偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

法月綸太郎『頼子のために』

「娘の頼子が殺された。犯人に復讐して自分も死ぬ」という内容の手記を書き、それを実行した父親だが、自殺は未遂に終わる。とある陰謀に巻き込まれて事件を再調査する法月綸太郎は、手記の記述を基に驚くべき事件の真相に迫って行く......。

新装版 頼子のために (講談社文庫)

新装版 頼子のために (講談社文庫)


法月綸太郎シリーズ3作目ですが、これまでと読み心地が変わった気がします。どう変わったのか?身も蓋もない言い方をするなら、ストーリーが面白くなったように感じました。と言ってもこの作品は学生時代に書いた中編をリライトしたものらしいので、作品数を重ねて小説が上手くなったというわけではないのかも知れませんが。

まず頼子の父親の手記から始まり、いきなり激しめの内容が続くので物語に入りやすいです。そして、手記の内容で話が完結しているように見えるところから、綸太郎がどのように調査を進めて行くのかというのも見所で、クセの強い関係者への聞き込みもスリリングで面白かったです。このように、物語に惹き付けるのが上手くなって、今までになく読みやすいと感じました 。

そして真相ももちろん凄かったです。予想外とか言うよりも、予想したくもないエグさで、後味の悪いミステリとしてよく名前が上がるのも納得です。分量も短くシンプルな話ながら最後でここまで意外性の連打を見せてくれて、それが忘れがたい物語に結実しては、これはもう傑作と呼ぶしかないではありませんか。はい、傑作です。