偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

今月のふぇいばりっと映画〜2022/5-10

今回の作品はこちら。
・シン・ウルトラマン(2022)
・サマーフィルムにのって(2020)
・呪詛(2022)
アクロス・ザ・ユニバース(2007)


シン・ウルトラマン(2022)


どうしても較べちゃうけど、『シンゴジラ』は首都東京を襲う大災害をゴジラに仮託しテーマ的にも展開的にもシンプルでリアルな災害SFでした。
一方、本作はリアリティよりも外連味、シンプルさよりも猥雑さを押し出した怪奇幻想映画。
製作費がシンゴジの半分ほどらしいこともあり、どうしてもショボく感じてしまったり演出が変だったりして、正直なところシンゴジの方が100倍面白いとは思います。
思うんだけど、ただ私は本作のこのごちゃごちゃしててヘンテコなある種のB級っぽさお気楽な娯楽映画としての馬鹿馬鹿しさみたいなものに、綺麗に整ったシンゴジよりも謎の愛着は感じてしまいました。


突然現れた怪獣に対して国がどう対応するかみたいなくだりはシンゴジでもやったからとばかりに「これまでのあらすじ」としてバサバサと省略されてもういきなり美味しいところから入る身も蓋もなさがまずは楽しいですよね。
そんでウルトラマンが可愛いのよね。なんか、動きが可愛いし、人間を守ってるんだってところの健気さとかがとても可愛い。

ストーリーはわりと連ドラの総集編みたいにいろんなエピソードがツギハギされてる感じで、そこが賛否両論あるんだと思うけど、個人的にはあの次々と奇妙なことが怒っていく白昼夢のジェットコースターに乗せられているような感覚が堪らなかったです。
煽り人間顔どアップアングルとかもそういう奇妙な夢のようなシュールな気持ち悪さがありました。
ラストも、そんな奇妙な夢から覚めたような、でもまだ夢の中にいるかのような余韻を残しつつ米津が玄師してて米津ファンなのでフツーにイっちゃいました。
怪獣の造型についてはなんかちょっとハイテク感がありすぎてもうちょいナマモノっぽくてもって感じはしたけどまぁでもカッコよかったです。子供の頃は毎日怪獣図鑑を持ち歩いてたので。

あとはじめて斎藤工かっこいいなと思った。


サマーフィルムにのって(2020)

それは夏だったり、
または恋だったり、
全部が映画のワンシーン
君と過ごす日々こそが大事。



......いやもう、最っ高でしたね。
邦画の低予算の青春映画としては完璧な気がする。

先に言ってしまうと、主題歌のCody・Lee(李)による「異星人と熱帯夜」が去年Apple Musicで一番聴いたし、スピッツを除けば大学卒業以降に出た曲で1番好きくらいまであるので、この曲が使われてる時点で無駄に加点されてる気もするのですがそこはもう許してほしい。
キリンジの「エイリアンズ」自体大大大好きだしきのこ帝国の「クロノスタシス」も大大大好きなので、その辺へのオマージュを感じさせつつより軽やかに夏の切なくも多幸感溢れるキラキラしたサウンドと歌詞のこの曲が大大大好きじゃないはずはないんだもの。
むしろこの曲が好きすぎて他のコディーリーの曲のどれを聴いても好きだけど異星人ほどじゃないな、と思ってしまうくらい好き。いやでもコディーリーのデビューアルバムはめちゃ良かったのでみんなマジで聴いてください。

何の話だ。
本作は高校の映画研究会に所属する少女「ハダシ」が主人公。
私の高校の映研は部活に昇格するのがやっとくらいの人数で細々とやってましたが、本作の映研は嘘でしょってくらいの大所帯。
それだけに、文化祭で撮る一本を決めるためにコンペまであって、それに破れたハダシ監督が独自に仲間を集めて文化祭でゲリラ上映するために映画を作りはじめるっていう導入がもう激アツ。
序盤は時代劇オタクの主人公のオタクっぷりや、『少林サッカー』みたいに仲間を集めてチームを作るけどなかなか上手くいかない......みたいな感じ。細かい写り込みとか、夏とはいえ業後から日暮れまでの短い時間しか撮れなかったりとか、高校映研あるあるが面白かったです。
人間ドラマとしては、正直なところ恋愛要素いるか......❓❓とは思ってしまいました。観ていて映画への愛は伝わるけど彼を好きになる理由の方はいまいち伝わって来ず、なんだか唐突に感じられてしまいました。失恋大好きマンなのでむしろ負けヒロインちゃんの方に共感して泣きそうになりました。というか負けヒロインちゃんめちゃくちゃ顔が良かった。美しすぎる。
一方、みんなで楽しくワイワイ、ライバルへの対抗意識でメラメラ、煮詰まって気まずくなっちゃう時もありつつ一つの目標に向かって頑張るってとこは素晴らしいっす。クラスに友達いなくたって文化祭ガチ勢になれるんやぞっていう、まぁそれは私の高校時代の話ですけど、そんな感じでエモい。
最後がなぁ、恋愛部分を押し出してきてるのでちょっとつらかったですね。まぁでも総じてエモかったし何とも言うけど主題歌が流れ出した時点でセツ泣き確定なので観終わった後の満足感は凄かったです! 


呪詛(2022)

https://filmarks.com/movies/103023


なんかTwitterで話題が沸騰してたので観てみました。

一度は手放した娘を再び引き取ることを決意したシングルマザーの主人公が娘に降りかかった呪いを解こうとする......というのが主軸のストーリー。そこに、3人組のYouTuberの男女がヤバそうな村の儀式を動画に撮るっていうサブストーリーが交錯するモキュメンタリー系ホラー。

こういう作品で2つの話が並行して語られる形式なのが新鮮に感じました。
母親のパートは、とりあえず娘の呪いを解こうとしているらしい......というのは分かるものの、何故呪われたのか?何の呪いなのか?などがまるっきり分からないまま意味深なものばかりが出てきてホワットダニット的な興味で観られます。
一方のYouTuberパートの方が『コンジアム』みたいにストレートに「ヤバい場所」に行く!という分かりやすい流れで、この対照的ながら「呪い」というワードだけで繋がっている2つの話がどう絡んでくるのか......?というミステリっぽい謎が見どころの一つです。

そしてホラーとしては、母親のパートは日常生活の中に怖いものがぬるっと入り込んでくるような感じ。
一方、YouTuberパートは日本に似たところもありつつちょっと違う台湾の村や寺院のエキゾチックなロケーションそのものが怖くも魅力的。
どちらのパートも音とかで怖がらせるような演出も使いつつ、虫とか歯とか髪とかよく分からないながら生理的な気持ち悪さや悍ましさを感じさせる怖がらせ方が主体になっててじわじわと来るものがありました。終盤に向かうにつれてより深刻さと言うか、禁忌感と言いますか、要は「ヤベえ」感じが増していくのが素晴らしい。
また、本作の主役と呼んでも過言ではない娘役の子がめちゃくちゃ演技上手かったのでかなり没入して観ることが出来ました。
ただ、最後の方がちょっとだけもたついたというか、冗長な気がしないでもなかったかなぁ、というのはあります。
ある程度のところまで来ればオチは分かってはしまうので、そこからは焦らさずにパパッと畳んで欲しかったかな、という感じ。
あと、POV的に娘がそんな状況なのにカメラ回す?みたいなツッコミどころはわりとあるかも。

とはいえ、日本に近いところもあるからこそ逆に異界っぽさが強烈で、一つ一つの怪異の映像もインパクトがありとても面白かったです。
実を言うと本作を観てから、宝くじの一等が当たり持病の肩こり腰痛も治って彼女が5人出来たので、幸せになりたい人はぜひ観るといいと思います。分かったな?絶対観ろよ?


アクロス・ザ・ユニバース(2007)


タイトルで気になって観てみたら、ビートルズの楽曲30曲以上を出演者によるカバーとして使用したミュージカル映画で、ビートルズがこんだけかかる時点でもう無条件に好きではあるんすよね。


舞台はベトナム戦争の頃のアメリカ。
母を捨てた実の父親を探しにイギリスからやってきた主人公のジュードは、父の働く大学でマックスという男とその妹ルーシーに出逢う。
すぐにルーシーと恋に落ちるジュードだが、やがてマックスの元に召集令状が来て......。


というわけで、マニアというほどじゃないけど自分なりに大好きなビートルズが使われてるだけでテンションぶち上げなんだけど、その使い方が面白かったです。
普通ミュージカル映画や音楽映画って、ストーリーがあってそこに合わせて曲を作るパターンが多いと思います。しかし、本作はまず「ビートルズの曲を使いたい!」というのがあって、既存の歌詞に当てはめて話を展開させてる感じなんですよね。
だから、この曲を使いたいがためにこの展開......というような歪さがあるんだけど、そこが逆に愛おしいんですよね。

そして、ビートルズの活動時期と同時代のアメリカを舞台にして、全体のストーリー構成でビートルズというバンドの歴史をなぞっているのも良いですね。
ラブストーリー(ラブソング)にはじまり、やがてベトナム戦争が始まってサイケに向かい、ジュードとルーシー(メンバー間)の軋轢もありつつも「愛こそすべて」と平和へのメッセージを打ち出す......という、まぁざっくりですけどビートルズというバンドの歩みを思わせる構成なんですよね。
ただ、中盤のサイケパートあたりはやや中弛みに感じられるのも事実。曲がいいから観てて楽しいけどね。
あと、キャラの名前も主役のジュードとルーシーをはじめ、ビートルズの曲名に付いてる人名はほとんど網羅してんじゃないかってくらい全員ビートルズ由来のネーミングで、その安直さが微笑ましいです。

そんで、歌が良いんですよね。
ビートルズの原曲を使うのは版権的にも色々難しいらしいけど、本作のキャストたちによるカバーは、ストーリーとの絡み方も相まって原曲とはまた違った魅力を放っていて最高です。
例えば、序盤でレズビアンのプルーデンスが恋する相手が男と話しているのを見つめながら歌うバラード調の「アイワナホーヂョーヘン」や、ゴスペル風味の「レリビー」、ドスの効いた女性ボーカルで原曲以上に激しい「ヘルタースケルター」など、歌詞の解釈を変えると/アレンジを変えると/他の人が歌うとこうなるんだ!というカバーならではの楽しさが全編に散りばめられているわけです。

そして、ラストで使われるあの曲。
まぁ、あの曲がトリを飾りそうなのはなんとなく分かりますけど、最後の最後であの曲のあの部分をああやって使うのはキマりすぎてて爆笑してしまいました。笑いながら、このめくるめく愛の物語の余韻を噛み締めてじわじわと泣けてくる、素晴らしい終わり方。
サントラもサブスクにあって聞けるので嬉しいんだけど、尺の都合で劇中で歌われる全曲の半数くらいしか入ってないのが残念。また観なきゃってコトね。