるきゅーれ(2021)
・娼婦ケティ(1976)
・アンテベラム(2020)



アンダーグラウンド(1995)


ドレスコーズっていう好きなバンドがいまして、その近作で『ジャズ』というアルバムがありまして、そのアルバムはロマ音楽を取り入れながらゆるやかに滅びゆく人類を描いたコンセプトアルバムなんですね。
で、インタビューでそのアルバムに本作の影響が色濃いと言っていたのを読んだのが本作を知ったきっかけだったと思います。
ただ、それとは別にTwitterで本作の中でも名場面と名高い空飛ぶ花嫁のシーンがバズってて、直接的にはそれで気になって観てみたわけでございます。


舞台は第二次大戦中のユーゴスラビア
ナチスドイツの侵略に抵抗する共産党員のマルコとクロという2人の男と、彼らを魅了するナタリアという女が主役です。

この国の激動の歴史については米澤穂信の『さよなら妖精』をかつて読んだのでなんとな〜〜くの薄いイメージだけはありましたが、それにしても壮絶な物語でした。
冒頭の、街が敵機に爆撃されるシーンからしてただならぬ良さがあります。
傷付き脱走する動物園の動物たち、セックスの途中の男女など、シリアスさとブラックなユーモアとファンタジックな映像という本作の魅力が最初から既にむんむんと匂ってきます。というか、ユーモアというよりドタバタコントですよねこれ。チャップリンとかドリフみたいな。最高。

音楽もオープニングから全開。
全編に渡ってロマ音楽が演奏され続けていますが、場面によってその印象は変わります。
ええじゃないか的な狂乱の大騒ぎに、抵抗のシンボルに、滑稽なBGMに、人生への祝祭にと、同じ音楽が物語の展開に応じて印象を変えながら、しかし通奏低音として常にそこにあり続けます。
最初から最後まで同じような音楽が流れていることで、最後まで見た時の「思えば遠くへ来たもんだ」という感が強まり、変わったものと変わらないものへの感慨も湧いてきます。

ストーリーは政治と戦争についてを主題としつつ、そこから恋愛や友情、人間という存在の善い面と悪い面みたいなところまで描き出されます。
また登場人物が多くて、脇役たちにもそれぞれの人生があることがしっかり描かれていて見応え抜群。
その中で、主役の3人の変化が主軸として描かれていきます。
特に印象的だったのはヒロインに当たるナタリアというキャラクター。
この時代、この国において主体的に生きることが出来なかった女性が、いわゆる女の武器を使ってその時々に優勢な男に媚びなきゃいけないという、それがコミカルに描かれています。その中で、若い時は時折、歳を重ねてからはほぼ常に憂いを帯びた虚しい表情をしています。
自国と敵国とか政治的思想とかいうもの自体への無関心というか、そういうものたちの争いの時代の最中にあってどちらからも顧みられない彼女、その争いがこの国ではずっと続き続けている......。
そんな彼女の人生に対するどうでもよさのようなものに、本作の登場人物の中でも1番惹きつけられてしまいました。
もちろん他にも地下で生まれた子と浮遊する花嫁(なんだそりゃ)や、動物園の青年など、印象的な人がたくさんいて、彼らはどうしているだろうか......などとたまに思い出してしまうくらいみんなリアルな存在感がありました。

そんな感じで、知識も感性もないのでかなり難しい映画でしたけどボケーっと観ててもめちゃくちゃ良かったし3時間もあったように思えないくらい面白かったです!


ベイビーわるきゅーれ(2021)


『ある用務員』の女子高生殺し屋コンビのリブートみたいな長編です。

高校を卒業した殺し屋のちさととまひろは社会勉強としてアルバイトをはじめさせられるが、面接で撃沈したり客にキレたりとなかなか上手くいかず......。一方、組員を暗殺されたヤクザが彼女らを狙い......。
といったあらすじ。


とにかく主演の2人が魅力的。それだけで最高!
喋れないコミュ障のまひろ(金髪ショートの方)と、しゃべるコミュ障のちさと(黒髪ロングの方)の、髪型同様対照的で、しかし似たもの同士な2人。
その似てる部分と違う部分とのギャップから喧嘩したりもするけど喧嘩の仕方もめちゃくちゃ可愛いです。その不器用さがめっちゃ分かるので、かなり入れ込んで見ちゃいましたね。
一緒に見た彼女はちさとちゃん派だったけど私は断然まひろちゃん派なので我々も殴り合いになりました。


2人のキャラだけでも見れるんだけど、ストーリーも『ある用務員』から磨きがかかっているように思います。
主人公の2人vsヤクザの人たち主に3人という、よりシンプルな骨格ながら、そこにリアルな現代の生活や空気感、そして女性映画としての視点も入ってきてより厚みが増したように感じます。

2人が寮を追い出されてアパートで生活を始めるってとこが結構細かく描かれていたり、バイトの面接とかも胡蝶はされつつヒリヒリするようなリアリティで描かれていて、今時の若者としては共感しっぱなし......と思ったけど、彼女らとはもう10歳違うんだと気づいてかなり凹みました。もう若者ぶって高校生に共感とかしてていい歳じゃねえんだよなぁ。
悪役のヤクザさんがかなり胸糞悪い奴なんだけど、クセが強いので胸糞を通り越して笑ってしまいます。フェミニズムみたいなことを口にしつつもめちゃくちゃ女性を蔑視しているあたりのキャラ造形が良いと思います。
その辺のメッセージ性についてまじめに論じようと思うと、ちょっとどうかと思うところもあるはあるんですけど......。まぁ、社会的なメッセージを込めていること自体がリアルなイマドキの空気感くらいに捉えてさらっと観ればいいと思います。

もはや特筆することもない気さえするくらいアクションもいつも通りめちゃくちゃ良いです。
ガンアクション多めでありつつしっかり肉弾戦もあり、最後はちょっと派手な武器も使ったりと、硬派なところは守りつつキャッチーにも寄せてる感じでいい塩梅。

低予算ながら、アクションの凄さにキャラの魅力も加わって一瞬たりとも退屈しない超絶娯楽映画に仕上がった傑作。
というか、『黄龍の村』は本作より後に作られたらしいですけど、比べると本作よりかなりクオリティが落ちている気がしますがどうなんでしょう(いや、あっちもめちゃ好きだけど)。

あ、あとラバーガールが結構好きなので出てて嬉しかったです。大水さんはちゃんとキャラ演じてたのに大水じゃない方の人はラバーガールのツッコミそのままで面白かった。


娼婦ケティ(1976)


主人公のケティとその一家はアムステルダムに移住するが、酷い貧困から抜け出せない。娼婦の姉が家計を支え、ケティも染物工場に働きに出るが......。


バーホー先生オランダ時代の初期作。
前作『危険な愛』から続投でモニク・ヴァン・デ・ヴェンが主演、ルトガー・ハウアーも脇役で出てます。

バーホーベンの作品ではわりと通底して男社会の中で生きなければならない、だからこそ、体は売っても魂は強く気高い女たち(と醜い男たち)が描かれていますが、本作はそれが特に顕著。
引っ越してきて新しい仕事をはじめたら新人いびりに遭ってと冒頭から結構胸糞悪い体験をするケティですが、負けずに刃向かっていってくれるから嫌な気持ちになりすぎないんですよね。なんか応援しながら見ちゃってわりと前向きなエネルギーが湧いてくる感じ。
もちろんタイトルの通り娼婦になっていく流れとかはさすがにしんどいですけど、それでも強かに生きていく様がかっこよすぎました。
後半から出てくるルトガーハウアーはなんかやけにファンシーな格好してて笑えます。
こういう一人の人間の半生を描いたドラマって好きなのかもしんないっす。


アンテベラム(2020)



アメリカ南部の荘園で奴隷として働かされる黒人たち。エデンは仲間の女性の死をきっかけに荘園からの脱走を計画するが......。


ジョーダン・ピールが監督だとばかり思い込んでたら勘違いでしたが、それはそれとしてめちゃくちゃ良かったです。

黒人女性が主人公で、人種差別と性差別をテーマにした社会派な部分もある一方、トリッキーな構成が魅力のスリラーでもあり、その構成を明かさないようにすると何も言えないんですけど、なかなかびっくりしましたね。
ツイストをかける時に、「え?どういうこと??」と一旦混乱させておいてから、だんだん状況を把握させる独特のぬるっと感が良かったです。
内容はシリアスなんだけど、よく考えると、いやよく考えなくても「いやいやいや、そんなことある??」って思っちゃうような大胆なアイデアに笑ってしまいました。久しぶりにあっと驚かされて楽しかったです!