偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

今月のふぇいばりっと映画〜2022/1

今月の作品はこちら。
・マッドマックス/怒りのデス・ロード(2015)
・ナイト・オン・ザ・プラネット(1991)
・Summer of 85(2020)
・プロミシング・ヤング・ウーマン(2020)
・マリグナント(2021)




マッドマックス/怒りのデス・ロード(2015)


いわゆる「男臭い」アクションの皮を被った女性映画。

イモータンジョーという老人が支配する荒野の国。
そこでは男は代替可能の労働力として奴隷のように使われ、女は子供を産む機械として使われています。
そんな中、女将軍の主人公フュリオサはイモータンの妻である女性たちを連れて「緑の大地」へと逃亡を図るわけです。
しかし、タイトルはマッドマックス。マックスさんは一体何をするのかと言うと、あんま何もしないんすよね。
前半はずっと囚われて車に括り付けられてヒャッハーされてるだけだし、後半はバトルに参加するけど普通にフュリオサのが強いしカッコいい。
でも、じゃあマックスが要らない役なのかと言うと、これは要るんですよね。
フェミニズム運動とかに対して、男が「じゃあどうすりゃええねん」って思ってしまう、それへのアンサーの一つの形が本作のマックスなんだと思います。

驚くべきは、そうした現代社会を鋭く切り取ったテーマの深さを持ちながら、ストーリーラインはみんなが言うように「行って帰ってくるだけ」であり、しかもほぼ全編にわたって車で走ってるだけってとこですね。
もちろん冒頭で多少の説明はあるけど、世界観の作り込みに対して言葉による説明が極端に少なく、でも「観てれば分かる」という描き方が巧い。

そしてアクションがもうクソカッケェ。
深層のテーマを考えればなかなか悲惨な戦いなのですが、この際それは置いといて表層で秒でアガっちゃいます。
知らない間に早送りにしたかと思うくらいのスピード感だけど、撮り方が丁寧なのか、わちゃわちゃしてるわりに何が起きてるのかはたいたい把握できるのでのめり込んでしまいます。
全編カーチェイスとは言いましたがところどころで実は止まってるシーンもあり、でも比率が少ないから感覚としては常に動いてたって印象なんすよね。
ただ、本当に常に動いてたらアクションに飽きるし疲れるので、適度な休憩があることでむしろスピード感を増してるあたりもいい塩梅っすよね。
あとは出てくる物とかが全部良いです。
3歳児みたいなこと言うけどつえー車がいっぱい出てきてかっけー。炎のギタリストとかマジ最高っすよね。演出とかもだけど全てが絶妙にダサカッコよくてアツいっす。まぁその辺は私はあんまり興味ない部分ではあるんだけどそれでもすごかったので、そういうの好きな人が叫んでるのはわかる気がします。

そんな感じで、純粋な映像による快楽と、現代社会を風刺したテーマ性の両方が楽しめるので、実は万人ウケしそうというか、どっちかは刺さりそうな作品ですよね。
なんにしろ映画史に残るであろう新たな名作であり、公開時友達に誘われてたけど「えーアクションとかキョーミねえわ〜」とか言って観に行かなかった自分が情けないよ......。


ナイト・オン・ザ・プラネット(1991)


5つの大都市で、同じ瞬間にタクシー運転手と客の間で繰り広げられる会話劇を集めたオムニバスドラマ。

ジャームッシュわりと好きなんだけどどうしても長編だと途中でダレちゃうとこがあって、その点25分くらいずつのオムニバスである本作は(ミステリートレインとかも)適度にたらっと観られて良かったですね。
あるいは、お正月休み(2日間しかなかったけど)のうだうだした暮らしのリズム合っていたのもあり、非常に楽しめました。
来年も年始はジャームッシュ観ようかな。

ロサンゼルス、ニューヨーク、パリ、ローマ、ヘルシンキの5話。
個人的なお気に入り度では、ニューヨーク=パリ>ロサンゼルス>ローマ>ヘルシンキといった具合ですが、しかしどれも甲乙つけがたく、またバラエティ豊か。
「夜のタクシーの車内」まで同じなのにここまでバラバラな物語になってるのが凄い。
しかも、ローマは異色にしろ、どの話もこの場限りの出会いだからこそ普段は言わないことをちょっと話せちゃう、みたいなところや、哀しみを湛えながらも生きることを讃えるような話になってるとこは通底しています。
順番も、軽めのから入って異色のローマ、ヘビーなヘルシンキへという流れが綺麗でした。


各話一言ずつ感想。


L.A.

クリープハイプの曲に出てきた「ウィノナ・ライダーはタバコを咥えてる」が思ったよりベビースモーカーでびびりました。
実はシザーハンズくらいしか観たことなかったので、やさぐれウィノナって新鮮で魅力的でした。
お話は特に何かが起きるわけでもなく、ただ女2人話すだけなんだけど、女同士の共感と女同士の緊張感が緩急あって観ていて飽きません。おそらく「女でタクシー運転手なんて」と言って見下されることに慣れているでしょうが、それでも自分を持ってるコーキーの姿がカッコよく印象的でした。



N.Y.

このノリ、すげえ好き。
惚けた感じの運転も出来ない運転手(?)にマシンガントークでツッコミまくる家に帰りたい人。2人の微妙に噛み合わない会話が漫才みたいでとにかく面白い。ファックとファッキューとシットとファッキンとファックしか言わない喧嘩の場面とかも好きすぎます。ただ、一瞬の心温まるふれ合いの場面を描きつつも、行き場のない男(たち)の物語でもあり、終わり方にはやるせない余韻を感じてしまいます。せめてこの国でどこか居場所を見つけられますように。



パリ

巴里のアフリカ人であるドライバーと、盲目の女性客(ベアトリス・ダル)のお話。
自身も人種差別を受けているゆえの対抗意識なのか、ドライバーが「目が見えないってのは」みたいな感じでめちゃくちゃねほりんぱほりんするのにびびりつつ、切って捨てるように返すダル姐さんがカッコ良すぎて惚れてしまいます。
もう、顔だけで色気がヤバすぎる。恥ずかしながら屋敷女しか見たことないのでハサミ持って襲ってくる怖い人のイメージでしたが......これはベティブルーも観たいっすね。
最後の「馬鹿にしないでよ〜♪」つてとこ最高。プライドの持ち方が第一話のウィノナにも通じて、共に印象に残ります。



ローマ

アルジェントのせいでイタリアは変態猟奇の国だと思っているのですが、どうやら本当にそうみたいです()。
本作の5話の中で完全に異色作なのでどういう話かも書かないでおきますが、ロベルトベニーニがとにかく喋る喋る。乗客お構いなしで、繰り広げられるマシンガントークに圧倒されます。
ただ、他の話がそれぞれテーマ性やドラマを含んでいるのに対し、これは何が言いたいのかよく分かんなかったです。何かあるんだろうとは思うけど。



ヘルシンキ

舐めてた相手が実はあまりに悲しい経験をしていた系映画。
酔った男たちがしょーもない不幸自慢をし始めた時点で嫌な予感はしてたんだけど、これはつらいよ。嫌いとかじゃなくて、つらすぎての最下位なんです......。
それでも、救いはないし、話すことで楽になるってほど軽いことではないけど、それでもどこか優しい視線を感じさせる終わり方が好きです。


Summer of 85(2020)

Summer of 85(字幕版)

Summer of 85(字幕版)

  • フェリックス・ルフェーヴル
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16歳の少年アレックスはセイリングをしていて転覆したところを2つ年上のダヴィドに救われる。やがて2人は恋に落ちるが、間もなくダヴィドが事故死し......。


あえて真冬に夏の映画を。
80年代のファッションや音楽がキラキラしててめちゃくちゃエモかったです。というか、ザ・キュアーがキラキラしてますよね。あの曲使っとけばとりあえずキラキラしますよ。
いやいやしかしラブストーリーとしてもキラっキラでしたよ。
狂おしいほどの初恋。直接的にめちゃエロいシーンはそんなないけど、全編に生々しくも美しい色気が漂ってます。ディスコのシーンなんか最高でしたね。ああいう、わけわかんないことやって喜ぶのが初恋というものなのかもしれないですね。

それだけに、ダヴィドが死ぬあたり以降はしんどいです。恋人を喪う喪失感......だけではない、複雑な苦悩がリアルで、失ってからの方がより初恋って感じがして切なかったです。原作タイトルでもある墓の場面とかね。

という感じのラブストーリーなのですが、一方で冒頭からダヴィドが死んだ後の現代パートと回想の中の恋物語並行して描かれ、現代パートでは主人公が小説としてこの物語を書いている、というあんま知らんけどオゾン監督らしい『物語』というものをテーマにしたお話でもあります。
また、最初に結果がわかっていることで、どうしてそうなるのか?というミステリーの要素も出てて面白かったっす。

ただ、ラストはあれはどうなのかなぁ。物語というテーマとの兼ね合いなのかもしれないけど、あれはちょっとなぁ、と。

(ネタバレ→)私はアレックスの側に立って見てしまいましたが、いろんな相手と遊びたいというディヴィッドの主張もまたひとつの理屈てはあるんですよね。同じ価値観同士で付き合う分にはいいけど、ここがズレるとつらい。一途というのは嫉妬と独占欲のことでもあるんですね。
後半の女装したり墓で踊ったりという独りよがりな(なんせ相手が死んでるから余計に)行き場のない感情がエモいっすよね。恋をすると人は愚かになるけど、それを美しく描いてくれてて優しい。
ただ、ラストは吹っ切れるにしても早くないか?と。
いや、たぶんそのことにそこそこ納得しちゃう自分が嫌なのかもしれないですが。あんな大恋愛の後でもしれっと次の相手見つけるんかいってのがリアルで分かりみが強いので......。


プロミシング・ヤング・ウーマン(2020)


医大生でありながらとある出来事がきっかけで中退したキャシーは、夜な夜な酔ったふりをしては手を出してきた男に制裁を加えていたが、ある時医大で同期だった男と再開して......というお話。

「復讐エンターテイメント」という煽りがやや的外れな気がしますが、そういう先入観で観たら違ってて驚いたので逆に良かったのかもしれません。

あらすじやジャケ文を見れば分かるように性暴力や性搾取をテーマにした作品ですが、その描き方がとても冷静なので、逆に怒りがヒシヒシと伝わってきます。
主人公がやってることは、「復讐」というよりは、怒りを込めつつも「啓蒙」に近いんですよね。暴力に暴力をもって反撃しないから「やってること同じ」という批判は受け付けません。
出てくる男にも色々とバリエーションがあり、また男だけでなく二次加害などに加担した女も平等に処されていくのも、当然なんだけど新しいですよね。
街で引っ掛ける男はもうみんな反省しないっすよね。反省しない相手に説教していく徒労感がリアルでありつつ、その反省しなさが醜く、「ああなりたくはないな」と思わされるので観客への啓蒙は成功してるのもクレバーなやり口っす。

一方で偶然再会した元同級生の男とのベタなラブコメパートも並行して描かれます。が、ここでも2人の極端な身長差から、対等な恋愛関係のようでも男の側の匙加減ひとつで暴力による支配関係に転じてしまえるのが示唆されていてヒリヒリします。実際、そのバランスが崩れかける場面がポンと挿入されたりする辺りもエグいですね。

そして終盤ではとあるアイテムの登場で一気に話が転がっていく緩急もばっちしで、軽めの伏線回収っぽい要素もあって話の作り方が上手いなぁと思わされます。

また、ポップな音楽や色彩も素敵でした。詳しくないので分かりませんでしたが流れる曲にもそれぞれ意味があるらしいですね。
映画らしい誇張が少なくかなりリアルな問題提起となっている作品ですが、こうしたポップな演出がどこか寓話っぽさを出している気がします。
エンタメとしての面白さを備え、みだりに暴力的な描写は控え、まっとうに誠実に現代社会に切り込んだ傑作。
私もマジョリティ男性として冷や汗をかきつつこれからは悔い改めようと思わされました。


マリグナント(2021)


実はあんま好きじゃないジェームズ・ワン監督ですが、本作はなかなか面白かったです。
決定的なネタバレはしませんが展開には多少触れます。
前情報なしで観るべきと言われている作品なのでまだの方はまず見てみてほしいっす。


主人公のマディソンは悪夢の中で殺人の光景を目撃するようになる。そして、その殺人は現実にも起きていて......。

同時期に公開され似たような悪夢の設定、またホラー映画へのオマージュの強さという点から『ラストナイト・イン・ソーホー』と比較されることも多く気になっていました。
結論から言うと、ラストナイトの方が好きだけど、本作の方が面白かったです。

序盤は連続殺人鬼と夢で繋がってしまう主人公の恐怖を描くサイコスリラー&スラッシャーの味わいですが、そこからどんどん色んなジャンルを吸収しながら展開していくプログレッシブな娯楽作。とにかく先が読めなくて面白かったです。

ジャンルミックス的な面白さの中にも、主人公と妹、2人の刑事という少ない登場人物たちが犯人を追いかけるというシンプルなストーリーで筋が通っているので、予想を裏切りつつも話にはついていける親切設計。
クライマックスに入ってからはおそらく確信犯(誤用)的なバカさが最高で、ハイテンションにガーっとやってパッと終わる潔さに痺れました。