偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

山田正紀『囮捜査官 北見志穂3 荒川嬰児誘拐』感想

シリーズ第3弾。
「聴覚」がテーマとなり、誘拐モノ+多重人格を扱うサイコスリラーというこれまた異色作になっています。
というかこのシリーズ、「囮捜査官」らしい異色じゃない作品って1作目くらいなのでは......。


前作で色々あって落ち込んでる志穂でしたが、嬰児誘拐の犯人に名指しされて、一億円の身代金を運ぶことになり......というお話!

ここまでのシリーズの中ではダントツで好きです。完全に好みにドンピシャなんよね。
まず全体に漂う雰囲気がまるで京極夏彦(うぶめの夏とか)。そこにちょっと西澤保彦(のドロドロ系のやつ)。
または山田正紀の作品で言えば『妖鳥』にもかなり近い雰囲気がありますよね。
『妖鳥』が1999年、本作は1996年の作品なので、本作が『妖鳥』のプロトタイプみたいなものなのかもしれません。
夏の暑さの中で起こる誘拐事件。犯人の狡猾さによって翻弄される警察。まるで白昼夢の中にいるように、今回は信頼できない語り手ならぬ「信頼できない主人公」として彼岸と此岸の間をぷらぷらしているような北見志穂。
一方で袴田や伊原も含めて事件関係者の男たちの存在感が希薄なのも特徴的ですね。
また、誘拐された嬰児の親が出てこないのもかなり異様で、誘拐された子供自体が何かの暗喩のようにさえ感じられるのも本作の現実感のなさの一因になっているように思います。

しかし、そうした幻想的な雰囲気を持ちつつも、ミステリとしてはいつも通り、いやいつも以上に盛りだくさんな詰め込み具合。
まずは犯人のやり口や要求自体が警察の想定を超えるもので、それだけで面白く、誘拐パートはスピーディーに進んでいきます。
そこから、時系列は過去へと遡り、志穂が捜査官としての復帰戦に謎めいた自殺を遂げた女性について調べるパートが始まります。こっちでは、カウンセラーとの対話や、政治とカネをめぐる問題などが入ってきてやはり幻惑されます。
そして誘拐パートに戻れば相変わらず犯人の狙いは読めず、過去パートではまたどんどん志穂の様子がおかしくなっていき......といった具合に、ほんとにちゃんと解決するのか?と思っちゃわんばかりの謎の連打で息つく暇もありません。
もはや謎の提示だけでも満腹なくらい面白いんですが、その解決にもめちゃくちゃたくさんのアイデアが盛り込まれていて、且つそれが全て真犯人の存在感へと収束していくので悪い意味での詰め込み過ぎ感もないです。

そうして、あくまで現実的にミステリとしてしっかり謎は解かれるのですが、その現実と終章に描かれる幻想との温度差によって生み出される蜃気楼のような読後感がとても印象的でした。
ミステリとしての面白さだけでも凄いけど、そのテーマとの絡め方もさらに凄い大傑作です。
今のところシリーズではダントツで好きっすね。

では以下ネタバレで少しだけ。








































志穂が多重人格じゃないだろうとは(まぁ主人公ですし)わかっちゃってたんですけど、それにしても古き良き物理トリックまで使って誘導した犯人の狡猾さと執念に空恐ろしくなります。
さらに、それが3人分ってのがなんとも異様で......。
自殺とされる不審死を遂げた女、誘拐事件の実行犯である女、そして主人公の北見志穂......。
いわば被害者と犯人と探偵が全員"真犯人"によって操られていた......という、大胆な「操り」モノなんですよね。

そんな感じで役者が全員女性なんだけど、真犯人が語る異様な動機は男性中心の社会から産まれたもので......。男のキャラが背景となってしまっているからこそ、3人の女を操った真犯人もまた男社会の掌の上に乗せられていたという不条理な構図が強調されていて凄いと思います。

笹沢左保『突然の明日』感想

特選の笹沢左保100連発第3弾。


銀行勤めの父、主婦の母と、大学生から社会人までの男2人女2人兄弟からなる、平凡ながら幸せな小山田家。
ある晩の食卓で、長男の晴光が白昼の交差点で一瞬にして消失した女の話をする。
翌日、晴光自殺の報が小山田家に届く。しかも、同じ頃に同じ場所で起きた殺人事件の容疑者と目されて。
兄が人を殺せるはずがないと信じる次女の涼子は、父や晴光の友人と協力して事件の真相を探るが......。



当時の絵に描いたような平凡な家庭の姿から始まる本作。
今となってはこの家庭は上流階級にしか見えないのがつらいところではありますね。

白昼の人間消失は不思議ではあるものの目撃者が1人だけでしかも故人なのでいかようにも解釈できて謎としてはやや弱いです。
また、一家の長男が殺人の容疑をかけられたまま死ぬというのも地味っちゃ地味。
ただ、そんな謎の地味さを補って余りあるのが調査パートの魅力。
片や、生真面目な父親が壊れゆく家庭を取り戻して息子の無実を証明するために......片や、負けん気の強い次女が"突然の明日"に抗うために、協力して事件の解決に乗り出すというのがエモい。
特に次女涼子のパートでは兄の友達への恋心とか恋のライバル登場⁉️とかの昭和なラブロマンスも展開されて懐かしくてふふふってなっちゃいます。今とは貞操観念とかが違ってて面白い。

また、九州宮崎と東京を行き来して物語が展開するので、旅情ものみたいな面白さもあります。といっても観光しに行くわけじゃないのでホテルや旅館が主なんですが、コロナ禍の今となってはホテルというもの自体が懐かしく感じてしまいます。

ミステリとしては、真相の意外性はそこまでだし、トリックも今回はそんなに切れ味鋭くない気はしましたが、伏線の張り方とタイトルの回収はさすがとしか言いようがないです。
特に(ネタバレ→)ケロイドのある女性が伏線だったのが印象的。(ネタバレ→) 火事に関しては伏線感が見え見えすぎて絶対何かあるとは思っちゃいましたが。
特選からのこれまでの2作「招かれざる客」「空白の起点」はどちらも過去を指すタイトルだったのに対し、今回は未来を指しています。とはいえ、運命に翻弄される人間の悲哀をタイトルの一言に凝縮している点では共通していて、笹沢左保のこの辺の作品のタイトルセンスはすげえ好きです。

そんな感じで、前の2作品が良すぎて、相対的にミステリとしても人間ドラマとしても若干の物足りなさを感じてしまったのは否めませんが、それでもやっぱり面白かったっす。笹沢左保好きやわ。

私の読書履歴書その5

承前。

4年生の中頃に一回フラれた後なんやかんや他の誰かと付き合うってことになった私。
しかし本を読むのにかまけて就活を一切やっていなかったので、履歴書さえ書ければ受かるようなブラックめの会社にしか入れず。
知り合いからなんでそんなとこにはいるのと言われたのはもちろん、初対面の友達の友達にまでそういうことを言われてけっこう凹みました。
付き合ってることになってた相手の方は人間レベル標準以上だったので、私のような下層階級の人間と恋人になったり、まして結婚したりなんて出来ないことは告白する前から分かっていましたが、案の定東久邇宮稔彦内閣くらいの短命に終わり、その後今の彼女と付き合い始めるまでは暗黒時代を迎えます。
Twitterのフォロワー諸氏はご存知の通り、地獄の失恋吟遊詩人になるわけですね。

この辺りから、実を言うとミステリ熱はちょっと落ち着いてきて、その代わり恋愛ものや青春もののなるべく暗いやつを読み漁ったり、本よりむしろ失恋映画を観たりってことをするようになるわけです。

こころ (新潮文庫)

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小説だとこの辺↑

(500)日のサマー (字幕版)

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  • マシュー・グレイ・ガブラー
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映画だとこの辺↑

......そんな感じで恋愛というものの不可能性についての考察をライフワークにしていたのが、このブログを開設した2017年5月ごろ以降のこと。
それからかれこれもうすぐ5周年。前身サイトから数えると9年以上、よう続いてますよ。

閑話休題

フラれたことを丸一年引きずっていましたが、今の彼女になんかめっちゃ遊びに誘われて何回か遊んだ流れで付き合うことになりました。
彼女は人間レベルも私と同じで低めなので今回は大丈夫と思いつつ、それでも結婚とかを考えると自分のような低賃金のややブラック企業勤めで子供も作りたくない人間と、女ってのは普通結婚したくないものだろうという鬱屈があり。
その時期にハマったのが、浦賀和宏小川勝己の2人。
どちらもリビドーとルサンチマンの作家で、私のようにゴミみたいな行き着くところまで行って全てをぶち壊していく作風に魂を抉られていました。



そうこうするうち、2020年7月に仕事で昇進と異動があり、新職場ではそもそも拘束時間が長い上に肩書きがついてしまったことで自分のダメさがバシバシと突きつけられ、軽い鬱状態になって毎日死ぬことばかり考えていました。
今思えば常に頭のどこかに自殺の2文字が
死にたい時に読んだのはこれ。宝物みたいな一冊です。


そこからやや持ち直したと思ったら、今度は彼女に結婚する気がないなら別れましょうさよなら!と捨てられてしまい、またもや大ピンチ!
......というところから、まぁ結婚しましょうということになって、翌2021年の1月から同居を始めます。
そして同年7月にめでたく結婚させていただきました。ありがとうございます😊

そしてその後はまぁ特に何事もなく今に至る感じですね。
最近はもうちょっと世の中のこととか人生のことに関心を持とうと思い、小説だけじゃなくて色んなジャンルの本を読もうと思ってます。



また、小説の方における1番のマイブームはやっぱりトクマの特選っすね。

気になってたけど読む機会がなかった作家や、読む機会以前に本が売ってなかった作家のアレやコレをどんどん復刊してくれてて、現状全部買ってるしこれからも全部読むつもりなくらい信用してる叢書です。ただ、これにかまけて最近他の小説を全く読めてないのが悩みどころ......。
といった感じで、とりあえずこれが私の2022年現在までの読書履歴書になります。
長々とお付き合いいただきありがとうございました。また何年か経って読書傾向が大きく変わったりしたら更新するかもしれませんが、とりあえずこれにて完!

私の読書履歴書 その4

承前。

かくして(名古屋では)誰もが(名前くらいは)知る(私の実力にしては)難関大学に合格した私でしたが、高校3年間のブランクは大きく、免許返上したみたいに全然出来ませんでした。友達が。

なんせ前回友達を作ったのは中学1年生の時。それから6年経ってますからね。人になんて話しかければ良いのか、みんなが知らない本をたくさん知ってる博学な私が下々の人たちと何を話せば良いのか!?と悩んでるうちに友達作る期間を過ぎてしまいました。

しかし今回は高校と違うことがあったのです。
そう、大学ではクラスとかも(週一のゼミしか)ないし1人でいてもそんなに浮かない!
ひゃっほーとばかりに、入学オリエンテーションの時間にはもう元気に『猿丸幻視行』を読んでました。

それでも友達いないの悲しいので部活に入ったよ。
高校までもやってた映研が大学にもあったので見に行ったら可愛い先輩がいたので入りました。
そして他所に友達がいないせいで部活にどんどん入り浸ってしまうのですが、それはまた別のお話。

読書に関していえば、これもやはり大学時代は楽園でしたね。
なんせ教室が広いから後ろの方で本読んでれるし、行き帰りも電車が長いので本読めるし、朝は遅いから夜更かしして本読めるし、といった具合。大学4年間は年間100〜150冊くらいは読んでたと思います。

そして、大きかったのがTwitterをはじめたことっすね。
高校時代から好きで読んでいた書評サイト「黄金の羊毛亭」のSAKATAMさんをフォローして、彼の主催するエアミス研に入ったら、当時はまだ少なかった会員の方々が続々とフォローしてくれて......。
スマホを持ち始めたばかりということもあり、オナニーを知った猿みたいにずっとTwitterをやり続けていました(今もやけど)。
それまでは身近にミステリ好きな知り合いがいなくて、少なくとも愛知県の10代では私が一番ミステリに詳しいんじゃないかと思っていましたが、まさに井の中の蛙
大人の方々はもちろん、同世代でも煮豆さんなど私なんか比較にならんくらい詳しい人たちがいっぱいいて、話が通じる楽しさと、自分がただの雑魚だと知ったつらさがないまぜになりつつどんどんのめり込んでいきました。

そして、今思えば浅はかですが、Twitterで少しでも通ぶりたいという気持ちもあり、なるべく変な作品、マニアックな作家を読もうとしていたこともありました。

飛鳥部勝則積木鏡介、門前典之に、飛鳥井士郎、園田修一郎、はたまたラノベ奇書と呼ばれるこんな作品群。

[asin:B09P4W3L6Q:detail]


また他方では、それまで信仰していた新本格より前のミステリにも面白いものがあるらしいってんで、泡坂妻夫連城三紀彦、さらに遡って横溝正史江戸川乱歩なども読んでいったり。

また、オフ会も暇な大学生のことで泊まりも含めて頻繁にやってて、その都度みんなから本をもらえたり買ったりして色々勧められて読む、という今に至る流れが出来上がって行ったのもこの時期ですね。


他にも時期によってテーマを決めて本を読むことも多く、「角川ホラー特集」や「メフィスト賞全制覇計画(ぜんぜん未完ですが)」などいろいろやりましたね。

4年生の時は「戦中の探偵小説」で卒論を書いていたこともあり、浜尾四郎小栗虫太郎甲賀三郎海野十三などの作家も結構読みました。特に海野十三の今読んでも斬新すぎる奇想と、浜尾四郎の今読んでもエモい恋愛描写にはかなりハマってましたね。

そんで、4年生の中頃に、大学生活の思い出作りのために失恋して、その時からようやくなんかちょっとだけ人間の心が分かったようなつもりになってミステリ以外の文学作品とかも読むようになるんだけど、それはどっちかというと働き始めてからのことなのでまた今度書きます。

大学はそんな感。それではばいちゃ!

ビートルズのベスト10を考えた。 裏編

ラバー・ソウル

ラバー・ソウル

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↑アルバムで1番を選べと言われたらめちゃくちゃ悩みつつもこれを挙げるかなぁ、というラバーソウル。



というわけで引き続き、今回は赤盤青盤収録ではない曲から選んだ裏編です。
表編が長くなったので、こっちはさくっとやっていきます。早速10位からいくぜ!



10.I'll Follow The Sun

フォーセール収録。

朝の小川のせせらぎを眺めるような、穏やかで軽快で美しいギターとリズムと歌とメロディ。
爽やかで美しいのに切なさを感じるのは、コード進行とかがそういうふうにできているのか、私が勝手に美しい川の景色に儚さを重ねているのか?いや、そもそも川の歌なのかどうかも知らねえけど凄く川っぽい音だよね。Sunっていってるし太陽の歌かな。


9.You Know My Name

パスト2収録。

アルバムを1枚目から順番に聞いていって、最後にパストマスターズを聴いて、その中でも最後の曲がこれであることに、奇妙な感慨と愉快さを覚えました。その思いでも込みでの評価にはなってしまいますが......。
公式録音とされる曲たちの中で1番最後に、こんなふざけてるみたいな肩の力を抜いて遊び心に振り切ったような、それでいてそこにちゃんと知性や芸術性を感じさせる、意外なんだけど最後にナンバリングされるのにある意味相応しいとも言えそうな曲なんですよね。
とにかくイントロのいかにも終わりに相応しい、少しのもの悲しさと、やりきったような清々しさを感じさせる音が好きで、そこから誰が歌ってるんだよってような、酔っぱらいのカラオケみたいな歌声にびっくりさせられてると、まだまだ序の口よとばかりに誰が言ってるのかも分からない語りと歌の間みたいな声が入ってきつつなんか後ろで合いの手入れてる人がいるしオモチャみたいな音してるし、なんかここはどこで私は何を聴かされているのか分からないけど祝祭が始まったような心地よい混沌に身を委ねてなんなんだこれはと思いながら聴いてしまいます。
なんなんだこれは。


8.P.S. I Love You

プリーズプリーズミー収録。

なんかもう、特にコメントも不要なくらい、シンプルに良い曲。
シンプルなところが良い曲。
一応コメントしとくと、なんつーか地味でサビもそんなサビってほどでもない気がするくらいの曲なのに抑えた中にエモさがあるのが好きですね。ゆ〜ゆ〜ゆ〜〜のところの中毒性。
同名の映画が良かったのでそのイメージも重なって余計にエモいです。


7.She's Leaving Home

Sgtペパー収録。

なんでもスピッツに喩えて恐縮ですが、スピッツの『オーロラになれなかった人のために』に入っていそうな、静かにして壮大にストリングスを効かせた曲です。というか、めちゃくちゃ似てるのでたぶんスピッツは影響受けてるよね。
サビの、タイトルをファルセットでゆったり言いながら後ろで誰かがなんか言ってるところとかもめちゃくちゃ良い(雑すぎてよさが伝わらねえ)。
何かこう、手を触れてはいけないくらいの畏怖すら感じさせる美しさです。


6.Here , There And Everywhere

リボルバー収録。

美しいといえば、この曲もビートルズの美メロランキングがあったらトップ狙える器ですよね。
ぽろーんっていうギターとコーラスが印象的な歌い出し。すぐに「Here〜」ってくだりに入ってここがめちゃくちゃ良いんだけど、その後さらにもう一つ展開してそこもめちゃくちゃ良い。めちゃくちゃ良いしか言ってないけど。
同じ美しいという形容でも、シーズリーヴィングホームの崇高さに比べてこの曲は生活感というか、日常の中でふと空を見上げたりした時のようなすっと心に沁みてくるような美しさですね。
とにかくコーラスとギターが良いんじゃ。


5.I Want You(She's So Heavy)

アビーロード収録。

印象的なアルペジオギターと、もう1本のギターはギャンギャン泣いててそこにベースが絡むイントロからして最高なんですけど、中身も全ての音が頂点を極めた、ビートルズのロック方面での完成系のような曲なんじゃないかと思う。
サビで特にだけどメロディアスにうねるベースラインもめちゃくちゃ良いし、もちろん曲の主役であるギターの音も最高だし、気怠げだけどところどころでバシッと決めてくるドラムも良いし、アイウォンチュ〜〜だけをうだうだ叫び続ける太いヴォーカルも良いし(イェーッッ!!のとこ最高)、「ヘビ〜」のところのコーラスの輪唱も最高なんだよ!!!
アンニュイで深刻げなムードも堪らん。こういういい具合に陰気な曲好きやねん。
でもこの後のヒアカムズザサンで救われた気持ちにはなる。
ちなみにフジファブリックがカバーしてて、最初はそれで知ったんですよね。そのことも思い入れの一因。


4.I Saw Her Standing There

プリーズプリーズミー収録。

9位のユーノウマイネームがビートルズ公式録音カタログの最後の曲、そしてこの曲は最初の曲です。
1、2、3、フォオ!!!という威勢のいいカウントからして、今聴くとですけど伝説がここから幕を開けたんだという感慨だけでもうエモさMAX。曲自体ノリが良くてとにかく聴いてると何も考えずに飛び跳ねて踊りまくりたくなるテンションぶち上げ曲でありまして、そこに後から思えばのビートルズストーリーの開幕という意味付けでさらに特別な位置付けにもなって、納得せざるを得ない第4位ですね。まぁ俺が作ったランキングだから納得もクソもないけど。


3.Because

アビーロード収録。

アビーロードでアイウォンチューの後でヒアカムズザサンに救われたかと思いきや、アイウォンチューよりさらに陰気な、もう沈鬱と言ってもいいくらいのこの曲が来るので本当に嫌な気持ちになります。
イントロのアルペジオといい、コーラスが良いところといい、アイウォンチューに近い部分も多いんだけど、あっちはブルーズ感が強かったのに対してこっちはもっとなんかこう、荘厳な感じ。お葬式とかで流しても怒られなさそうなくらいの。
てか、コーラスがいいなんてレベルじゃない。コーラスが、慣用表現としてではなくて本当に最も高いという意味でビートルズの全曲の中でも最高なんじゃねえの?
歌詞も中学生でもさすがにほぼ分かるくらいの簡単な英単語で出来ているのに何度聴いても読みきれない文学性というか、哲学的な内容になっています。

愛は全て、愛は君
空が青いから、僕は泣く

そういえば、井上陽水に「愛は君」って曲があるけど、ビートルズファンだしここから取ってるのかな。

ビートルズが7年で解散したのは惜しいとも思ってしまいますが、ここまで完成された曲が作れるようになってしまってはもうこの先に道はないでしょ。ポップミュージックはもうこの曲で終わってる。この曲以降の音楽は全て惰性です。


2.Free As a Bird

アンソロジー1収録。

あまりにも多くの伝説を残して、漫画の主人公だったら「さすがにリアリティねえよ」って批判されそうなくらいに伝説なバンドの、幻の未発表曲として発表された曲。それも、殺されたジョンが残した未完の曲に残りのメンバーが演奏をつけて"新曲"として発表したらしいですから、その経緯だけでもう否応なく特別な感情を抱かざるを得ないわけですが......。
それは置いといても曲がいい。
出た時の批評家からの評価は地味とか何とかって高くなかったらしいですが、何があかんのか分からん。
タイトルの「フリーアズアバード」ってとこのメロディがすごく良くって、それだけでもう大好き。ジョンっぽい感じの、ポールみたいな美メロではないけど頭にこびりついて離れないメロディ。
ビートルズをリアタイで追っていて、解散もジョンの死も見て、その上でこれを聴いてたらぜったい号泣してた。その辺のリアタイの熱狂を知らないのが惜しいし悔しい。生まれてくるのが遅すぎた。


1.Black Bird

ホワイトアルバム収録。

正直どの曲が誰のとかそんなに意識してないけど、どっちかと言えばジョン派な私。
しかし、ビートルズで一番好きな曲はと聴かれると「一つには決めれないけど〜」と言いつつ、この曲とアクロスザユニバースを挙げるんですよね。
この2曲、それぞれジョンとポールの完成系みたいな曲たちではあるので、ある意味一貫性はあるのかもしれんけど。
人づてに聞いた噂なのでどこまで本当か分かんないけどホワイトアルバムのレコーディング中にポールがささっと作って靴で床を叩きながらギター弾き語りして一人で作った曲らしい。
それを一位に挙げるのもどうかとは思うけど、好きなんだよね。
孤独な黒い鳥が誇り高く空を飛ぶ光景を思い浮かべて聴いていましたが、ブラックバードとは黒人女性のことで、公民権運動への応援の歌らしいと後から知りました。
そう聞くとより一層歌詞の誠実さも感じでいい曲に聴こえてくるからなぁ。
まぁでも、こういう静かな弾き語りっぽい曲が好きなだけです。もちろん、他の曲がバンドでやってる中でのこれ、という側面もあるので、他の名曲たちもあった上でですけど。
まぁ、要は全部好きっすね、ってことよ。
ビートルズ最高!!!フォーエバー!!!(雑だけど眠いので終わります静聴ありがとう)

ビートルズのベスト10を考えた。 表編



なんだか心がざわざわしてあまり何も手につかない1日だったのでビートルズを聴いていました。
ビートルズとの付き合いは産まれる前からで、胎教として聴かされていたし、私が生まれた瞬間にも聴いていたらしいし、記憶にある範囲では幼稚園の頃とかに毎日家で流れてて、もちろん歌詞はわかんないけどなんか適当に毎日歌ってました。
そんな感じで、スピッツよりもアジカンよりも川谷絵音よりも遥かに付き合いの長いバンドなんですよね。
だからなんか気分が塞いでる時とかでも楽しい時とかやる気出したい時とかドライブに行く時とか、どんな時でも1番気持ちが上がる、帰ってくる場所みたいな位置付けなんです。実はね。

とはいえ、子供の頃は赤盤青盤ばっかりで、ちゃんと聴き始めたのは大学から大人になるまでにかけてなんですね。
だから一応公式録音と言われる曲は全部聴いたことはあるけど、ガチで思い入れでランキング作るとベストの曲ばっかのめちゃにわか臭いランキングになっちゃう。
なので、今回は青盤赤盤収録曲のベスト10と、それ以外の隠れた名曲(まぁビートルズクラスだとそれでも有名曲になっちゃうけど)のベスト10を作ってみました。
まずこの「表編」では赤盤青盤からの10曲を紹介します。

本当はフォロワーの僕の猫舎さんみたいにさらっとでも全アルバムの感想とか書きたいんだけど、まぁ歌詞も分からんし好きな曲以外はそんなに聴き込んでもいないのでとりあえずはこんくらいの雑企画で行きます!そのうち聴き込みながらちゃんと書いてみたいけど。


それでは、前置きが長くなりましたが10位からやってくぜ!



10.Here Comes the Sun

オリジナルアルバムではアビーロードに収録。
ジョージの代表曲で、ジョージが亡くなったときにスピッツが「優しくなりたいな」のイントロに引用してオマージュしています。
子供の頃からとにかく凄くワクワクするというか、ウキウキするというか、タイトルは日の出だけど、私の中では時間で言うと朝の11時くらいの、1日が始まって少し経ったけどまだ午前中だ!っていう嬉しさを感じる曲です。
メロディもだけど、ギターの音色自体がもうめちゃくちゃ美しく爽やか。アルバムで聞くとアイウォンチューというタイトル通りヘビーな曲の後にこのイントロが流れ出して凄く救われた気分になるんですよね。その後またビコーズとかいう陰気な曲が始まってウンザリするんだけど......。


9.Eleanor Rigby

リボルバー収録。
イントロの仰々しいストリングスの音が子供の頃には物珍しく感じ、何だか分からないけど深刻な感じがしてビシッとしながら聴いちゃいます。
でも歌詞のファザーマッケンジーのことは間健二(はざまけんじ)っていう日本人男性のことを歌ってるんだと思ってました。
バンドサウンドが全く出てこなくてほんとにストリングスと歌だけなんだけど、ロックバンドの曲として違和感なく聴けてしまうから不思議ですね。
サウンドは壮大な割に結構短くて最後あっさり終わるところも好き。


8.All My Loving

ウィズ・ザ・ビートルズ収録。
数少ないカラオケで歌える曲の一つです。
そして今回のランキング、赤盤と青盤の割合やアルバムごとのバラツキは狙ってないけどわりと均等になりましたが、初期と呼ばれる時期の曲は実はこれくらいかも。
歌えるからいっつも歌うのでそれで思い入れが強いのもあります。
軽快で切なくも優しさも感じさせるメロディとサウンドに包み込まれて心地いい。サブスク時代のトレンドである歌始まり、間奏アウトロ短め、曲自体短めという特徴を持っているので今からでもバズれる曲です。でも一瞬の間奏がめちゃくちゃカッコよくて印象的。
このランキング初期の曲が少ないと書きましたが、初期の変に実験的なことせずにシンプルにメロディと演奏の気持ちよさだけを感じられるところもめちゃ好きで、どの時期が好きかと聞かれたら意外と初期ですかね〜って答えると思います。


7.Michelle

ラバーソール収録。
子供の頃から陰気な子供だったのでハローグッバイとかみたいな明るい感じの曲よりもこういう切なさや哀愁の漂う陰のある曲が好きでした。
子供ながらに、音楽を聴いて胸を締め付けられるような感覚を味わわされた、初恋よりも前に感じた初恋のような気持ち。
イントロからしてもう何歳の時に作ったんだってくらい人生悟ったような哀愁がえぐい。激しくないけど位置が結構動くベースの音と、サビのコーラスとアイラビューアイウォンチュー繰り返しあたりや最後のところだけ力の入る歌の魅力もグンバツ


6.Yesterday

ヘルプ収録。
昨日、恋は簡単なゲームだった、今日僕は隠れる場所を探してる......なぜ彼女は行ってしまったのか、知らない、彼女は何も言わなかった......みたいな簡単な英語なんだけど凄く沁みる歌詞が魅力的。これ、失恋の歌だと思ってたらネタ元は母親のことらしくて驚きました。失恋の曲にしても真摯な響きを感じるのはその辺が要因なのか。
ベースとギターのシンプルすぎるのに印象的なイントロ、ファーストバースの弾き語りみたいな中で声が空間に広がっていくような録音、そこからストリングスを邪魔にならない程度に上品に取り入れて少しずつだけ派手になっていくあたりのアレンジのバランスも絶妙すぎる。
終わり方とかも潔くも一抹の未練を残して完璧すぎる。
この曲からタイトルをとったリチャードカーティスの「イエスタデイ」という映画もゴミだけどゲロエモで聴くと思い出しちゃいます。


5.In My Life

ラバーソール収録。
前述の映画「イエスタデイ」でビートルズの曲がエド・シーランに見出されるきっかけとなった曲です。
イントロのギターのワンフレーズ、これだけでもうポピュラーミュージックの歴史に永遠に名を刻んでも良いくらいの美しさ。
「忘れられない場所がある」とはじまって「人生で、誰より君を愛してる」と結ばれる、生活の中で等身大の真摯な愛を歌ってるっぽい歌詞がまた(ちゃんと読めてるか分かんないけど)素晴らしい。
そして何より間奏が、これはもうビートルズでも最も有名で偉大な間奏なんじゃねえの?
毛皮のマリーズっていう大好きなバンドが「平和」という曲で丸パクリしてて、それとの相乗効果もあって余計すぎなんだけど。穏やかなバンドサウンドの中で間奏のピアノだけがちょっと激しく早いっていうのが良いですよね。
これも終わり方が良いし、ビートルズが1番終わり方が好きなバンドかも知れん。


4.The Long and Winding Load

レットイットビー収録。
普段の自分の好みならば絶対好きじゃない曲なんですよね。こういう王道すぎるバラード自体あんまり好きじゃないし、アレンジもなんか24時間テレビみたいな感じがして(押し付けがましく泣かせようとしてくる感じ)引いてしまう......はずなんだけど、これでまんまと泣かされてしまうからなぁ。
ポール本人はこの仰々しいアレンジが嫌いで後から「レットイットビーネイキッド」というバンドサウンド以外のアレンジを排したバージョンが出てたりもして、そっちもめちゃくちゃ良いんだけどね。
何度となく聴いたはずなんだけど、なんか習い事の帰りの車の中で聴いていた印象が強いです。もしかして夜だからってことで親が静かなこの曲を選んで流していたのかもしれません。
田舎の夜の町の、まばらな民家の灯りが車の窓の外を流れていく風景を、子供ながらに東京の煌びやかな夜景よりもずっと綺麗だと思いながら、なにか世界の平和を願うような大きな気持ちになって聴いていました。今でもそう思う。


3.Strawberry Fields Forever

マジカルミステリツアー収録。
イントロのシンセ?のふぉっふぉっふぉっふぉっふおっふぉーふぉーふぉーっていう音からしてもう、良さみがつおい〜〜🥺以外の感情を吹き飛ばされるくらい良さがある曲。
切なく物悲しく哀愁があるけどどこか楽しくなってしまう気もするし、壮大なようでもあり卑近なようでもあり、超然としてるけど寄り添ってくれるようでもあり、感情のバリエーションを全ておもちゃ箱をひっくり返したようにぶちまけられてしまうような魔力のある恐ろしく不思議な曲です。
初期のビートルズはアウトロが潔いのでおなじみでしたが、この曲に至っては一回終わったかと思ったらなんかもう一回戻ってきて「あれ、なんか忘れ物でもしたの?」って言いたくなっちゃう、そんなところも可愛いよね。


2.We Can Work It Out

パストマスターズ2収録。
オリジナルアルバムに入ってないので聴き逃しがちな曲ですが、偏愛しています。
何が良いかっていうともう、本当に一点だけ、ヴァースをポールが、コーラスをジョンが書いてるらしくて別々の曲をくっつけたみたいになるところがとにかく好きなんですよ。
ポップな感じで始まったのにいきなりマイナーチェンジして「ライフイズベリーショート」なんて言い出す展開の奇抜さに惚れたんです。コーラスの中でもさらにリズムチェンジとかもしてるし。
んで、人生短いってジョンが言うとまた説得力ありますしね......。
残念だけど、短い人生の中で、そしてビートルズの短い活動期間の中でこれだけ数多くの名曲を残してるのは神すぎる。てかビートルズって7年しかやってないんでしょ?私が700年人生やっても追いつかない7年ですよ。
ジョンとポールという単体でもデカすぎる2つの才能がせめぎ合い融合し合うことでビートルズのあり得ないような名曲群が生まれた......ということを端的に表している曲でもありますしね。
奇跡なんてダサいことを軽々しく言いたくないけど、ビートルズの存在は奇跡でしかなかった。


1.Across the Universe

そして、一位はこれ。
レットイットビー収録。
最後のアルバムに入ってるからという偏見から、余計に意味深長に聴こえてしまう気がしますが、それを置いといても、ほんとに宇宙の神秘......なんてダサい言い方で嫌ですけど、それくらいの神々しさ、同じ人間がこんなものを作れるのかという驚き、魔力があります。
歌詞の内容はほとんど分からないので文脈も知らないんだけど、とりあえず「Nothing's gonna change my world」という歌詞は、「私以外私じゃないの」と並んで座右の銘の一つです。
一人で早朝か夕方辺りに散歩しながら物思いに浸りながら聴きたいですね。
ちなみにネイキッドにはシンプルなアレンジのバージョン、パストマスターズには鳥の声とオノヨーコの声が入ったバージョンが収録されていて甲乙つけ難いです。
あと、デヴィッド・ボウイが妙に力んだ歌い方でカバーしていて、そっちはそっちでボウイの歌の魅力が出てるけどこの曲のイメージと乖離しすぎてていまいち好きになれません。



という感じで、私にとって特別なバンドなのでいつか何かしら書きたいと思ってたビートルズについてでした。
後で裏編も書いて載せるのでちょい待ち。

高橋源一郎『誰にも相談できません みんなのなやみ ぼくのこたえ』感想

最近ハマってる高橋源一郎の人生相談の本です。

先にひとつだけ文句を言っておくと、あとがきで著者自身も文句を言ってますが、やはり短すぎる気がします。
一つの相談が見開き1ページにまとめられているので、相談内容自体も縮められているし、答えも一般論の域に止まりがちで、もうちょっと著者ならではのアドバイスをがっつり読みたいかな、という気がしちゃいます。


とはいえ、内容はやっぱり好きです。
うん、この高橋っておじさん、好きかも///

いや、真面目な話、著者の相談に応える姿勢は、基本は優しく穏やかで、時にお茶目に、時には厳しいことも言ってて、短い分量でも回答することへの真摯さが伝わってきます。だから、この人モテるんだろうなって思うし、私自身もぞっこん惚れてしまうわけです。
相談内容は家族に関するものが多く、親が干渉してくるとか、逆に子供に干渉しすぎてしまうとかいうものが多かったように感じます。
その中で語られる、親の理想的なあり方についての話が特に印象に残りました。
あと、個人的には「職業に貴賎なし」という意味のことを高橋さんの言葉で実感を込めて語ってくれているのにとても救われました。他の人に言われても綺麗事に聞こえてしまってダメなので......。

全体に、悩みへの短期的な対症療法ではなく、悩みの出どころへの注意を促して自ら乗り越えるためのヒントを囁いてくれる感じのスタンスが素敵です。

以前読んだ人生相談の本とはまた違った語り口で、これも凄く良かったです。
お仕事忙しい時にはこうやって人生相談をちびちび読むのもアリですね。